第四十九話
《わざわざ俺まで呼んだ理由はなんだ》
「ん〜?」
せっかく星空見ながら散歩してるのに声かけるなよ。そうは思っても声には出さない。こいつ呼んだの俺だし。なんならさっきから後ろにいるアベラスの視線が痛い。
雲よりもさらに上。そこを優雅に歩いている俺とアベラス。そしてちょこんとついてきているジン。アベラスは酒飲んでるとこ連れてきたから不機嫌。ジンも寝てるとこ連れてきたから不機嫌。元々嫌われてるのもあって今にも魔法で殺されそう。
「気になってたろ? あの子たちのこと」
《姿を見せる理由はない》
辛口評価は相変わらずで。けど、今回はそうもいかないんだよ。だって――
「【破壊】がお前ら連れてけって言ったんだから」
俺の大好きな子。世界一大切な人。もう何年も、眠り続けている俺の主。そんな主の、兄に当たる存在。
昔から、あいつの考えは分からない。……違う。理解できる。けど、分かりたくない。だって、それはあいつと同じってことだから。
「あのとき、俺らは選択を間違えた」
そうして一つの国が死に、多くの生命が消えた。似たような状況だからなのか、それともルシアとルーチェがいるからなのか。あいつは俺に、過去の過ちを精算しろと言った。
あいつが俺に何かを言うときは、全部あの子のためだ。だから面倒なことは考えずに動けばいい。
「……俺は関わらねぇぞ。もう人間にはこりごりだ」
「ここまでくれば俺だけでなんとかできる。アベラスとジンは待ってていいよ」
《……あまり気負うなよ》
……そういうつもりはないんだけどな。でも、そうか。ジンからすれば、そう見えるのか。
あの日のことを、今にも夢に見る。もっとやれたことがあった。あの子の幸せを壊さずに済んだ。その後悔が、きっと出ているのだろう。
しばらくふらふらと歩いていれば、そう遠くない場所に、亀裂が走る。空間の歪み。強すぎる力が集まることでできるもの。俺たちの家の入口でもある。
そこを通れば、景色が一変した。夏特有の湿った空気は消え、涼しい風が吹いている。辺り一帯に花が咲き誇り、なんとも幻想的で、皮肉に思えた。
遠くには赤や黄などさまざまな色のチューリップ。けれど、真ん中は黒いチューリップで覆われている。そして、中央にそびえ立つ巨大な樹木の根元。そこに、真紅の髪を持つ男と、白銀の髪を持つ少女がいる。――正確に言うのなら、少女を抱える男と眠っている少女かな。
「帰ったか」
「言われた通り、釘は刺しておいたよ」
わざわざあそこに行ってあげたんだから、感謝してよね。別にお前の命令無視してもよかったけど、ルシアのためって言われたら仕方がないし。
「反応は」
「んー、驚いてはいたよ」
あのときのルーチェの顔は傑作だったね。なんで知ってるのって驚いてた。いつもなら噛みついてくる子だけど、声も出てなかったし。
「俺らは無視かよ」
《いつものことだ》
はいはい。そう言ってすぐにその子に近づかない。お前の権利はここじゃあってないようなもんなの。分かる?
……まぁ、こんな冗談を言ってる場合じゃないんだけどね。もう何百年も目を覚まさない少女。ジンが心配するのも当然だ。大丈夫だと、生きていると分かっていても、怖いものは怖い。
「それで、次は何すればいい?」
「……次は――」
「相変わらず注文が多いなぁ」
やるけどね。だって、そうすれば目が覚めるかもしれないんだろう? いくらでも待つよ。ずっとずっと待っているんだ。この子が起きるなら、なんでもする。
「起きたら声を聞かせてね。【調和の神】」




