第15話 焼け跡と“捨てられた殻” ~残された痕跡が語るもの~
三人は凪人の後を追い、
人混みを抜けて町外れへ向かっていた。
喧騒が遠ざかる。
海沿いの道へ出た、その瞬間――。
ヒカルは足を止めた。
「……なんだ、ここ」
風が吹いていない。
潮の匂いもしない。
海だけが、静かに息を潜めていた。
背筋へ冷たいものが走る。
嵐も周囲を見回した。
「……変だな」
弁が前方を指さす。
「おい、あれ」
そこには、黒く焼けた地面が広がっていた。
だが――。
村の焼け跡とは違う。
破壊の熱も。
暴れ回った痕跡もない。
ただ。
“何かが終わった”あとだけが、静かに残されていた。
ヒカルは息をのむ。
「ここも……襲われたのか……?」
凪人は答えず、焼け跡へ膝をついた。
灰を指先ですくい、静かに目を細める。
「……違う」
低い声だった。
「これは、“奴ら”の焼き方じゃない」
三人が顔を上げる。
凪人は焦げ跡の中央へ手を伸ばした。
そこに落ちていたのは――。
黒く焼けた、“殻”のようなものだった。
殻。
そう呼ぶには、あまりにも硬い。
石にも見える。
鉄にも見える。
だが、そのどちらでもない。
ヒカルは思わず息を止めた。
それは、妙に冷たかった。
まるで、海の底から拾い上げたものみたいに。
「……生き物の、骨……?」
ヒカルが小さくつぶやく。
凪人はゆっくり首を振った。
「わからん」
その声は珍しく曖昧だった。
「だが……海の気配がする」
ヒカルの胸がざわつく。
凪人は“殻”を見つめたまま続ける。
「海は時々、わけのわからんものを残す」
潮のない風が、静かに吹き抜ける。
「これは、その“痕跡”かもしれん」
ヒカルは黙って“殻”を見つめた。
生き物にも見える。
人工物にも見える。
なのに、そのどちらでもない気がした。
ただ――。
この場所の静けさと、同じ気配をまとっている。
凪人が低く言う。
「だが、ひとつだけ確かなことがある」
その視線が、焼け跡の先へ向いた。
「――ここには、生きて逃げた者がいる」
ヒカルの心臓が跳ねた。
父さん。
母さん。
村のみんな。
そして――クレア。
名前を思い浮かべた瞬間、胸の奥が強く締めつけられる。
声が出ない。
熱だけが込み上げる。
涙は落ちそうなのに、落ちきれず、まぶたの裏で震えていた。
「……生きてる……かもしれない……」
その言葉を口にした瞬間。
押し込めていた願いが、初めて形になった。
頬を、一筋の涙が静かに伝う。
世界から音が消える。
波の音すら、遠い。
ヒカルの鼓動だけが、胸の奥で静かに響いていた。
その沈黙の中で。
凪人がゆっくりとうなずく。
「“奴ら”なら、跡形も残さない」
低い声が落ちる。
「だが、ここには“逃げた痕跡”がある」
凪人は“殻”を握ったまま続けた。
「誰かがここで踏ん張り、生き延びた」
ヒカルの指先が小さく震える。
胸の奥へ、ほんの小さな光が灯った。
「……探そう」
声はまだ弱い。
それでも確かだった。
「絶対に」
凪人は静かに立ち上がる。
そして海の方角へ目を向けた。
「手がかりはまだある。行くぞ」
ヒカルは深く息を吸う。
恐怖は、まだ消えない。
けれどその奥で――。
小さな希望が、確かに灯り始めていた。
※掲載しているイラストはAIを用いて制作しています。
キャラクターや情景のイメージは作者が考案し、描画はAIによるものです。




