第六十六話
シグニに手を引かれて四人から離れましたが、よくよく考えてみたら、シグニと学院で二人になるのは初めてな気がします。いつもはルーチェやエルピス伯爵令嬢がいますから。学院の外でも、最近は二人で会うことはなかったです。
「たくさんありますね」
「クラスが多いからね。それに、外から商会なども来ているみたいだよ」
学院祭は賑わいますからね。一日目は生徒たちだけですが、二日目は外部の人たちも出入りできます。なので、商会からしたら稼ぎ時なのでしょう。人は楽しいときほどお金を使うと聞きました。
「ブレスレットなんかも売ってるんだね」
「あ、本当ですね」
お店に近づくと、店長さんが元気に挨拶してくれました。お店のテーブルには色とりどりの宝石で作られたブレスレットがあります。二つで一つとして売られていますね。ペアブレスレット、というやつでしょうか。
「……あら?」
ブレスレットを一つ手に取りますが、宝石じゃないみたいですね。持ち上げて光に当てますが、屈折していません。宝石だと、個体差はあれど、光が屈折して虹が見えるんですよね。
「今はこういうのが流行っているんだよ」
「そうなんですか?」
「宝石だとお貴族様しか買えないからね。ガラスにすることで安くして、みんなが買いやすいようにしてるんだよ」
確かに、宝石だとしたらこの値段は安すぎますね。宝石とガラス。盲点でした。確かに、ガラスを使えば経費の削減にもなりますし、宝石の節約にもなります。
「これ、一つもらってもいいですか?」
「どの色にするの?」
「えっと……」
これだけ色があるので、あると思うんですが、どれですかね。ガラスと睨めっこしながら探しますが、似たような色はあってもほしい色が見つかりません。
「何色を探してるんだい?」
「紺青です。少し紫色が混ざった青色なんですが」
「それなら、出してないやつにあるかもしれないよ」
そう言って店長さんは、表に出していないものを見せてくれます。普通なら出てるもので終わらせるのですが、優しい人でよかったです。無事にほしい色のブレスレットも手に入りましたし、片方はシグニにあげましょう。
「……いいの?」
「はい。これでお揃いです」
いつも助けてもらっているので、これはお礼です。……まぁ、これでは足りないほど助けてもらっているんですがね。
「……ありがとう」
そう微笑むシグニは、優しい顔をしていました。けれど、同時にどこか、悲しそうに見えます。
……それが私からのプレゼントだからだと思ってしまうのは、私が未熟だからでしょうか。もし、ルーチェからのプレゼントなら、もっと違う顔をしていたのではないか。そんなことを考えてしまいます。
「行きましょうか」
ずっと胸の奥にしまっていた、シグニとルーチェのこと。なんで、こんなときに思い出してしまうんでしょうか。最近は二人でいるところを見かけなくなり、自分の中でも、この疑問は消えていたと思っていたのに。
「……シグニ」
「どうしたの?」
口を開いて、喉に音が引っかかって言えずに、そのまま閉じます。弱いなと思いながらも、私は、この関係を崩したくないんです。
「……いえ、なんでもありません。あっちを見に行きましょう?」
二人がもしかしたら、想い合っているのではないか、なんてもう考えたくありません。違ってくれと、願ってしまう。二人が大切なのに、自分を優先したくなってしまう。
……ダメですね。前に決めたはずなのに。一連の騒動が終われば、二人の間にある障壁は私だけです。なら、私が婚約者から降りるのが最適です。分かってはいるのに……。
「ルシア?」
どうしたのかと心配そうに見てくるシグニ。繋いだ手をほんの少しだけ、強く握ります。決めたはずなのに、揺らいでしまう。私は、シグニと婚約破棄できるでしょうか。しっかり、二人のことを、祝福できるでしょうか。




