表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/55

第三十八話




 ……部屋に入ってきたのは、見慣れた人物でした。昔からよく見ている明るく鮮やかな橙色の髪。いつも、私たちが困っているときに助けてくれる、頼りになる人。


「オルコス卿……」

「……ルシア様」


 オルコス卿の顔を見て、安心しました。助けに来てくれた。そう思ったから。でも、おかしいんです。何故男はオルコス卿を攻撃しないのでしょうか。だって、オルコス卿は騎士団の服を着ています。敵だと分かっているはずです。なのに、何故何も言わない。何故動かない。それに、オルコス卿が男を無力化する様子もない。


「手荒な真似をして、申し訳ありません」

「……ぇ?」


 その言葉に、背筋が凍る。オルコス卿が何を言ったのか、理解ができなかった。手荒な真似? 何を言っているんですか。助けに、来てくれたんですよね? そうですよね。なんで、男に視線をやるんですか。何故男は、あなたの言う通りに、部屋の外に……。

 頭では分かっている。分からないといけない。けれど、信じたくない。嫌だ。そんなはずないと、心が悲鳴をあげている。だって、そんなはずありません。何で、どうして……!


「あなたが、彼らに命じたんですか……?」


 嘘だと言ってほしかった。違うと、敵ではないと、助けると。なのに、オルコス卿はふっと笑うだけで、何も答えてくれません。それが、私に現実を突きつけてくる。

 オルコス卿は、男たちの仲間。じゃあ、最初から、このために? 護衛をしてくれたのも、全部? 優しくしてくれたのも、大丈夫だと励ましてくれたのも、全部、全部このため……?


「そんな顔、なさらないでください。全て、あなたのためです」

「私のため? ふざけないでください! 信じていたのに、なんで……。どうして……!」

「……私は」


 何か、言えばいいではないですか。私をどうするつもりなんですか。どうしてこんなことをしたんですか。なんで、そんな目で私を見るんですか。どうして、そこで口を閉じるんですか。

 オルコス卿は、ずっとこちらを見てくる。昔から変わらない、私たちを見る目。妹のように大切にしてくれた。兄のように慕っていた。互いに信頼していた。そう思っていた。私が人と関わろうとしなくなってからも、ルーチェやシグニのように、そばにいてくれた。大切なものを守るような目。どうして今、それを向けてくるんですか。


「……あなたをお慕いしています。ルシア様。ずっと昔から」


 跪いて、私の目を見て、はっきりと、そう言ってくる。

 その言葉に、思わず固まってしまう。何を、言っているのだろう。この人は……。信頼していた人に裏切られて、こうして攫われて、怒りを露にしている私に対して言うことが、慕っている? 意味が分からない。理解ができない。


「触らないでください!」

 

 オルコス卿が手を伸ばしてきて、反射的にそう言ってしまう。そんなことを言っても意味はない。そう思ったけれど、ピタリと動きが止まった。私が嫌がることはしない。昔からそうだった。なんで、そうなんですか。いっそのこと、今までのが全て嘘だと、乱暴に扱ってでもくれれば、憎めるのに。どうして、そんなに、優しいんですか。

 どうすればいいのか分からない。オルコス卿が何を考えているのかも、ここがどこなのかも。オルコス卿の行動にも、分からない点だらけです。普通ならば、こんなことは絶対にしない。するはずがない。今まで見てきた姿が嘘だったのだろうか。だとしたら、今のこの優しさは、なんなのだろうか。


「……シグニ」


 無意識に、助けを求めてしまう。いつもそばにいてくれた、幼馴染(大切な人)。きっと、名前を出したのが悪かったのでしょう。オルコス卿の表情(かお)が歪んだ。

 間違えた。そう思ったときには、遅かったです。オルコス卿の手がすぐそこまで来ていて、倒れ込む。馬乗りにされ、首を絞められる。

 息ができない。必死に酸素を吸い込もうとするけれど、オルコス卿の手の力が強くなり、苦しさが増すだけ。オルコス卿はブツブツと、「なんであいつを」「こんなときまで」と何かを言っている。けれど、それが何かは分からない。そんなのを聞く余裕は、私にはありません。

 ただでさえ息ができなくて苦しいのに、魔力が使えない。目が覚めたときよりも、身体が熱い。身体の中で、何かが暴れている感覚がする。それが魔力なのだと、すぐに分かった。急いで体内から出さなければいけないのに、魔道具のせいでそれができない。息ができず、身体は内側から魔力に攻撃される二重苦。

 

 オルコス卿の顔を見ると、正気とは思えませんでした。焦点の合わない目。浅い呼吸。力は確かに込められているのに、手は震えていて力を入れきれていない。あの男たちとは違うけれど、何か様子がおかしい。まるで、何かに追い詰められているように見えた。


「……!」


 複数の足音と、金属音が遠くから聞こえてくる。今度こそ、助けだろうか。だんだんと意識が朦朧としてくる。もしかしたら、酸素が脳に回らないせいで、ありもしない音が聞こえているのかもしれません。


「ルシア!!」


 最後に感じたのは、悲鳴にも似た、いるはずのないルーチェの声。そして、オルコス卿から微かに漂ってくる、どこか甘い独特な匂いでした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