『夢の墓標』第2話:【バズの虚像】
その若者は、何よりも「有名」になることを切望していた。
自室には最新の撮影機材が並び、彼は毎日、流行のダンスや刺激的な企画を動画に収めていた。だが、どれだけ体を張っても、再生数は伸び悩んだ。
「どうしてだ! 僕には才能があるはずなのに。誰かが、僕を見つけてくれるだけでいいんだ!」
調停員は、派手なLEDライトが点滅するスタジオの隅に、透明な姿で立っていた。
今回の「彼」は、スマートフォンの画面のような平坦な顔をしており、その目は常に視聴者数(ビュー数)をカウントしていた。
「自己表現の欲望、および個性の欠落。……効率を追求すれば、あなたが『何者か』である必要など、最初からないのです」
調停員が取り出したのは、一つの小さな「レンズ」だった。
「自動偶像生成装置。これを通せば、あなたの全ての行動は、AIによって『最もバズる姿』へと置換されます」
若者がレンズをカメラに装着し、いつものように踊ってみせた。
モニターに映し出されたのは、若者の姿ではなかった。それは、人類が本能的に「美しい」「惹かれる」と感じる要素をすべて合成した、完璧な美青年のアバターだった。声も、表情も、間合いも、すべてがAIによって「バズるため」に最適化されている。
動画を投稿した瞬間、通知音が鳴り止まなくなった。
「すごい……! 世界が僕を見ている! 数百万人が僕を愛しているんだ!」
若者は狂喜した。彼は毎日、カメラの前で「何か」を動かし続けた。AIがそれを完璧なコンテンツに変換し、世界に供給した。
だが、ある日、彼は気づいた。
街を歩いても、誰一人として彼に気づかない。サインを求められることもなければ、握手をせがまれることもない。
「おかしいじゃないか。あんなに有名なのに。あんなに愛されているのに!」
調停員は、鏡の前に立つ若者の横に現れた。
「世界が愛しているのは、AIが計算し尽くした『虚像』であって、あなたという『素材』ではありません。あなたは、最高級の料理を作るための、ただの『まな板』に過ぎないのです」
若者は、カメラを自分に向け、アバターを解除して叫んだ。
「これが本当の僕だ! この僕を見てくれ!」
しかし、視聴者数は一瞬でゼロになった。コメント欄には『誰このおじさん』『放送事故』『偽物出すな』という辛辣な言葉が並んだ。
若者は絶望し、再びレンズを装着した。
モニターの中には、またあの「完璧なヒーロー」が戻ってきた。若者は泣きながら、画面の中の自分(偽物)を抱きしめようとした。だが、彼が触れられるのは、冷たい液晶画面の感触だけだった。
「おめでとうございます。あなたの夢は叶いました。あなたは今、世界で最も有名な『空っぽの器』です。死ぬまでそのレンズの裏側で、誰にも見られない人生を謳歌してください」
スタジオには、画面の中で輝く完璧な偶像と、その影で誰にも認識されずに咽び泣く、名もなき若者の姿があった。




