第10話 試練 ~ 海との対話~
潮が満ち始める。
それまで足を撫でるだけだった波は、
次第に“押し返す力”へ変わっていった。
冷たい海水が、容赦なく足をさらっていく。
弁と嵐は、その変化を読みながら前へ進んでいた。
波が来る瞬間を見極め、
重心を崩さず、ぎりぎりの位置を走り抜けていく。
だが――。
ヒカルだけが、追いつけなかった。
呼吸が荒れる。
胸が苦しい。
足は鉛のように重く、
砂へ沈むたび、体が後ろへ引きずられていく。
(置いていかれる……)
脳裏をよぎった瞬間、ヒカルは強く唇を噛んだ。
――嫌だ。
――仲間の足を引っ張りたくない。
その想いだけで、前へ踏み出す。
だが次の瞬間。
横から大きな波が叩きつけた。
「うっ――!」
膝が崩れる。
冷たい海水が肩まで覆いかぶさり、
一瞬で呼吸を奪った。
視界が揺れる。
耳の奥で、波の音だけが響いていた。
(あぁ……もう駄目だ……)
そのときだった。
「ヒカル!」
弁の声が響く。
振り返ると、
弁が波をかき分けながら戻ってきていた。
足はふらついている。
それでも迷いなく、ヒカルへ手を伸ばす。
「大丈夫か……!
手、貸せ!」
続いて、嵐も叫んだ。
「置いてくわけねぇだろ!」
波に押されながらも、
二人はヒカルの両側へ並ぶ。
その手が、ヒカルの体を支えた。
そして、苦しそうに息を吐きながら、小さく笑う。
「……ごめん。
ありがとう」
弁は肩を貸したまま静かに笑った。
「謝るなよ。
仲間だろ」
嵐も鼻を鳴らす。
「お前が遅いなら、俺らが戻るだけだ!」
「……ごめん」
ヒカルは小さく息を呑んだ。
胸の奥が、熱かった。
「……行くんだ」
三人は肩を支え合いながら、再び前へ進む。
波は相変わらず容赦がない。
けれど――。
さっきまでより、少しだけ前へ進めた気がする。
遠くから、凪人が静かにその姿を見つめていた。
厳しい眼差し。
凪人は小さく目を細めた。
「……悪くない」
波の音へ溶けるような、小さな声だった。
※掲載しているイラストはAIを用いて制作しています。
キャラクターや情景のイメージは作者が考案し、描画はAIによるものです。




