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第六十七話


「ルシア?」


 黙って、どこか悲しそうな顔をしているルシアを呼ぶと、なんでもないと首を振られてしまった。嘘なのは分かっている。けれど、そうされてしまうと何も言えない。ルシアはそういう子だから。殻に籠って、自分を知られないようにする。


「シグニ、飴細工があります!」


 私の手を引いて、学院祭を隣で満喫するルシア。傍から見れば、楽しそうなのだろう。ふとした瞬間に見せる悲しそうな笑顔がなければ、私もそう思えた。

 強く握られた手。いつもは私が握っていた小さな手が、今は私を握っている。それがどうしようもなく可愛くて、危うく見えた。


「ルシアは飴細工が好きだね」


 たった一言。悩んでいないかと聞けばいいだけ。ほんの少し、勇気を出せばいい。分かっているけれど、拒絶されたらと、身体が声を出すのを躊躇う。そんな自分に、心底嫌悪した。

 学院に来て、ルシアは変わっている。他人と関わりを持つようになった。私たちの後ろに隠れて、常に周りの視線に怯えていたルシアが。

 成長を嬉しく思う反面、悲しくもあった。私がいなくても、笑える時間が増えた。別の時間を共にする人ができた。当たり前のことなのに、その当たり前で、ルシアに私が必要なのか、分からなくなっていく。

 昔は異性に慣れさせるために会った。ルシアが気に入ってくれたから、婚約者になれた。ルシアの世界では、周りに人はいても、その中心は私とルーチェだった。それが今は、ゆっくりと変わってきている。ルシアの世界の中心に、私はまだ、いるのだろうか。


「シグニもどうぞ」

「……ありがとう」


 目の前にバラの飴細工を出され、一口もらう。青く染色された飴細工。花の形だったから選んだだけなのだろう。もしこれが本物の青いバラだったら、というのは、さすがに欲張りすぎか。

 ……本人は気づいていないだろうけれど、この飴細工、ルシアが食べていたものだよね。皇太子殿下にバレたら、叱られそうだな。


「そういえば、結局なんで別れたんですか?」

「……まぁ、男の事情かな」


 アイト卿が別れて回りたいと言ったときはさすがに驚いたけれど、あの人の待っている時間を考えたら、許されてもいいだろう。なんだかんだ、ルーチェが一番親しいのも彼だ。ルーチェはまだ気がついていないみたいだけどね。


「エルピス伯爵令嬢とお兄様は大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃないかな」


 アイト卿としては、ルーチェとのデートも兼ねて、皇太子殿下の背中を押しているつもりだろうしね。よく見ていないと気づかないことに気づくのは、さすが騎士と言うべきか。私も、皇太子殿下の気持ちはアイト卿に言われるまでは気がつかなかった。


「それはそうと、名前で呼ばないの?」

「……エルピス伯爵令嬢をですか?」


 キョトンと小首を傾げ、顎に手を当てるルシア。考えたことがなかったんだろうな。半年以上一緒にいて名前で呼ばないのはどうかと思うよ。私が言うことではないけどね。

 けれど、今のうちに名前で呼ぶことに慣れた方が、ルシアも楽だろう。皇太子殿下は、ルシアたちが名前で呼んでないから呼べないと言っていたし。私としては、勝手に呼んでくださいと思うけれど。

 まぁ、一緒にいる時間は関係なく、慣れておくべきなのは確かだ。もしかしたら、ルシアたちの家族になるかもしれないからね。皇太子殿下が上手くやれば、だけれど。義兄となる方だし、幸せになってもらうためにできる限り協力はさせてもらいますよ。




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