EP#14:到着
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『あと20分でドッキングです。お荷物はクロークに預け、ドッキングの衝撃に備えてください。』
無機質な機械音声で目が覚めた。
ドッキング。
その言葉を聞いて律は飛び起き、荷物をまとめた。いよいよSCSに到着するようだ。
あまり散らかしてはなかったので部屋はすぐに片付いた。律は部屋の鍵を持ってドアをくぐる。
鍵を掛け、あの赤いスーツケースを持ってクロークへ急いだ。
エレベーターを待つ間も、エレベーターに乗っている間も、緊張と期待が混ざり合ったような不思議な感覚だ。
クロークは1階、コックピットは最上階。時間がなかったのでスーツケースは一番手前のスペースにセットした。衝撃があっても落ちないようにロックが掛かる仕組みだ。
ロックが掛かったのを確認した律は走ってエレベーターホールへ向かい、意外にも早く来たエレベーターで最上階を目指した。
動悸がする。
少し走ったから、ではないと思う。それにしては激しい。
最上階に到着し、エレベーターを降りると、そこには眠そうに目を擦るあの青年の姿があった。
「クウェイル!」
名前を呼ばれた彼は律の方を向き、力の無い笑顔でひらひらと手を振った。
「やあリツ。また会ったね。もうすぐドッキングだよ」
「そうみたいだな」
クウェイルは小さく欠伸をしてから
「そういえばシェナリーさんは?人事部だし、もう会ってるでしょ?」
と尋ねた。
「さあ……もう来てるんじゃないか?」
「あれ、知らないんだ?一緒に来たのかと思ったよ」
「え?」
「同じ部屋なのかと思った」
「なんでだよ。部屋は別々だし、部屋の階も違ったぞ」
同じ部屋なんてとんでもない。
律はそう思った。
まあそうだよね、とクウェイルは笑った。
そんな会話を切り裂くようにコックピットの橋からシェナリーが顔を覗かせた。
「よかった赤旗くんちゃんと来てた!宇宙服は着なくていいから早く!ドッキングよ!
あれ、クウェイルくん?なんで構成員用HSLにいるの?」
シェナリーはクウェイルを見て不思議そうに言った。
「あーー……資料の回収頼まれてIRSまで取りに行ってたんですよ。ほら、この間本部に送信したエンシェントのデータ、解析が終わったそうなんで」
「もう終わったの。さすがプロねぇ……で、誰に頼まれたの?」
「…………研究室です」
コックピットに入りながらクウェイルは答える。律はその時、少し彼の目が泳いでいる気がした。
シェナリーは合点のいった様子で
「ああ、お父さんね」
と言った。
クウェイルの表情が少し強張る。
「お父さん?」
シートベルトを締めながら、律は尋ねた。クウェイルの父親はIRSの研究者なのだろうか。
「あら、彼のファミリーネーム、知らない?
彼はクウェイル・F・ブルーファイアくん。ジャンプスーツを見れば大体察しはつくと思うけど、スカイと同じ、アレースパイロットよ」
「ブルーファイア……?
……え!?」
聞いた事のある名前。
そうだ。アレース計画の考案者の名前は確か。
「ブルーファイア博士の……!?」
「そう。彼はロボット工学の神とまで呼ばれたアレースの開発者、ジェラルド・A・ブルーファイア博士の御子息なのよ」
「やめてくださいよシェナリーさん」
クウェイルは溜息をついた。
「クウェイル……お前凄い奴だったんだな。びっくりしたよ」
確かに、ネットのニュースページで見たブルーファイア博士にどこか似ている気がする。クウェイルの透き通るような美しい青い瞳、ストレートで艶のある金色の髪。
さらに綺麗に筋が通っていて鼻が高いために、横顔まで美しい。所謂“王子様”的な雰囲気がある。
彼の端正な顔立ちはどうやら父親譲りらしい。
「凄い?どこが。
僕はただあの男の息子として生まれただけだ。
まあ、あんな気違いを親に持つ確率を考えたら、確かに凄いかもね」
クウェイルは嫌味っぽく吐き捨てた。博士と過去になにかあった事はもはや明白である。
「クウェイルくん……
さあ二人とも、ドッキングが始まるわ。ちゃんと座ってなさい」
「……!」
「リツ、平気だよ。出発の時みたいな衝撃もGもないから」
律の不安を察したのかクウェイルが言った。
どんどん減速していくのが分かる。いよいよだ。
身体の芯に響くような衝撃が一瞬、エンジンが止まっていく音が聞こえた。
「ドッキング成功ね」
合図のようにシェナリーが呟き、安全バーを上げる。
「え、もうですか?」
「そうだよ。SCSだ」
拍子抜けした。深く息を吐きながら安全バーとシートべルトを外して立ち上がった。
するとクウェイルが笑いながら
「さっきから思ってたけどリツ、君……ちっちゃいね!」
と少し小馬鹿にするように言った。




