第五十話
……何故、おじ様が知っていたのだろう。
庭園に出て、精霊たちを見て。それだけで終わるはずだった。なのに――
「運命をねじ曲げると大変だよ? 異物さん?」
動けなかった。頭の中でいろいろなことが巡って。何故知っているのか。どうして今言うのか。もっとタイミングはあったじゃない。……いいえ。本当に重要なのはそこじゃない。
おじ様に私が転生者であることがバレている。ということは、エルピス伯爵令嬢もバレているかもしれない。彼女を危険に晒している可能性がある。
おじ様たちはルシアを大切にしている。それは一目瞭然だ。けど、私はおじ様たちとあまり親しくない。ルシアと一緒にいる双子の姉。二人からはその程度の認識だと思っていた。
「……ルーチェ?」
「あ、えと、どうしたの?」
不安そうに私を見てくるルシア。その姿を見て、しっかりしなければと自分を鼓舞する。悩んでいる暇なんてない。未来を知っている私が、なんとかしないと。
大丈夫だと言って、部屋に戻る。けれど、大丈夫なワケがない。心臓の音がうるさい。アニメやコミックで主張しすぎだと思っていたけど、実際にはそうでもないわね。
冷や汗が出る。おじ様たちにバレていることが怖いんじゃない。私は、ルシアにバレることが怖いんだ。お母様たちに、私のことをルーチェだと思っている人たちに、バレることが。
「……ルーチェ」
ソファに座ってなんとか落ち着こうとすると、部屋の外から声が聞こえてくる。いつも聞いている、安心する声。可愛い可愛い、ルーチェの妹。
ドアを開ければ、寝間着姿のルシア。何故か枕を抱えていて、恥ずかしいからと中に押される。
恥ずかしいって何がよ。それに、なんで夜中に。もう寝る時間だし、ルシアはこの時間は研究しているじゃない。
「……その、ルーチェにしか、頼め、なくて……」
モジモジと、恥ずかしそうに顔を背けているのを見て、なんとなく察しがついた。思えば、昔からそうだ。ルシアが夜に枕を持って来る日は。
「いいわよ。一緒に寝ましょう」
「うぅ……。ごめんなさい」
不思議ね。あれだけ心臓の音がうるさくて、冷や汗も止まらなかったのに、ルシアを見たら全部消えちゃった。昔から、ルシアは私にたくさんのものをくれるわね。
ベッドは大きいとは言えど、一人で寝るためのもの。さすがにこの年齢にもなると少し手狭ね。ルシアはピッタリとくっついてくる。夏だから暑いでしょうに……。
私のそんな考えは外れ、意外にも涼しい。ルシアは本当に、魔法の天才ね。寝ていてもこれを保てるのでしょう?
「ルーチェ」
「どうしたの?」
「私は、どんなルーチェでも好きですよ?」
……そう。そっか。
「ひゃっ」
ワシャワシャとルシアの頭を撫でる。どんなルーチェでも好き。そうよね。何を考えていたのかしら。ルシアもお兄様も、お母様たちもきっと、本当のことを伝えたら受け入れてくれる。
勝手に受け入れてもらえないかもと、怯えていただけ。ルシアよりも臆病ね、私は。
「ルシア」
「はい?」
「……今度、話があるの」
最初はルシアたちに。お兄様とアイトも混ぜて話をしよう。それからお母様とお父様にも伝えて。それで、ちゃんと対策をしましょう。
本当に、ルシアはいつも私を助けてくれる。いつも私を救ってくれる。ルシアにその自覚はないでしょうけれど。
「私も好きよ」
ルシアの何気ない一言に、私は救われているわ。ありがとう。




