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第六十四話




 フロル様の愚痴を聞き終えましたが、私たちの知るお兄様との乖離が激しいです。だって、あのお兄様ですよ? いつも何を考えているのか分からず、怒っているのか笑っているのかも分からない。

 ……フロル様が嘘をついているとは思いませんが、信じられるかと聞かれれば、答えはノーでして。ルーチェと顔を見合せますが、やはり記憶の中のお兄様と違うと首を振られてしまいます。


「……あ、でも昔は仲良かったものね」

「四歳くらいの話ですよね」


 あの頃はみんなで遊んでましたからね。お兄様が皇太子としての仕事をこなすようになってからは三人で遊んでいましたけど。

 ……昔は、お兄様は笑っていた気がします。少なくとも、今よりも表情の変化が分かりやすかったです。一緒に過ごす時間が減り、私たちが分からなくなってしまっただけかもしれませんが。……そう言えば、あれが最後に兄妹で笑い合っていた時期かもしれませんね。


「昔の殿下たち……」

「そんなに目を輝かせても教えないわよ」

「教えてあげればいいではないですか」


 面白い話はあまりないと思いますけどね。私が魔法の実験で部屋を爆発させたり、ルーチェが鬼ごっこで半日逃げ回ったりしたくらいだと思います。……あぁ、アイト卿が騎士団の練習をサボりに来てルーチェと口喧嘩もしていましたね。


「中庭が湖になったこともあるわね」

「……忘れてください」

「わざとじゃないんですよ?」

「後始末が大変だったと言っていたわよ」


 ……その、お兄様が婚約者候補の方たちと顔を合わせるためのお茶会の日、たまたま中庭で魔法を使って遊んでいたんですが、ちょっとした問題を起こしまして。……その、水魔法の調整を間違えて、辺りが水浸しになりまして。お茶会の会場まで水浸しになってしまい……。幸い、まだ始まっていなかったのですが、あのときは普段怒らないお父様とお母様にたっぷりと叱られました。あれ以来、人が来る日には中庭で遊ばないことにしたんですよね。


「……何してるんですか」

「外でやると思ってなかったのよ」

「一応、魔法障壁は張っていましたけど、水の勢いが強くて」


 その日から私たちが外で遊ぶときは騎士団の方が見張り役としてついていたんですよね。基本はオルコス卿かアイト卿でしたけど。私が何もしなくなるからとルーチェが追い返し始めたときは大変そうでした。私は追い返してもらった方がよかったので見ていましたけど。


「お兄様、頭を抱えていたものね」

「妹たちに護衛をつけるためにどうすればいいか、手紙で書かれていましたよ」

「もっと婚約者候補らしい会話をしましょうよ……」


 意外と昔の話で盛り上がるんですね。こういうのは新鮮で楽しいです。楽しいですけど、時間忘れてしまうのが欠点ですね。私たちの話。エルピス伯爵令嬢の話。フロル様の話。立場や環境が変わるとまったく違う、とはよく言いますが、こうして話を聞くと実感が沸きます。


 話で盛り上がり過ぎたのか、いつの間にか日は傾き、空が茜色に染まりつつあります。はい。空の色が変わっているんです。少なくとも二時間はお喋りをしていまして。


「何もなかったならよかったけど、連絡の一つは入れられるよね? 探し回ったんだよ。ルシアとルーチェは何度目かな?」


 場所を伝えていなかったため、アイト卿とシグニで探し回っていたらしく、お説教されています。……あの、シグニ。その、フロル様は三学年の方ですし、正座をさせるのはどうかと思います。私とルーチェは慣れていますけど。慣れたくはないんですけどね。昔から怒られるときは正座をさせられます。どの国にこんなツラい体勢をする文化があるんですか。


「……足、痺れてきました」

「それが正座ですから」


 こ、こういう思い出話のときは少しくらいいいじゃないですか。シグニが怖いので絶対に言えませんけど。

 結局、フロル様はすぐに終わりましたが、私とルーチェは一時間ほど正座をさせられました。今度からは懐中時計でも持ってきますかね。時計が手元にあれば、時間を確認するはずですから。……たぶん。


 ……まぁ、本日の本題は予知のお話でしたが。いつの間にか話が逸れてしまいましたね。よくあることですが、気をつけなければ。たまに重要なことを忘れて放置してしまいますし。……この前、そのせいで【深淵】様にも叱られましたしね。

 学院祭で何かが起こる。……まぁ、この学院で騒ぎを起こすのなんて彼女だけですからね。ペルクシム男爵令嬢が何か仕掛けてくるのでしょうね。そうなれば迎え撃つだけですが、慎重にいかなければ。あの方、被害者のように振る舞う力は誰にも負けないようですから。






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