第六十九話
……なんでこの双子はこうも似てるんだよ。ふざけんな。
目の前で当たり前のように自分の食いかけのクレープを出してくるルーチェ。こいつ、ルシアもそうだが、危機感ねぇのか。ガキの頃ならまだしもこの歳で間接キス気づかないのはバカだろ。
「食べないの?」
「……いや、食う」
こいつの抜けてるところを利用してそばにいる俺が言うのもあれだが、この双子は本当に危機感を持つべきだ。……いや、ルシアの方は手遅れか。完全に公子が囲ってるもんな。
魔道具でこっちのこと認識できねぇようにしておいて正解だったな。じゃなきゃ即社交界のオモチャだ。少しやらかしただけであいつらは自分の都合のいいように解釈して噂を流すから嫌なんだよ。
「……で、今日はなんか起きるのか?」
「起きるとしたら明日じゃないかしら。ゲームのルーチェはそうしてた」
細かいところは変わっているが、大枠はお前らのやってたゲームに沿ってるんだっけか。面倒だな。フルシュ公爵家の未来視となんら変わりねぇ。細かく分かるのを考慮すりゃ、あっちの方が厄介だ。
……まぁ、それも相手にルシアがいなければ、だがな。
「終わる頃には生きてんのかね……」
「何か言った?」
「次は何をしでかすんだかって言ったんだ」
ルーチェはルシアのことを甘く見すぎだ。人が苦手で、魔法と植物が大好きな内気な妹、とでも思ってるんだろう。だが、本質的にはルーチェよりも厄介だ。
自分のものが奪われたり傷つけられたら相手を徹底的に叩きのめして二度と目の前に現れないようにする。可愛い顔して、やることはこの国の皇族の中で一番えげつない。
「……そういや、ゲームの中では俺たちどんな感じだったんだ?」
ふとした疑問。……というより、ずっと思っていたことだった。昔から一緒にいるものの、こいつは俺たちに興味なし。ゲームの話を聞いて、危険視されてるのかと思ったが、そうでもなかったらしいしな。
「ゲームで最初に二人が一緒にいるのは、あなたがヒロインを送ってるときね」
「なんで俺が見知らぬ奴を送らねぇといけないんだよ」
「図書館でたまたま会って、本を探すのを手伝ってあげたのよ。なんの本かは分からないけれど」
……で、遅くなったから馬車まで送ったらお前と出くわした、と。
気になるんだよなあ。ゲームではルシアと公子の婚約が解消されていたこと。ルーチェが一人で、今よりも気性が荒いこと。こいつらの覚えてる限りのルーチェの言動が、俺たちの中のルーチェと噛み合わないこと。
ゲームの知識があるから。転生者だから。言い訳する要素はいくつもある。けど、どっかで繋がってる気がする。
「なんかねぇのかよ。今と明らかに違う点」
「いくつかあるけど、中身が違うもの」
それはそうだが、何かヒントはありそうだろ。ルシアの見てた夢も気になる。小さな違和感でも拾うべきだ。
「……何かあったかしらね」
うーん、と唸りながら上を向く。こいつ、昔から思い出すときに上を向くよな。クセなのか?
「……あぁ、そういえば、一つだけおかしいのがあったわね」
「あるのかよ」
「えぇ。何故かゲームでは私とルシアの名前は一切出されないの。お兄様のルートはできていないから分からないけど、あんたのルートだと、あんたオルコス卿も『皇女殿下』って呼ぶのよ」
……俺たちがか? 俺は面倒で言うかもしれんが、兄貴は絶対分かりやすいように今みたいに呼ぶはずだ。なんかあるのか?
「……推理もいいけど、学院祭を楽しみましょうよ。頭使ってばっかりだと気が滅入るわ」
「お前はそんなに頭使ってないだろ」
けど、一理あるな。せっかくの祭りだしな。楽しむか。多少羽目を外しても、魔道具で俺たちだとは気づかれないしな。
「ほら、行くわよ」
「引っ張んな」
「じゃあ早く立ちなさいよ」
何気ないこのやり取りが、ずいぶんと懐かしく感じる。ふと見せるこいつの顔が……。……っとに、何考えてんだよ。こんなときに。相手は自分より四つ下だぞ。
顔が熱い。赤くなってんのバレてないよな? ルシアなら気づかれねぇが、ルーチェはこういうときの勘が鋭いから嫌なんだよ。




