其の三十七『問いかけ』
前回のあらすじ:欧州支部襲撃、それには溝呂木が関わっていた。
次の日からセラスのやる気は今までと比べて飛躍的に上昇していた。
まるで生まれ変わったかのように、はたまた長い夢から目を覚ましたかのように。
それに琳たちは気づいていたがなんでそんなに頑張っているのかとは誰も問わなかった、きっとセラスは楽園との戦いの日に備えて今からこうして頑張っているのだろうと勝手に決めつけてしまっていたからだ。
それでなくてもやる気を出すこと自体は好ましい事であるため誰も気にしなかった。
「香月君、この前の討伐でのことなのですが」
「うん、何?」
それは庭園の守り手内だけに留まらず、学校に居ても最大限周りに悟られないように配慮しながら琳の席に頻繁に行って話をして、昼食を食べながらも打ち合わせをしている。
学生というよりはキャリアウーマンのような、そんな感じだった。
そのことを涼や立花に話しても「やる気があることは良いことじゃないか」という答えが返ってくるだけ。
確かにやる気があるのは良いことだ、それは琳だって思う。
でもそれ以上に、全ての任務を一緒にこなし庭園の守り手内でも学校内でも一緒にいることが増えてきている琳には、どうにもセラスが「生き急いでいる」感じがして堪らないのだ。
「よお香月、羨ましいなぁお前」
「なんだよ突然」
ある日クラスメイトの一人が琳にそんなことを言ってきた。
何の脈絡もなく、一人でいる琳のところにニヤニヤしながら来たのだ。
「ぶっちゃけどうよ。マグノリアさんとは」
「……何の話だ?」
「とぼけんなよー付き合ってんだろ?」
「はぁ!?」
一体どこからそんな話が出回ったのだろうか。
恐らくその犯人は琳の友人たちにはきっといない、が、どうしてそんな話が流れているのか大体の予想はつく。
琳とセラスは初対面の状態から今日までの短い期間で急激に距離が縮まっている、それは琳自身から見ても他の人から見ても、そしてセラスもそう認識していることだろう。
この学校にいる学生の大半は思春期真っただ中で恋愛ネタなどがあればホイホイと吸い寄せられる性質を付与されている、噂の転校生と急激に仲良くなっている男がいるとなれば、その二人の関係をそういう風に捉えるのはもはや学生の性である。
だが――――、
「はぁ……俺とマグノリアさんは別にそういう関係じゃないし、そんなことに進展するほどじゃない」
「いやいや、でも最近一緒にいるじゃん」
勿論そんな関係はない。
琳は茶化すクラスメイトにそう伝えるも一度それっぽい噂が流れてしまえば大体は自然消滅を待つしかない、現にクラスメイトは琳の言葉を信じようとしていない。
「しつこいぞ、お前も」
「隠さなくてもいいっての」
「だから――――」
「そういう噂が流れているのかしら?」
そろそろ本当に怒ろうかと琳が思っているその時、唯一にして最大の戦力が訪れた。
セラス・マグノリアがクラスメイトの後ろに立っていた。
クラスメイトの矛先が今度はセラスに向かったがセラスはこれを正面から叩き折る勢いで否定、噂の発信源、そして二度とこう言った話をしないようにクラスメイトを叱った。
クラスメイトはこれ以上は流石にダメだと察したのかそそくさと退散していった。
セラスは「はぁ……」とため息を吐いて琳の方を向いた。
「全く、ここの学生は勉学よりもこういった話題の方がやる気出るのですね」
「……全員って訳じゃないけどね」
「まぁ別に構いませんが」
「構わないんだ……」
「私と香月君が親密な関係だと思われていた。裏を返せばそれだけ私と香月君の仲が深まっていると認識されていること、つまり連携をするにあたっての練度が高まっているということです」
「真面目だねー」
相変わらず真面目なセラスに琳はただただ素直にそう思うしかなかった、それ以外の感想が思いつかなかった。
そしてセラスはプログラミングされたロボットのように、いや、呼吸をするようにと言った方が正しいのか。
それだけ当たり前の事のように魔物討伐の事やお互いの気になった点などを話し始めた。
「――――では、こういうのはどうでしょうか」
「……マグノリアさん」
「はい、なんでしょうか」
「………何か焦ってる?」
それは今琳が思った率直な感想だった。
「それは………」
「最近ずっと思ってて……あ、勘違いならごめん」
「………」
セラスは何も答えず、だが何か考えているような雰囲気で琳の方をじっと見つめていた。
数秒のタイムラグがあった後、セラスは決心がついたという表情で「香月君」と言葉を発した。
重々しいその雰囲気に琳も思わず身構えてしまう。
「……パートナーとしてコンビを組んでいるあなたには話した方が良いのかも知れませんね……」
「えっと……」
「香月君、あなたは――――」
――――目の前で親を殺されたことがありますか?
セラスは真面目な顔で確かにそう言った。
琳はその言葉の真意を聞こうかどうか迷った。
きっとその言葉通りの意味を含んでいるのだろう、だがもっと、もっとその言葉には他の感情が孕んでいるような気がした。
だが一歩遅く、琳が「それって」と口に出す前に次の授業の予鈴が鳴り休み時間が終わってしまった。
困惑している琳とは真逆に、何事もなかったかのようにセラスは「授業始まりますね、急ぎましょう」とそそくさと教室に戻っていってしまった。
琳もその後を追って教室に到着して午後の授業を受ける。
だが全く授業の内容が頭に入ってこず、セラスの言葉が頭の中でウロウロと彷徨っていた。
溝呂木、欧州支部襲撃、そしてセラスの言葉の真意。
しばらく琳の頭の中はそれで一杯だったそうな。
雲行きが怪しく……




