第六十五話
「……うるせぇ」
「賑やかって言いなさいよ」
あれから二年生に何度か嫌味を言われましたが、それ以外は特段問題なく、学院祭当日になりました。嫌味に関してはいつものことながら、ルーチェと私を見分けられずに意味なく終わっていますがね。中にはぺルクシム男爵令嬢の取り巻きに婚約者になっているご令嬢からのクレーム、とやらが来ました。それに関してはルーチェに言うことじゃないと思います。
「ルシア、前見て」
「え? ……いたっ!」
「……何してるのよ」
前を見ていなかったせいで柱にぶつかりました。衝突した鈍い音がかなり響いたせいで、何が起きたと周りがこっちを見てきます。……やめてください。見ないでください。恥ずかしいので。お兄様には呆れられますし。……うぅ、最近こういうことが多いです。シグニも、分かってたならもっと早く言ってくださいよ。
一応魔法で防御はしているので、音の割には痛くありません。けど、痛いものは痛いんです。魔法と言えど、物理攻撃が無効なんて力はありません。
「第二皇女、なんつーか最近……」
「私たちが前世の話していたせいで語彙力が無駄に増えてる……」
無駄にとはなんですか。無駄にとは。異世界の知識はとても貴重なんですよ。魔塔にもほとんど情報が残されていないですからね。かつては異世界の言語について研究していた魔術師がいたくらいです。
「今は皇族として振る舞うように」
「……はい」
お兄様にたしなめられてしまいました。皇族としてしっかりしなければとは思っているんですが、こうしてみなさんといると気が緩んでしまいます。
それに、最近はこうしてお兄様と一緒にいる時間が増えた気がします。今までは会っていても週に一度——それでも学院に入る前よりは多いです——だったのが、今では少なくとも二日に一回は会っています。お茶会にもお誘いすれば来てくれますし、昔に戻ったみたいで嬉しいです。……だからと言って、気が緩んでいい理由にはならないので、気をつけないとですね。
「お前ら、一応巡回ってこと忘れるなよ。特にそこ二人」
「分かってますよ」
「……分かってる」
お兄様とシグニは生徒会としての見回りですからね。私たちは交代制にしてあるので、今は自由時間です。……まぁ、今も調理室で魔法による調理は行っているんですけどね。まさか、ご令嬢たちが作りたいと言うとは思いませんでしたが、おかげで歩き回る時間が取れましたね。
「絶対に二人の影響よね」
「お互いに作りあってますもんね」
まぁ、はい。二人の言う通りなんですけども。……その、学院祭で出すお菓子の試作品、全部シグニとお兄様、アイト卿にあげていまして。さすがにしっかりとできているか分からないものを他の方に出すワケにもいきませんでしたし……。シグニはシグニで、自作のお菓子をくれるので。いつものクセと言いますか、うっかりと言いますか。シグニに食べさせてあげて、食べさせてもらってをしていたら、ご令嬢たちの何かに火がついたみたいです。ルーチェが言うには「男女でやりたいこと」だったそうで、みなさん頑張ってお菓子を作っています。
「そういや、ルーチェは部活の方はいいのか?」
「あそこは学院祭出ないからいいのよ。忙しい人が多いもの」
そういえばありましたね。この中だとルーチェだけ入っている状態ですし、すっかり忘れていました。ルーチェが部活動をしている間は図書館にいることが多いですし。返事はしているはずですが、右から左へとすり抜けているんですよね。
「……んじゃ、分かれるか。行くぞ」
「そうですね。ルシア、行こうか」
「……え、ちょ、アイト!?」
「聞いてないんですけど!?」
私とシグニ。ルーチェとアイト卿。そしてエルピス伯爵令嬢で分かれます。ルーチェとエルピス伯爵令嬢には伝えていなかったので、混乱していますね。アイト卿に関しては、ルーチェの手をしっかり握って連れて行っていますし。乱暴なのに丁寧なところがアイト卿らしいですね。
「アイト卿も、大胆なことしますよね」
「そうだね。でも、そのおかげで二人の時間ができたからいいんじゃないかな」
詳しいことは聞けていませんが、今日は頭を使うのはやめましょう。せっかくの学院祭ですからね。




