第11話 凪人の教え ~ 人も欠けてはならない ~
三人が入り江へ戻ると、
凪人は静かに海を見つめたまま言った。
「――それでいい」
波の音だけが、静かに響いている。
潮はさらに満ち始め、
さっきまで穏やかだった海も、さらに表情を変えていた。
凪人はゆっくり振り返る。
「海は、一人じゃ越えられない」
低い声が、入り江の空気へ溶けていく。
「潮が変われば、昨日まで通用した力なんて簡単に崩れる」
ヒカルは黙ってその言葉を聞いていた。
濡れた服が重い。
息もまだ苦しい。
けれど、不思議と胸の奥は静かだった。
凪人はヒカルを見る。
「ヒカル。
お前は弱くなんかない」
ヒカルが顔を上げる。
「弱さを知ってるからこそ、仲間の力を受け取れたんだ」
「弱さ……仲間の力……?」
凪人は続ける。
「弱さを認めないやつは、人に頼れない」
入り江へ吹き始めた風が、三人の髪を揺らす。
そして凪人は、弁と嵐へ視線を向けた。
「弁。嵐」
二人は背筋を伸ばす。
「一人欠けたら、それは“勝ち”じゃない」
波が岩へぶつかり、白く砕けた。
「三人で越えられない波なら、三人で沈めばいい」
凪人の声は静かだった。
「だが――」
一瞬、風が止まる。
「三人で越えられる波なら、必ず三人で越えろ」
その言葉は、
荒れ始めた海の音よりも強く、温かかった。
三人は静かにうなずく。
弁は拳を握りしめる。
嵐はまっすぐ海を見つめていた。
ヒカルは胸の奥へ、その言葉をゆっくり刻み込む。
そして、小さくつぶやいた。
「……三人で越える。
絶対に」
入り江の風が、
そっと三人の背を撫でていった。
※掲載しているイラストはAIを用いて制作しています。
キャラクターや情景のイメージは作者が考案し、描画はAIによるものです。




