第五十八話
学院祭のお話は一度終わりましたし、本題に移ってもよろしいですか? これからやることもありますし。
「やること?」
「あの男爵令嬢だろ。忘れんな」
わざわざ魔塔の人間も連れてきましたからね。新学期早々ですが、私たちには休む暇はありませんよ。
「ということで、アベル」
「ここにいますよ。第七様」
そう言って後ろに現れるの、やめてください。気配を消して背後を取られると思わず魔法撃ちそうになるので。
燃えるような赤い髪に綺麗なルビーの瞳を持つ男性。魔塔直轄組織の組員であるアベル。私が自由に動かせる人物の一人です。
「お初にお目にかかります。魔塔直轄組織【サーヴァント】が一人、アベルです」
「彼が魔塔の?」
「はい。私が動かせる中で、最も隠密や情報収集に長けた人です」
男爵令嬢やその周りを洗わせておきました。今回、彼女のやっている規模によっては魔塔が出なければいけませんからね。
「結論から申し上げますと、お二人の予想通り、転生者で間違いありません」
「それはそうでしょうね」
「それと、違法薬物の入手経路ですが、ありませんでした」
……入手経路が、ない? そんなはずないでしょう。使っているのは確定です。痕跡を消すなんてこと、できるはずがありません。魔法を使っても、難しいのに。……魔法。魔法?
……男爵令嬢の属性は【木】。草木を育てることなど、容易です。人によっては、一から植物の種を作ることもできる。
「……魔法による成分の抽出」
「その可能性が高いです」
「どういうこと?」
その、説明が難しいんですが、私たちが思っていた以上に、面倒になっているようです。
違法薬物を入手している証拠さえ掴めば取り押さえられます。けれど、自分で作っていると「知らなかった」と押し切られる可能性がある。薬を作るために使う素材の中には医療用として用いられるものがありますから。
「悪知恵が働くみたいだな」
「……あんたもだろ」
……なんか、アベルから聞いたことのない低い声が聞こえてきたような気がします。アベルを見るとニコリと笑顔を向けられました。あ、はい。聞いたらダメなやつですね。
なんで魔塔の人たちって聞かれたくないことがあると笑顔になるんでしょうか。普通に怖いのでやめてください。
「記録用魔道具は?」
「置いてきましたので、一週間もあれば十分かと」
「詳しい違法薬物の成分は」
「魅了と洗脳ですね」
……魅了に加えて、洗脳ですか。とんでもないものを作ってくれていますね。頭が痛くなってきます。
どちらか片方なら、強引にやれば解けます。けれど、二つ一緒にとなると、解くのはほぼ不可能です。きっかけ一つで、その人の奥深くに種が潜り込み、呑み込んでいきますから。
「助けられるのか?」
「……半々ですね」
ヴェルメリオ様の中に根を張るものが、どれほど深いのか。彼が助けを求めていれば、可能でしょう。しかし、
「少しでも男爵令嬢への気持ちがあるのなら、無理でしょうね」
だから禁じられているのですよ。違法薬物は。
簡単に人の意志をねじ曲げ、それが自分の気持ちだと誤認させる。昔、似たような事件で滅びた国もありますから。
……本当に、どうかしていますね。いつの世も、人の欲で時代は幕を下ろすんですから。




