EP#16:パイロット
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シェナリーが出撃命令を出してから数秒後、地平線の下からものすごいスピードで何か大きな物が宇宙空間へ飛び出していくのが見えた。
「………!!!!」
間違いない。
あれは律がIRS本部で見た巨大なヒト型ロボット、アレースとよく似たロボットだ。
律が見たものは機体が真っ赤に彩られていたが、これはまるで、
——————空の色。
目も覚めるようなスカイブルー。
何処かで見たような色だ。
そう。紛ごうことなくあれは———
「スカイ………?」
「スカイ、聞いたわね?作戦Cよ。エンシェントの位置情報はこちらには入ってないから管制から直接聞いて。いいわね」
シェナリーが電話で話す内容に“スカイ”という言葉が混ざるのを聞き、律は胸を高鳴らせた。
「それじゃ、あとはあなたに任せるから。あの子まで怪我させたら許さないからね」
シェナリーが電話を切るのを横目に見ながら、律は確信した。
スカイが乗ってる。
自然と目が機体の空色を追ってしまう。あれほどの大きさのアレースが小さな米粒大に見えた頃、向かいから何かが迫っているのが見えた。
「赤旗くん見える?あの空色の機体……、アレース004《ダブルオーフォー》號、あなたのバディ、スカイが乗ってるわ。そして、あっちに見える黒いの……あれが今回の獲物、エンシェントよ」
「エンシェント……」
実際にその姿を見るのは初めてだ。
「赤旗くん、行くわよ」
「え……どこへ?」
「言ったでしょ。負傷したパイロットのお見舞いに行くって」
シェナリーは既に歩き始めていた。振り返る事はない。いつの間にかランプの点灯も警告音も消えていた。
「でもスカイは……スカイへの指示は?」
律が尋ねると彼女は立ち止まり、律の方を軽く振り返りながら少し口角を上げて言った。
「1佐指揮官は私だけじゃないわ。あいつ、馬鹿だから無茶苦茶な指令ばっかり出すけど、スカイなら平気でしょ」
するとシェナリーはその長い髪を靡かせて前を向き直り、一直線に奥の大きな建物へと歩いていく。
律も何度かスカイの姿を追いながら、シェナリーの後に続いた。
そのまましばらく歩いて、建物の中に入る。シェナリーは足早にエレベーターの前まで進み、4階のボタンを押してから律に言った。
「彼、とても気さくな子だからすぐ仲良くなれると思うわ」
もう何度目かのエレベーター。
律はエレベーターに乗るために一歩踏み出したシェナリーの髪が揺れる時に微かに香った花の香りが、なんとなくしばらくは頭から離れない事を予感していた。
彼女の笑顔はとても眩しくて、あの笑顔を何度も見たくなってしまう。彼女には人にそう思わせる力があるのだと思う。
エレベーターという密室。
仄かに鼻腔をくすぐる花の香り。恐らくシェナリーが使っているシャンプーの香りなのだろうが、市販の芳香剤の類なんかよりもずっといい香りだ。
シェナリーがエレベーターを降りてすぐの病室の扉を開けた。
「ユーリアくん!大丈夫?」
ベッドの上で携帯ゲーム機を操作していた少年がシェナリーに気付き、ゲーム機を閉じた。
「シェナリーさん!!
平気!全然大丈夫!もう今からでもアレースに乗れるよ!」
明るい声でそう言った少年は、シェナリーの後ろにいた律の姿を不思議そうに見つめていた。
「?シェナリーさん、誰?」
「ええ、紹介するわ。今回新しくパイロットとして採用された、赤旗 律くん。IRS日本支部から……」
「日本!!??」
シェナリーの言葉を遮りながら声を上げた少年の不思議な深みのある紫色の目は、明らかにさっきより輝いて見えた。
「日本から来た、赤旗 律です。まだパイロットになるかは決めてないけど、もしそうなったらよろしくお願いします」
「君、日本人なの!?いいなあ!!なりなよパイロット!!なった方がいいよ!なってよ!!
あ、僕はユーリア!ユーリア・ヴァイオレットだよ!よろしくね!」
ユーリアはまるで畳み掛けるように言う。律は声が出せない。
「こらユーリアくん。まあ……元気そうで良かったわ。
赤旗くん。彼、日本の文化が大好きなの。」
「なるほど……」
日本が好きだと言われると悪い気はしない。日本人の律も日本の魅力を具体的に語れと言われれば月並みな事しか挙げられないだろうが、こういった“日本好き”の外国人である彼らに言わせれば、日本人ですら気付かなかった日本という国の側面を知る事ができる。
律には何度かそういう経験があるのだ。
「そういえばさっき緊急事態宣言出てたね。……誰が戦ってるの?
“ニコ”も怪我してるでしょ?
スカイもクウェイルもまだ帰ってきてないし、リツもここにいるし……“テオバルド”が一人で戦ってるの?」
「スカイが帰ってきてるのよ。そろそろ終わる頃じゃないの」
“ニコ”……“テオバルド”……?
ユーリアの口から聞いた事のない名前が飛び出す。他のパイロットだろうか。
そっかあ、とユーリアが納得した直後、シェナリーのスマートフォンが鳴った。
「やだ、マナーモードにし忘れてたわ。ちょっとごめんね、
……児島くん?終わった?ええ、分かったわ」
さっきとは全然違う、短い通話時間だった。
「シェナリーさん?」
「同僚の所へ行くわ。赤旗君も来て」
「え……?」
「SCSにはあなた以外にも日本人が一人だけいるわ。あなたにとって、彼の所が心の休まる場所になればいいと思ってね。会いに行きましょう」
シェナリーは笑顔でそう言い、ユーリアに「じゃあユーリアくん、お大事にね」と告げ、部屋を出た。
「ユーリア」
「どうしたの、リツ?」
律の頭の中には、宇宙へと飛び出すスカイの姿があった。
すぅ、と息を吸い込み、吐き出す。
「パイロットの話、……前向きに考えるよ」
律の言葉に、ユーリアの表情が明るくなるのを感じた。




