其の三十三『とある平凡な日常』
前回のあらすじ:立花はガッチガチの強キャラ
幾日が経ち、季節は移り変わり、あれほど暑く猛威を振るった太陽は何処へ行ったのだろうか。
季節はすっかり秋をも通り越して冬に入ろうとしていた。
雪こそまだ降ってはいないものの、放課後ともなれば手はかじかみ、上着を着る者も多くなっている。
十一月、今年という周期があと二カ月で終わるというのは、考えると早いことだと思う。
琳たちは今日まで、いつも通り学校に通って放課後には庭園の守り手によって魔物が出ればそれを討伐するために戦ってきた。
そんな琳たちでもどうしようもない問題がたった一つだけある、卒業後の進路だ。
琳は専門学校へ、総一郎は医療系の大学へ進むことになっているため卒業したら今よりも大変になるだろう。千鶴やセラスの進路は分からないが、少なくとも葵はまだ一年考える時間が与えられている。
今日はそんな、世界の命運よりも目先の未来についてのお話だ。
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「最近寒いな」
「そうだな……もう十一月か、早いもんだな」
朝、たまたま出くわした琳と総一郎は二人で学校へ向かっていた。他愛もない世間話をしながら時が流れるのは早いなと爺臭いことをしみじみと思っていた。
冬に入ろうとする変わり目の季節、風が冷たく吹き付け二人の体をぶるりと震わせた。
「なんかさ、今年の一年は早かったよな」
「しかも途中からな」
「ほんとほんと、あっという間過ぎた」
「そう言えば香月、お前どっちにするんだ?」
「あ? 何がだ?」
「朝比奈さんと雨宮さん、どっちの事が好きなんだ?」
いきなり総一郎が真面目な顔でそう言ってくるものだから琳は思わずキョトンとしてしまった、考えもしなかったことを突然言われ軽く驚いている。
「なんだよいきなり」
「あぁそれとも一之瀬さんか? 仲いいもんな、いけると思うぞ」
「人の話を聞けっての」
「聞いた上で僕はお前に話しているぞ」
「ぬぐっ………」
「で、どうなんだ?」
「………そういうのは今んとこ考えてません!」
「あっ香月、走るな!」
琳は答えをはぐらかしてダッシュで琳は学校へと向かった、総一郎はその琳の後ろを追いかけていき、適合者となってから体力が人のそれより大幅に上がり走る速度も上がっているため、時折自転車を抜かしながら学校へとノンストップでたどり着いた。
「先輩方、おはようございます!」
「おう、おはよう」
「おはよう」
玄関ではこれまた偶然にも葵と出くわした、葵はいつもと変わらず元気一杯で、寒さなんて気合で吹き飛ばしてしまいそうな印象を二人に与えてくれる。
「いやー、今日も寒いっすねー」
「風邪引くなよ。まぁ馬鹿は風邪ひかないっていうから大丈夫だと思うが」
「一之瀬さんなら心配いらないだろうな」
「お二人とも朝から酷いっす!!」
「冗談だ」
「冗談だ」
「ハモらないでください!!」
朝から二人は葵を揶揄って三人で階段を上がって、途中で葵と別れて三年生の階へと二人は階段を昇っていき教室に入った。
「おはよう、二人とも」
「おはよう千鶴」
「おはよう雨宮さん」
教室に入ると千鶴が二人に挨拶してくれた、いつもと変わらずに美人さんな千鶴は座って本を読んでいるだけでも画になる。流石はクラスのマドンナポジションに在籍しているだけはある。
「おはようございます、香月君、宗像君」
「おはようマグノリアさん」
「おはよう。マグノリアさん」
次いで同じく美人さんポジションについている期待の転校生セラス・マグノリアが教室に入ってきてクラスメイトたちは静かな歓喜を覚えた。
それから朝のホームルームが始まり、一時間目の授業は始まって、四時間目の授業が終わったら昼食を食べて、それから午後の授業を受けて、そうしたら帰りのホームルームが始まって日直の号令によって全員が解散する。
そんな日常は、適合者という特異体質になっても変わらなかった。
変わったことがあるというのなら、心休まる場所が増えたということだ。
「こんにちはー!」
「お、来たなお前ら!」
「こんにちは皆さん」
庭園の守り手極東支部、エントランスに入ると涼と栞が出迎えてくれて、翔馬が来て、何やらアホなことを言って全員からツッコミを入れられる。
そうしているうちに栞から依頼の通達が来て、それがなかったら涼や立花と手合わせをして、琳とセラスはコンビネーションの高めるため努力して。
いつもと変わらない日々、でも琳は気づいていた。
これが五日終わってしまう日が来るのだと。
「香月!」
「………」
「おい香月って!」
「えっ! あぁすまん、ちょっと考え事してた」
「こっち来い」
「お、おい。引っ張るなって」
琳がそんな感傷深いことを考えているところへ総一郎がやって来て、琳の腕を引っ張って無理やりとある場所へ連行した。
現在、琳は先ほどまでセラスと一緒に立花と戦っておりセラスと立花が用事があると言って先に抜けて一人でいるところだった。
「なんだよ、どこ行くんだ?」
「お楽しみだ」
そう言って総一郎は琳を連行して、途中で琳に目隠しを付けてまた連行した。
訳も分からず琳は総一郎に引っ張られていき、総一郎から目隠しを外していいと言われ不審に思いながらも目隠しを外すと、クラッカーの音と色とりどりの紙が目と耳を歓迎した。
「「「「「「誕生日おめでとう!!!!!!」」」」」」
何が起こったのか琳はしばらく理解できなかったし、何より今日が自分の誕生日だったということをすっかり忘れていた。
電気が消え、琳の目の前に葵がロウソクの刺さったケーキを持ってきて吹き消すように言った。琳は素直にふぅーっと息を吹きかけてロウソクの火を消し、拍手が起こった。
「ありがとうございます、皆さん」
夕方過ぎに行われた琳の誕生会。
琳は先ほどまで考えていた、この日常の終わりの議論を一旦放り捨てた。
こんな時くらいはそんなくだらないこと考えないで、素直に喜ぼうじゃないかと、そう思った。
いつもと同じようで、ちょっとだけ違った、とある平凡な日常のお話だ。
たまにはこんな日も、悪くはないでしょう?




