其の三十四『不穏な存在』
前回のあらすじ:かくも平和は素晴らしい
「琳、残りはいるか?」
「いえ、今ので最後です」
「だいぶ戦えるようになってきたじゃねぇの、成長したな」
「ありがとうございます、涼さん」
『あと三十秒ほどでヘリが到着します、お疲れ様でした』
今日も今日とて、琳は魔物討伐に明け暮れていた。
一種の慣れで、琳は初めての時よりだいぶ戦えるようになり、再生者の体や開化細胞の適合率も相まって一対複数を難なくこなせるようになっていった。
琳と涼はヘリの到着を待ちながら人目に付かないように一般人を装い人の目をごまかしていた、だが待てども暮らせども栞のアナウンス通りの時間には来ずあれから五分が経っていた。
「栞―、聞こえるかー?」
『あ、涼さん。丁度よかった、帰りが遅いから心配してたんですよ』
「それどころかヘリまだ来てないんだけど」
『そんな……今確認します!』
「ああ頼む」
「栞さんなんて言ってました?」
「今確認するだってさ」
すぐに涼の通信に栞からの返答があり、栞によればヘリが動いていなかったとのことで今連絡を取っているとのこと。
「しゃあねぇ、待つか」
「ですね」
二人が栞からまた連絡が来るのを待っているとそこへ何の気配もなく一人の男性が現れた、突如として姿を現したため二人はその男が虚空から来たのかと錯覚したほどだった。
男の見た目は白髪が混ざった黒髪をオールバックに整えた五十代後半といった具合の見た目だった、男は二人に「あのぅすみません」と物腰柔らかに声をかけてきた。
「……何でしょうか」
「少し、お尋ねしたいのですがね。お時間宜しいでしょうか?」
「……ええ、構いませんよ」
「あぁそれは良かった。では、一つだけ」
そうして男はこう言ったのだ。
「あなた方は、庭園の守り手の方々でしょうか?」と。
その質問で二人の鼓動は大きく飛び跳ね口から出るのではないかと思うほど、それほどまでに二人は驚いた。
だが二人はまだ冷静さを欠いてはいなかった、庭園の守り手は秘密裏に動いている組織なためその存在を一般人が知ることはない、つまりこの男性はその関係者もしくは敵対組織とかのメンバーである。
しかし庭園の守り手のメンバーならば栞や立花それこそここにいる涼が知っているはずである、だが涼は驚いている。となれば初対面。
ならば消去法で考えてこの人物は狂化細胞を開発した科学者が結成した組織のメンバーであることが極めて高い、そしてここで身元をばらせば面倒になることは明白である。
「……申し訳ないが、あまりよく分かりませんね」
「おや、そうですか?」
「えぇ、あたしは一人暮らししている弟のとこに遊びに来ただけですんで。なぁ?」
「まぁね、いきなりやって来て泊めてくれって言うんですもん、姉ながら困りますよ」
「あぁそうでしたか、すみませんねいきなり変なことを聞いてしまって」
「いえいえいえ、お気になさらず」
「………と、この辺りで茶番は宜しいでしょうか。朝比奈涼様、香月琳様」
「……てめぇ」
完全に最初から遊ばれていたことを二人は察し、涼は若干の怒気が孕んでいた。
「そんなに怒らないでください、私も少々ふざけすぎました」
「……何もんだ、あんた」
「申し遅れました。私、溝呂木十造と申します。以後お見知りおきを」
溝呂木と名乗った白髪交じりの男性は綺麗に一礼をして自己紹介をした、喋り方やその立ち居振る舞いからはただのジェントルマンである。
「それで何の用だ」
「今日はご挨拶をと思いましてね。新規の取引先に出向くようなものです、アポイントメントは取っておりませんが」
「そりゃ残念、もう一度アポ取って出直しな」
「せめてお話だけでもどうでしょうか、朝比奈様」
「どこの誰かも分かんないやつと話すなんてリスクの高いことしないな」
「ではこういうのはどうでしょう、私の話を聞いてくだされば、私たちのことについて少しだけお話しいたしましょう」
「なに……?」
それはつまり、庭園の守り手ですら素性が分かっていない科学者たちの組織につながる情報が嘘偽りの可能性があったとしても入手できるかもしれないということ。
そしてもし溝呂木がその組織の人間ではなかったとしても何者かは知ることが出来る。
「どう思う、琳」
「………多少のリスクはありますが、飲んでみるのもありかと」
「あぁ香月様は理解があるようで助かります。どうでしょうか朝比奈様、相方さんも言っておられますし」
「……琳が言うんだったら、少しだけ聞いてやる」
「ありがとうございます」
「ただその代わり先にお前の素性を明かせ」
「構いませんよ。では早速、私の所属する楽園について少しだけ」
「……エデン?」
「えぇ、楽園と書いてエデンと読みます。お察しの通り、狂化細胞を開発した科学者の作った組織でございます」
さらりと自分の素性を暴露した溝呂木、正体を明かしてもその余裕は崩れず、だからなんなのだということを無言で言っているようだった。
ヘリはまだ来ない、もし今ヘリが到着したら完璧に勝ち逃げ状態で帰れる場面だがどうやらそれは叶わないらしい。涼と琳は観念して、溝呂木との会話をせざるを得ないというわけだ。
だが涼はこの時すでに、とある一つの決定打を打っていた。
「(後は頼むぞ……栞)」
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「翔馬さん、立花さんを呼んできてください。大至急」
「言われなくても分かってるし、もう呼んでる」
庭園の守り手極東支部、そのエントランスでは栞と翔馬が緊張感をもってモニターを除いていた。
そこへエレベーターから立花がやってきて二人のもとへと早歩きでやって来た。
「状況は?」
「まだ何とも言えません……ただ……」
「もし本当に楽園の奴だったら、ちょっとやばいかもね」
「向こうからの接触とは……大体な」
溝呂木との会話の最中、というより冒頭の姉と弟のふりをしていた時にすでに涼はばれないようにデバイスモードの黒の武器を栞につないだまま、栞たちの声は聞こえないようにしていたのだ。
そう、今涼と琳が溝呂木と会話している内容は全て栞たちのもとへリアルタイムで届けられているということだ。
「栞、この会話の録音は?」
「しています、最初っから」
「……ちょっと電話してくる、ここは頼んだ。すぐに戻る」
「了解です」
立花はそう言うと再びエントランスから出てまたラボラトリへと逆戻りした、そして黒の武器を取り出して電話をかけた。
「住職」
『なんじゃいきなり』
「イヴの警備レベルを最大限まで上げろ、緊急事態だ」
『……どういうことじゃ』
「いいから早くしろ、それから絶対にイヴの側から離れるな」
『……分かった今すぐやる。じゃから状況を説明せい』
「楽園の連中が涼と琳に接触した」
『なんと……』
「とにかく急いでくれ、そっちにも接触をしてくる可能性が高い」
立花は早口で住職に簡潔に現在の状況を伝えて電話を終わらせると、パソコンのデータを黒の武器の中にコピーした。そしてまたエントランスへと早歩きで向かいながらこう呟いた。
「さぁて大博打だ、お前はどうする、琳」
その時の立花の顔はどこかこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
ようやく敵対組織的なのの登場




