08【武林】下
目が覚めたハイゼンベルクは悔しさで眠れなかった。せっかくの快意恩仇(恩を返し仇を討つ)のチャンスだったのに、戦わずして暗殺されるとは。だが背後を取られたのは未熟ゆえだ。
「不甘心(悔しい)」の三文字が頭から離れない。犯人を見つけてやる。
同じ夢を見るのは難しい。考えすぎれば妄想になる。推理しすぎずに犯人を見つけるには……測字しかない。
ハイゼンベルクは夢の流れを書き出した。登場人物の名前を百回ずつ書き殴った。筆圧が紙を突き破るほどに。
ふと気づいた。夢の中で起きた三つの出来事には共通点があり、それを測字で解けばある人物の名前に繋がる。まさか彼が犯人か?
犯人が分かれば寝るしかない。五日後、彼は再び若返り、洛陽の郊外を疾走していた。
同じ茶楼、同じ店小二。ハイゼンベルクは夢を早送りせず、詳細を確認しながら進めた。
夢は順調に進み、前回とほぼ同じだった。
再び深夜。黒影を見つけ、軽功で追う。今回は迷いなく、行雲流水のごとく追い詰める。黒影は焦り始めた。どこの達人だ?
廃寺に着き、人影が消えた。ハイゼンベルクは壊れた鼎を背にして死角を消し、内力を練り上げた。
「どうした、武宏硯。私が何をした? 背後から狙うとはな」
武宏硯は驚愕した。完全犯罪のはずがバレている。彼は悔し紛れに言った。「目障りだっただけだ」 「目障り?」ハイゼンベルクは振り返った。戦袍を着た武宏硯は威風堂々としていたが、正義は我にあり、気迫で負けてはいない。
問答無用。武宏硯が手を叩くと、松明を持った伏兵が現れ、周囲を昼間のように照らした。「殺せ!」
「皆殺しか?」ハイゼンベルクは激怒し、「草枯鷹眼疾(草枯れて鷹眼疾し)」の心法で動体視力を上げ、「雪尽馬蹄軽(雪尽きて馬蹄軽し)」の軽功で矢の雨をかわした。
「フン!」剣を槍に見立て、「但使龍城飛将在(但だ龍城の飛将をして在らしめば)」で三本の槍を弾き返し、「不使胡馬渡陰山(胡馬をして陰山を渡らしめず)」で防御を固めた。
「役立たずどもめ」武宏硯は従者から血に塗れた古槍を受け取り、「霊蛇出洞」の技でハイゼンベルクを襲った。
ハイゼンベルクも準備万端だ。長剣に内力を込め、淡い青い光(剣芒)を放った。人剣合一の境地だ。武宏硯も油断せず、「長浪沙」で応戦した。
矢が尽き、ハイゼンベルクの気迫に押され、伏兵たちは手を出せなくなった。
武宏硯は槍を投げ捨て、腰の剣を抜いて斬りかかった。彼は戦場の人間だ、江湖の決闘とは違う。攻撃あるのみ。彼は太陽を背にして飛び上がり、黒い鷹のように襲いかかってきた。逆光で眩しいが、ハイゼンベルクは目を閉じても諦めてはいなかった。
「千・山・鳥・飛・絶」 一字一句唱えるごとに剣気が増し、武宏硯は押し戻され、屋根の上の弓兵も吹き飛ばされた。雲さえも切り裂く勢いだ。
武宏硯は吐血しながらも耐えた。相打ち狙いで最後の賭けに出た。「玉石倶焚(玉石ともに焚く/自爆技)!」 「背後を取らなかった時点で、お前の負けだ」ハイゼンベルクは目を開けず、ため息をついた。「万・径・人・蹤・滅」
春風が吹いても草木一本生えないような静寂。武宏硯は壁際で倒れ、剣を握る力もなく、切れ切れに聞いた。「なぜ……私だと……分かった?」
ハイゼンベルクは月を見上げた。夢の中の人物に説明する必要があるか? この夢で、ハイゼンベルクは三つの失望を味わった。
