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第五十九話




「……兄貴の方は」


 ……オルコス卿。男爵令嬢に薬を盛られ、人生を狂わされた一人。今は療養という名目で、シュバリエ伯爵領にいるはずです。シュバリエ伯爵からは、彼が書いた手紙を渡されたこともあります。

 内容のほとんどは、昔のこと。薬の副作用なのでしょうね。彼は今、現実と幻覚の境界が曖昧で、何故自分が領地にいるのかも、分かっていないとのことです。


「適切な治療をすれば問題ないかと」

「第二皇女も同じ意見か?」

「……正直なところ、治療はあまり勧められません」


 この場合の治療は、薬を抜くか魔法で効果を一時的に消すこと。そして、魔法による記憶の書き換えです。


「記憶に整合性が取れなくなったり、何かが原因で記憶に大きな齟齬が生まれる場合、記憶の書き換えは消えてしまいます」

「本当の記憶が戻るってこと?」

「そういうことです」


 違法薬物の被害者の多くは、他者に利用され、捨てられています。全てを奪われた上で。そんな人たちのためにと、昔の魔術師様が記憶の書き換えをすることができる魔法を編み出したそうです。

 記憶の書き換え。言い方を変えれば、洗脳です。その人の記憶を抜き取り、自分たちに都合のいい記憶を埋め込む。その人のためだと分かっていても、やりたくはありません。


「魔塔の規定的には大丈夫なのか?」

「使ったことがバレなければいいんですよ。研究室が爆発しようと禁書を持ち出そうと、バレる前に証拠を消せばいいんです」


 それに、この方法を生み出したのが魔塔の権力者ですからね。ノーとは言えませんよ。

 ……まぁ、治療を勧められないと言っても、別の方法はないのですが。例えあったとしても、私の力量と権限では無理でしょう。


「行き詰まってる感じがするわね」


 ルーチェの言う通り、行き詰まっていますからね。男爵令嬢は現状放置。オルコス卿も、治療をするかは最終的に伯爵たちに委ねられます。リスクを抱えた治療をするのか。治療をしたとて、確実に治せるかも分かりません。


「……今はやることがありませんし、学業を楽しまれては?」

「本来はそれが本業ですしね」

「楽しむにも敵が多いのよ」


 周りから厄介者扱いされてしまうと、楽しめませんからね。回るときは魔法で姿を変えてしまえばいいだけな気はしますけど。ただ、魔法に詳しい方がいると、バレるんですよね。間者だと言われて捕まったら大問題です。一度【時詠み】様がやらかしたことがあるので、二の舞を演じたくありません。


「まぁ、クラスの催しも決まったし、いいんじゃないかな」

「今話していても進みませんしね」

「……まだ許可していないんだが」

「多数決の原理でお前の負けだ。諦めろ」


 多数決で生徒会が許可を出していいのですかね? 三分の一しか生徒会の方いませんけど。

 ……まぁ、結局今は男爵令嬢周りの証拠集めしかやることがないので、やることがないんですけどね。証拠集めもやるのは私じゃないので。






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