EP#21:アレース計画
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「アレース計画の……裏の顔……?」
「ああ」
スカイが軽く頷いて、目を伏せる。まるで何かやましい事があるかのように。
すると突然、スカイがさっき上げたばかりのジッパーを下げて、再び白い胸を露わにする。
決して大きい膨らみではないが、その肌の質感や柔らかく丸みを帯びたラインは確かに女性のそれであった。
「ちょ……っ!!?スカイ!?」
目のやり場に困る。
白い胸の一番高い部分はほのかに色付き、彫刻のように美しい。
スカイは律の動揺を物ともせず、胸を突き出す。二つの膨らみの中心からやや左側、心臓がある辺りには先ほど刺さっていたプラグを差し込む為らしい穴が開いており、その穴の淵は黒く焼けて焦げ付いている。まるで人間の皮膚とは思えない程に。
そしてその焦げは一定の太さを保ったまま、胸から真っ直ぐ上に伸びて首に巻き付くようになっている。
「これがアレースの最大エンジンシステム、心臓接続装置だよ」
スカイは首の黒い焦げ跡を指で軽くなぞりながら言った。
「心臓接続装置?」
「そう。アレースの主なエネルギー源は機体に取り付けられた太陽光パネルから作り出される太陽光エネルギーとされてるけど、本当はその他のもう一種類……
パイロットの“心臓”をエンジン、その鼓動をエネルギー源として使うシステムが内蔵されてるんだ」
スカイは淡々とそう言って、ロッカーから白いブラジャーを取り出して肩紐に腕を通した。
「心臓……?」
そう、とスカイは呟き続ける。
「僕の胸、穴が開いてただろ。それが心臓接続装置のプラグ差し込み口だよ。穴は心臓の手前まであって、鼓動をほぼダイレクトにキャッチして運動エネルギーとして送信する事が出来る。
実を言うとアレースの動力源はこの鼓動のエネルギーに依る所が大きい。だから仮に稼働中にパイロットが死んで鼓動エネルギーが供給されなくなったら、アレースも活動を続ける事が出来なくなる。それに、心臓接続装置はパイロット一人分の心臓のデータを保有するので精一杯だし、データの上書きができないシステムだ。
そして装置の脳みその部分はアレース本体に組み込まれてる。」
「つまり、パイロットが死んだらアレースも死ぬってこと?」
「そういうこと」
スカイが何も言わなかったので気付くのが遅れたが、律は自分がどうしてロボットであるアレースに“死”という表現を用いたのか分からなかった。
でも何故だか、それが最も適切な表現である気がした。
「パイロットになったら、アレースの為に胸に穴を開けなきゃならない。それにこの黒い筋。
熱で皮膚を焼くんだ。それでNCSに鼓動を伝える。基板の、銅箔みたいなものさ。一生取れない。運命そのものだ。」
スカイがようやくジッパーを一番上まであげて言った。
「で、お前……
パイロットになるんでしょ?」
「えっ……」
スカイの空色の目が律を睨む。
そしてはっきりしない律の反応に、分かりやすく憤りの色を見せた。
「そのつもりでここへ来たんじゃないの?これはお前の運命だって分からない?
退路なんて、甘えが生み出した幻想に過ぎない。目を覚ませ。」
「でも……スカイは充分強いじゃないか。俺がいなくてもエンシェントの退治に困ってなんかないだろ?」
何故そんな言葉しか出てこなかったのか分からない。きっと、これも甘えだ。
“これば選ばれた人間、あなたにしか出来ない事よ。あなたの力が必要なの”
シェナリーの言葉が脳裏を掠める。今、スカイにそう言って貰えたら、自分は救われるだろうと律は思った。
「まあね。と言いたいところだけど、そういうわけにもいかないんだ。まあ、お前がここにいるのは博士のエゴだから、戦力には困ってない。だからお前がアレースに乗るかどうかはそれほど重要な問題でもなくて、意外と簡単に断れるかも」
スカイは律の方を見ずにそう言いながら、床に落ちていたプラグを拾って埃を払う。
そしてロッカーの横のボタンを押してプラグを収納させた。ちょうど、掃除機のプラグのようだった。
「博士のエゴ?」
「新型の心臓接続装置が完成したらしい。つまり新しいパイロットを募った目的は新型のアレースだ。その臨床実験体だろうさ」
見れば見るほど背の低い彼女が振り返って無表情で律の足元を見つめながら言う。
彼女の瞳の中に閉じ込められた空が、少し曇っている気がする。
「新型……」
「心配しなくても、色々改良されてると思うけど」
「そうじゃなくて……」
「何?」
「……俺にできるのかなって」
律の言葉を聞いたスカイは、突然律の方へと荒い足取りで歩み寄り、彼の目の前で勢いよく顔を上げたかと思うと、力を込めて彼の胸倉を掴んだ。
「お前、僕のバディなんだろ?
じゃあごちゃごちゃ言わずに黙って乗れば。僕に背中、預けさせてみなよ。できるもんならね」
「……!」
スカイはそれだけ言って、ぱっと手を離して部屋から出ていった。
彼女の髪の香りが少し残る空間で、律はその苦しいほど速い胸の鼓動を抑えられずにただそこに立ち尽くすばかりだった。




