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第四十八話




「ルシアの言った通り、こいつは最上位精霊。風の精霊、ジンだよ」

《我々に上下はないがな。貴様ら他種族が上だ下だと決めているだけだ》


 【時守】様、普通に話していますね。ご友人、なのでしょうか。そうだとしても人間(ひと)上位種族(精霊)の距離感ではないと思いますが……。


「昔はこんなもんだ。種族に優劣がついたのは戦争が起きてからだしな」

「……おじ様たちって、いくつなんですか?」

「数えてない」

「四十超えて数えんのやめた」


 【時守】様も【幻音】様も、全く老いを見せませんよね。【時詠み】様たちもそうですが、単に魔力が多いから老化が遅い、というワケではなさそうです。

 魔法や魔術でそうしているのか。もしくは種族そのものが違うのか。……魔塔って、そういうところ分からないんですよね。現時点で私が種族を知ってる方が【氷華】様と【淀み】様だけですし。


「……まぁ、俺らは手伝えないけど、頑張りなよ」

「頑張りなよって……。そんなに軽い問題じゃないのですが」

「お前らなら大丈夫だろ」


 ポン、と【幻音】様の手が頭に乗り、撫でられます。人にやるような撫でではなく、犬猫相手にやる、あの、ワシャワシャってやつです。そのせいで髪がボサボサです。

 【幻音】様たちも【時詠み】様たちも、揃いも揃って「大丈夫」と言います。根拠もなくです。信頼されていると感じて嬉しい反面、期待通りにいかなければどうしようという(プレッシャー)があります。実際、それで今回も迷惑をかけていますし。


「今の子って根拠とか理由とか好きだよね〜」

「お前が適当すぎるんだよ……」

「んー、根拠ねぇ。……強いて言えば、主の夢、かな」


 主の夢、ですか? 【時守】様はご自身の信仰している神様を主と言います。神様の夢、というのはお告げということなのでしょうか。それともまた別のもの?

 考えても分かりませんね。首を傾げていれば、【時守】様に笑われました。考えさせて笑うってなんですか。


「ごめんごめん。結構真剣に考えてるからさ。夢って、そういうものじゃないよ」

「じゃあどんなのなんですか?」

「予言だよ」


 ……それは、お告げとは違うのですか? 神様のお言葉なんですよね? それなら、お告げだと思うのですが。


「ちょっと違うね。お告げってのは主たちが生命に何かを伝えるためのもの。予言は主たちからの警告なんだ」


 【時詠み】様たちがお告げを無視するのはそういうことですか。何故そう肝心なことを教えてくれないのか。

 それに、お告げって古代語を読める人じゃないと分からないんですよ? 今の時代で読めるのは魔術師か数少ない古代語の学者しかいないんですよ? 人々に伝えたいものを聞いて終わりだったら意味ないんですよ。


「つまり、その予言は」

「何か面倒なことが起きるということだね」

「起きるっつーか、起きてるっつーか……」


 いろいろと面倒が起きてますからね。どうしましょうか。本当に。問題は山積みですよ。それと、何か分かってることがあるのなら言ってください。どうして重要なところを濁すんですか。そのせいで問題が大きくなったらどうす……。【幻音】様からしたら関係ありませんね。自分の興味があるもの以外全部どうでもいい方なので。


 【幻音】様は大丈夫だろと言いますが、そうとは思えないんですよね。違法薬物の件もありますし、犯人が何故こんなことをしたのか、どうして違法薬物について知っているのか、調べないといけません。


「まぁ、何かあったら呼んでよ。すぐ来るから」

「お前は仕事をしろ。溜まってんだよ」


 あの、真剣な空気を作るだけ作って壊すのやめてくれませんか。いつものことですけども。

 やいのやいのと言い合っていますが、この方たち、時間大丈夫なんでしょうか。いつだかに遅くなるとまずいと聞いた記憶があるのですが。怒られても私には関係ないからいいですけど。


「冷たいねぇ。……まぁ、そんなものかな。何かあったら祈るといいよ。調和の神の加護がありますように」

「……創造の神の加護が訪れることを願って」

《小さい子らに祝福を》


 ふわりと、温かい風が吹きました。夏と言えど、夜は冷えます。本当の風ではないですね。魔力でしょうか。身体を優しく包んでくれます。身体から疲れが引いていくような感覚がします。心なしか、魔力の流れもよくなりました。

 それに、なんでしょうか。音が聞こえます。不安をかき消してくれるような明るい音色。なのに、どこか不安げで悲しそうに聞こえます。まるで、誰かが泣いているのに必死に笑顔で隠している。そう感じる、チグハグな音。


「それじゃあ、頑張ってね」


 【時守】様は帰り際にルーチェに何か耳打ちしました。それを聞いたルーチェの顔は凍りついていて、まるで、何か秘密を暴かれたかのようでした。

 手を振って帰ろうとする【時守】様を見て、何か言いたげにしているけれど、手を強く握りしめるだけ。ルーチェが何も言わないのは、とても珍しいです。いつもなら追いかけてでも話しに行くのに。


 ……気になりますが、まずは予言と問題のことです。既に問題は起こっている。それをどう解決するか。予言のことを私たちに言ったのは何故か。【時守】様は真意が分かりにくい方なので分かりませんが、【幻音】様は意味もなく言う方ではありません。つまり、何か関係がある? 言わなかったということは、既に私の知る何かですかね。

 自信はありません。けれど、最善は尽くします。それに、やるしかありませんから。これ以上、失敗は重ねられない。自分の価値を、しっかりと示さないと。


 庭園に風が吹きます。夏特有の湿り気を持つ空気を風が撫でる。涼しい、とまでは行かずとも、ジメジメとした蒸し暑さは感じません。

 庭園を照らす星々はただそこにあります。何も語らず、ただ光り輝くだけ。けれど、それこそが星の魅力なのです。前に進めと、背中を押されているような気がします。……なんて言うのは、夢見がちですかね。






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