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第六十八話




 学院祭。みんなで回ると思っていたのに、なんで私はアイトに手を引かれて走ってるわけ? 説明もないし、シグニとルシアは分かってそうだったわね。当たり前のように離れていったもの。エルピス伯爵令嬢とお兄様は固まってたけれど、大丈夫かしら。


「……ここまで来ればさすがに追いつかれねぇか」

「だから、説明を、しなさいよ!」


 久しぶりに全力で走ったせいで息が苦しい。自分と私の体格差を考えなさいよ。あんたの小走りは私の全力疾走って分からないかしらね。本当に、図体と態度は無駄に大きいんだから。


「なんで分かれるのよ」

「誰かさんの恋の応援」


 ……誰かさんって、お兄様とエルピス伯爵令嬢ってこと? エルピス伯爵令嬢がお兄様が好きというのは聞いていないし、アイトに相談するはずがない。ルシアたちなわけもないし。となると、まさかお兄様? いや、でもあのお兄様よ? ゲームでは好感度を八十以上にしないとルート固定ができない堅物なのに。


「……あいつ、最近頻繁にそっち行くだろ」

「来るわね」


 建国祭が終わった辺りからかしら。だんだん会う頻度が増えていった。最初は心配なのかなと思っていたし、今では当たり前になったから気にしていなかったわね。


「……エルピス伯爵令嬢に会いに来てるって言いたいの?」

「最初はお前ら見に行ってたと思うぞ」


 つまりは勘ってことね……。アイトの勘はバカにならない。オルコス卿のときもそうだったけれど、なんで分かるのかしら。お兄様といい、アイトといい、ゲームと変わりすぎて怖いわよ。同じところもありはするけど、ゲームと上手く噛み合わないのよね。

 ……いけないわね。こういう考え方はしないと決めてたのに。あまりにも二人が違うから。人は変わると言うし、シナリオの前提はいくつか改変してある。違うのは当たり前よ。


「いつ分かったの?」

「普通に聞いた」


 度胸ありすぎね。そしてお兄様もなんで言うのよ。はぐらかせばいいのに。

 お兄様のこういうところは欠点なんでしょうね。親しい間柄の人間には悩みを言う。普通に相談するのはいいのよ。一人で悩んでも仕方がないこともあるもの。けど、相手がダメなのよ。アイトが周りに言わないはずがないじゃない。


「……あら、クレープあるじゃない」

「お前が昔食べたいって大泣きしたやつか?」

「うるさいわよ」


 周り見てたらたまたまあったんだもの。食べたいじゃない。昔は……。まぁ、子どもらしい可愛いわがままだもの。アイトは人のことをいじれる内容は全部覚えているから嫌なのよね。だからと言ってオルコス卿みたいな真面目なのが好きというわけではないけれどね。


「いちごでいいか?」

「えぇ」


 やっぱり昔から一緒にはいると、食の好みも分かるものなのね。前世では幼なじみがいなかったし、仲が良かった子もあまりいなかったから知らなかったわ。……決してひとりぼっちだったとかじゃないのよ。

 私がプチ現実逃避をしている間にアイトはチョコバナナのクレープにしたらしい。可愛いの食べるわねぇ。しれっと私の分も買ってくれているし。こういうところが人気がある理由なのでしょうね。


「一口ちょうだいよ」

「自分のあるだろ……」


 そう言われて食べないわけがないのよねぇ。だって両方食べたいんだもの。アイトが持っていたチョコバナナのクレープをパクリと一口食べると、アイトが固まった。……さすがにやりすぎたかしら?


「おまっ……」

「何よ」


 何故か顔を逸らされた。よく見れば、ほんのりと耳が赤くなっている。……何を今さら恥ずかしがってるのよ。昔からよくお互いのもの食べてたじゃない。周囲の目があるところでやったのは申し訳ないとは思うわよ? でも、私が食べられる位置に持っているアイトも悪いと思うわ。

 ほら、代わりに私のいちごのクレープも一口あげるから、許しなさい。






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