第一に、金刀門。武を競わず整理券を転売する。戦うことすら止められた(止戈)。しかし**「武」という字は「止」と「戈」でできている。これが一文字目。
第二に、三娘教子(母が子を打つ)。家(ウかんむり/宀)で、棒(一)を持って、最小の子(幺/么)を打つ。合わせれば「宏」だ。
第三に、会えなかった何永豪。何も言わない(不語)。「不」の最初の二画と「語」の口で「石」。そしてただ見ている(見)。石と見で「硯」**だ。
合わせれば**「武宏硯」**。こじつけだが、関連性は明白だ。登場人物の中で彼だけが面識のない、ハイゼンベルクが作り出した虚構の人物だ。彼は「もう一人の自分」かもしれない。「最大の敵は自分自身」とはよく言ったものだ。
この三文字が表す物語は、仏教の三毒「貪・瞋・痴」にも対応している。
「なぜ私を狙った?」
「武林大会が洛陽で開かれる。私は官界で失敗したから、武林で一旗揚げたかった」武宏硯は血を吐きながら笑おうとした。「私もお前と同じだ。武林盟主というクソにたかるハエさ」
「それだけで私を消そうと?」
「洛陽を浄化したかった。まずは金刀門だが、近くに達人がいて手が出せなかった。林如珍の騒音も消したかったが……」
「また私か」ハイゼンベルクは苦笑したが、表情を引き締めた。「だが母子を消そうとするのは許さん」
「説教などいらん。飛魚皇の名を騙って悪党から盗み、銀鈎賭坊を摘発した時の気分、お前に分かるか?」
「フン」
「顔清浩も役に立った。偽情報を流して、お前を誘き出したのに……まさか……」
やはり顔清浩は二重スパイだったか。謎は解けた。ハイゼンベルクは武宏硯のツボを突き、彼の血で罪状を服に書き、拇印を押させた。
立ち去ろうとしたその時、黒い影が飛び込んできた。勁装(戦闘服)に身を包んだ江欣妮だ。「喧嘩はどこ? 助太刀に来たわよ! あれ、終わっちゃったの? つまんない」
彼女は武侠世界が珍しいらしく、キョロキョロしていた。「ねえ、私と一戦やりましょうよ! 暴れたくてウズウズしてるの」
「見ろ、後ろに武林盟主がいるぞ!」ハイゼンベルクが指差すと、彼女が振り向いた隙に逃げ出した。だが足が動かない。焦っていると、遠くから鏡文字の「終」という字が迫ってきた。
「終」の字が通り過ぎると、視点が正面に変わり、左上に過去の夢のダイジェスト、右側にスタッフロールが流れた。
海森堡 飾 海森堡
小 剛 飾 店小二
陸元嗣 飾 陸元嗣
王景基 飾 王景基
顔清浩 飾 顔清浩
洪彬峰 飾 洪彬峰
烏岑香 飾 烏岑香
林如珍 飾 林如珍
頼融誉 飾 頼融誉
江欣妮 飾 江欣妮
黄兪仁 飾 飛魚皇
武宏硯 飾 武宏硯
測字を始めてから出会った印象的な人物ばかりだ。まさか夢が香港カンフー映画のエンディングになるとは。NG集を探そうとしたところで目が覚めた。だが今回は、続きを見る気にはなれなかった。
ハイゼンベルクは測字屋台で考えた。武宏硯を倒して、武林盟主への野望は消えた。正義を行うのに肩書きはいらない。その心があればいい。「武侠」の要は「侠」の一字にあるのだから。
誰もが自分の正義を持っている。だが自分の正義で私刑を行ったり、公権力を利用したりするのは、やはり間違いかもしれない。
ハイゼンベルクは静かに武侠小説を閉じた。
台北の街角に、ハイゼンベルクという名のおじさんがいる。彼は測字屋台を開いている。実は夢占いもやっている。どうか彼の商売をご贔屓に!




