第14話 海の気配 ~胸の奥を揺らす呼び声~
潮風の町の中心へ近づくにつれ、
人々の声はさらに大きくなっていった。
商人の呼び声。
船乗りたちの笑い声。
魚を運ぶ音。
港町の熱気が、波のように押し寄せてくる。
その中で――。
ヒカルは、ふいに足を止めた。
「……あれ?」
弁と嵐が振り返る。
ヒカルは胸元を押さえた。
胸の奥が、静かにざわついている。
痛みではない。
けれど――。
何かが、そっと触れたような感覚だった。
「ヒカル、どうした」
弁の声が低くなる。
「いや……なんか、変なんだ」
「変って、どういうことだ?」
うまく言葉にできない。
胸の奥へ、誰かの想いだけが、一瞬流れ込んできたような‥‥‥。
そんな奇妙な感覚だった。
嵐が周囲を見回す。
「人が多すぎて酔ったんじゃねぇの?」
ヒカルは小さく首を振る。
「違う……」
そして、ゆっくり海の方を見る。
「もっと……海に近い感じがする」
その瞬間。
凪人が、そっとヒカルの肩へ手を置いた。
――ザァァァ……
不意に。
町の喧騒が遠のいた。
波の音だけが、はっきり耳へ届く。
凪人が静かに立ち止まる。
その目が、鋭く海の方角を見つめていた。
「……風が止んだな」
嵐が空を見上げる。
さっきまで揺れていた旗が、ぴたりと動きを止めていた。
「なんだよ……これ」
弁が眉をひそめる。
ヒカルは大きく息を吸い込む。
胸の奥で、再び何かが脈打った。
――ドクン。
波の音と、自分の鼓動が重なる。
その瞬間。
胸の奥へ、言葉にならない感情が静かに広がった。
懐かしい。
なのに――。
どうしようもなく、悲しい。
「……なんなんだ、これ……」
ヒカルは小さくつぶやく。
凪人はしばらく海を見つめていた。
そして静かに背を向ける。
「行くぞ」
低い声が、止まった風の中へ落ちた。
「この町へ来た目的を忘れるな」
だが歩き出したあとも――。
ヒカルの胸の奥では、
波のようなざわめきが静かに揺れ続けていた。
※掲載しているイラストはAIを用いて制作しています。
キャラクターや情景のイメージは作者が考案し、描画はAIによるものです。




