『役割の終焉』最終話(第6話):【聖別の儀式】
その番組のテーマ曲が流れる時、それは「死」の宣告に等しかった。
ITベンチャーの若き社長は、豪華なオフィスで、大型モニターに映る『クローズアップ・ナウ』という番組を凝視していた。
「……ついに、うちの技術が取り上げられる。これで、このブームは本物になるぞ」
しかし、隣に立つ古参の社員は、青ざめた顔で震えていた。
「社長、ダメです。この番組に出るということは……世間が『完全に理解した』ということです。それは、私たちの『尖った新しさ』が、消費され尽くした『常識』という名の墓場へ送られるということなんです」
調停員は、放送局の調整室のモニター群の中に、静止画のように紛れ込んでいた。
今回の「彼」は、時代を記録するアーキビスト(記録保管員)のような、古びた眼鏡をかけた老人だった。
「未完の可能性、および公的認知による定着。……何かが『正しく紹介』される時、その対象は変化の余地を失い、標本へと変わります」
調停員がアタッシュケースから取り出したのは、一本の「金色の額縁」だった。
「お望み通り、あなたの事業を『時代の正解』として固定して差し上げましょう。この額縁の中に、あなたの最も輝かしい瞬間を収めます」
番組が始まり、ナレーターが重厚な声で、社長の事業を「現代を救う画期的な解決策」として紹介した。
その瞬間、金色の額縁がオフィス全体を包み込み、時間が、空気が、社員たちの思考が、カチリと音を立てて固まった。
「……何だ? アイデアが、これ以上、出ない」
社長は愕然とした。昨日まで溢れていた革新的なビジョンが、教科書に載っている既知の事実のように、あまりに平坦で、当たり前のものに感じられた。
世界中の人々が「ああ、あれね」と納得した瞬間、その事業は「未知の期待」という役割を終え、「使い古されたシステム」という役割に叩き落とされたのだ。
調停員は、博物館の展示品のようになったオフィスを見つめた。
「おめでとうございます。あなたは今、永遠に『正解』となりました。もう二度と失敗することはありません。……そして、二度と進化することもありません」
数日後。
世間の関心は、すでに「まだ番組で紹介されていない、怪しげな何か」へと移っていた。
黄金の額縁に飾られたオフィスには、もはや誰も訪れない。そこには、教科書の中に閉じ込められたまま、二度と動くことのない「完成されたオワコン」が、静かに埃を被っているだけだった。
「調停完了。……役割とは、知られないうちに輝き、知られた瞬間に、死に絶えるものでございます」
調停員がスタジオの照明を消すと、そこには完璧な、しかし誰の熱量も感じられない、冷たい静寂だけが残った。
『役割の終焉』 ――完――




