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第三十三話




 鈍い痛みで目を覚ましました。頭が痛くて、その箇所に手をやると包帯が適当に巻かれています。手当てはされているようですね。私が入れられた部屋はどうやら半地下になっているようで、天井付近に小さな床下換気口が一つ。光もそこからしか入ってきておらず、部屋に明かりはありません。部屋の中は掃除はされているものの、少しカビ臭いですね。ドアノブを念のため回してみますが、当たり前ながら開きません。オルコス卿がくれた魔道具は外されており、代わりとばかりに魔力封じの魔道具が腕に着けられています。

 ……正直なところ、とても怖いです。完全な暗闇ではありません。けれど、誰もいない薄暗い小さな部屋に一人。嫌でも昔を、あのときのことを思い出してしまいます。突然見知らぬ場所に連れてこられて、今のように閉じ込められて、あるのは外から入ってくる少量の光だけ。


「……みんな、無事なのでしょうか」


 魔力が使えないからなのでしょうか。こんなにも不安になるのは。部屋の外の状況も分からず、ルーチェたちが無事なのかも分からない。いつもなら、魔力を使ってみんなを見つけたりできるのに。精霊たちに頼めば、すぐに状況が分かるのに。魔力が使えない。ただそれだけで、こんなにも惨めなんですね……。無意識に、魔力を感じ取ろうとしてしまう。けれど、そんなことできるはずもない。確かにそこにある魔力が、今はとても遠く感じます。いつも自由自在に操れる手足のようなものが、今は操ることは疎か、感じることもできない。

 どうにかしようと頭を使っても、どうにかしなければと思っても、恐怖で身体は動いてくれません。昔と同じ、部屋の隅で身体を小さくして、息を殺して、ただそのときまで待つだけ。あのときよりも成長しているはずなのに。あのときよりも強くなっているはずなのに。私は、魔術師なのに――。


「お目覚めか」


 声が聞こえて顔を上げると、私の頭を打った男がドアの前で壁に身体を預け、こちらを見ていました。やっぱり、おかしいです。魔力を封じられていようと、これほど近い距離にいるのです。なのに魔力を感じられない。ドアを開く音も聞こえなかった。


「……何が目的ですか。私を誘拐してもメリットなんてありませんよ」

「あるだろう? なぁ、皇女様」


 ……何故、それを知っているのです。魔力が使えずとも、一度かけた魔法はそう簡単に解けません。今も解けていないはずです。なのに、何故この男は私が皇女だと分かった? ずっと見られていたワケではないはずです。お祭りだと浮かれてはいても、人の視線に気づかないほど警戒していなかったワケではありません。それに、オルコス卿とアイト卿が気づかないはずがない。

 

「第二皇女のルシア皇女。魔法で姿を変えたのはさすがだが、無駄だったな」


 ……ルーチェと間違えているワケではない。無差別な人攫いでもない。目的は私。となれば、ルーチェたちはおそらく無事。身なりからして街をうろつくゴロツキといったところでしょう。誰か、私を厭う人間に依頼された? だとしても何故こんな輩を? …………足がつかないように、ですね。報酬さえ払えばなんでもする上に、もし私を引き渡す前に逃げられてもこの男たちを罪に問うことしかできない。依頼主の名前は知らないでしょうね。伝えるなどバカなことをするはずがありません。


「それで、どのようなご用で?」


 男は何も言わない。それにどうしても、焦ってしまう。できる限りでいいから、情報を得ないと。ただでさえ捕まって迷惑をかけているんです。少しでも、依頼主についての情報を取らないと。煽るように言ったり、揺さぶりをかけてみたりしますが、男は微動だにしません。相変わらず呼吸音は聞こえてこない。それに、瞬きもしておらず、死んでいるようにも感じられます。まるで、何かに操られているように、生気を感じない……。

 静寂の中、汗が頬を伝って落ちていく。何も分からない。この不気味な男と二人きり。聞こえてくるのは私の浅い呼吸音と、早くここから逃げ出したいと警鐘を鳴らしてくる心臓の音だけ。そんなときです。ゆっくり、ゆっくりと、足音が聞こえてくる。自分以外の、誰かの音。それに一瞬安堵するも、すぐに恐怖にかき消されていきます。男の仲間である可能性が高い。何をされるか分からない。

 来ないでくれと、心の中で叫ぶ。当然ながらその叫びが届くことも、私の気持ちを汲み取ってくれるはずもない。ドアノブが回り、ギィイと不快な音を響かせながらゆっくりとドアが開く。外から部屋に入ってきたのは――。






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