EP#20:衝動
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明るい緑色の機体が大きな太陽に照らされて眩しく輝く。
そして隣には、いつ見ても宛ら青空のような機体。
「あれ?あれれ?スカイもいるの?私だけで平気だよ?」
「ニコうるさい。それは僕の台詞だ」
どうやら通話システムは各コックピット内及び司令部に一纏りで固められているらしく、姿こそは見えないがパイロット達と指揮官がまるで同じ場所にいるかのように会話ができる仕組みになっているようだ。
さっきの新型エンシェントは偵察なのか1体だけだったが、今回は二十数体ほどいるように見える。
「数が多いわね。
ニコちゃん、スカイ、こいつらは既にデータ化済み!ウィークポイントと攻略法を弾き出したデータを送るから確認して。
全部ぶっ潰しちゃいなさい!」
シェナリーの指示が出ると同時に、前方中央の席に座っていたオペレーターがデータを送信した。
「これがエンシェント……」
その異形なる姿に、律は足がすくむ。
黒い体に翼の様な触腕。足や顔は無い。人間の様に感情や表情があるわけではなさそうだ。
先ほどから撃ち込まれていた弾丸によるダメージはほとんど受けていない。
「これとどうやって戦うんですか?」
「まあ見てな。
スカイ、ニコ、もうこれ以上の弾の浪費は避けたい。効率を最優先に考えろ。分かるな」
ヘッドマイクを押さえながら児島が告げる。
「ウィークポイントを狙い撃ちだね!」
ニコの声が司令部に響いた。
「そうよ。
数が多い以上、一体一体ウィークポイントを確実に潰して一体につき一撃で倒す事!できる限り機体に擦り傷一つ付けないように細心の注意を払って!」
「ごちゃごちゃうるさい!一撃で倒せば何でもいいんでしょ!」
スカイの機体の肩の部分が開き、中から細い砲身が伸びる。左右3本ずつ、合計で6本。
「ARES004、NT連装砲展開!
全ての砲身に砲弾装填完了!!発射!!」
その瞬間、眩い光と共にエンシェントの群れがまるでウェーブのように順に爆発していくのが見えた。
「すごい……」
「目標、全て消滅確認しました!
全てのエンシェント撃破完了です!」
司令部の至る所から安堵と称賛の声が聞こえる。
それはそうだ。あの大群をたった一人で、それもたった一撃で倒してしまったのだ。スカイの実力が平凡なものでないのは明らかである。
「殲滅に使用した砲弾の数は僅か6発……1体に1発使ってたら20発以上必要になる所だったわ。やっぱり流石ねスカイ」
シェナリーがヘッドマイクを外す。
「えーースカイー!ちょっと残しといてよぉ!」
「早い者勝ち」
パイロット二人の会話は、まるでエンシェントの殲滅を楽しんでさえいるように聞こえる。
自分はそんな風に背追い込まずにこの仕事をできるのかどうか、律は考えた。
自分がエンシェント殲滅を楽しんでいる姿がイメージできない。
もう決めたつもりなのに、
なぜかまだ揺らぐ。
スカイとニコがSCSに帰ってきたようだ。ドッキングの音が聴こえる。
「スカイとニコ、帰ってきたみたいだな」
「そうですね」
二人に訊いてみようか。
楽しむ術を、背追い込まない術を。
「児島さん、帰ってきたパイロットって、どこにいるんですか?」
「え?多分一番下のアレース搭乗口だと思うけど……」
「ありがとうございます!」
「あっ赤旗くん今はまだ……」
一番下、アレース搭乗口。
律はそれだけを聞いて司令部を飛び出した。あの二人に訊けば分かる気がしたから。
胸に蓋をしている不安の奥の感覚。
それが何なのか分からなくて、今はただ、もどかしい。
現役パイロットの彼女たちなら、そんな蓋を取り払ってくれると思う。
—————— 知りたい。
律は自分を突き動かすこの衝動と、心に痞えている蓋の向こう側の正体が同一である事を予感していた。
エレベーターのボタンを押すが、すぐには来ないようだ。律は諦めて階段を駆け降りた。
一番下、一番下へ。
SCS最下層に飛び降りる。薄暗い廊下は異常なほど寒く、パイプが剥き出しになった天井には時折、つららが出来ている。
僅かな明かりを頼りにアレース搭乗口を探すと、意外と分かりやすい場所から光と物音が漏れていた。誰か居る。アレース搭乗口だ。
律は観音開きの扉の取っ手を思い切り引っ張って、扉を開けた。
「スカイ!!」
扉取っ手を掴んだまま、その奥の光景を目にした律は思わず硬直した。
「え」
そこには驚いた表情で律を見つめるスカイがいた。
その姿は初めて会った時のように、空色のジャンプスーツに身を包んで———……はいなかった。
律の目に飛び込んできたのは、スカイの白い肌だったのだ。
長く宇宙にいるからか、細く白い手足、無駄な脂肪の一切ない身体。
身に纏っているのは白いショーツだけで、曝け出された胸の心臓の部分には黒いプラグのような物が突き刺さっている。
スカイは小さく舌打ちをしてからプラグを掴み、一気に引き抜いた。一瞬少し痛そうに顔を歪め、すぐに律を睨んだ。
「あ……その……着、着替え中だったんだ……ごめ……」
「心臓接続装置」
「え?」
律の謝罪を碌に聞きもせず、スカイは言った。
「これがアレース計画の裏の顔だよ」
「それって……どういう……」
スカイはジャンプスーツを履いて、ジッパーを胸の上まで上げてから軽く溜息を吐いて言う。
「本当に何も聞いてないんだな。
……仕方ない。僕が全部教えてあげるよ」




