EP#13:悩む事
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「そう……。いいのよ赤旗くん。今決めろだなんて言わないわ。SCSへ行って、全てを見て、知ってから決めなさい」
シェナリーは穏やかにそう言った。
「話しておきたい事はこれで全部だけど……どうする?」
「部屋に戻ります。なんだか今なら眠れそうな気がするんで……」
「そう。分かったわ。一人で戻れる?502なら、2階ね」
「はい。シェナリーさん、ありがとうございます。それじゃあ、また後で」
「待って!」
ドアノブを捻り、外を踏み出そうとした瞬間、シェナリーがその声で以て律を止めた。
「赤旗くん、その傷……どうしたの?」
シェナリーが心配そうに見つめる律の手。ドアノブを捻るために腕を伸ばした事により、さっきまで袖で隠れていた部分が見えたようだ。
確かに律の両腕には、なにか尖ったもので引っ掻いたような傷跡がいくつもあった。
傷自体は治癒しているようだが、肌に白っぽい傷跡が残ってしまっていた。傷は、腕の向きと平行についている。
「覚えてないんです。きっと、昔つけた傷なんだと思います。全然痛くないですし、大丈夫ですよ」
律は軽く微笑みながらシェナリーの部屋を出た。今は自分でも驚くほど足が重い。
胸には、まるで嘘をついた時の感覚にも似た罪悪感と自己嫌悪感が混ざり合ったような不快な感覚が絡みついて離れない。
この感覚の原因はきっと、傷の事ではない。
今なら絶対眠れる。
律はそう確信しながら502号室のドアを開け、中に入ってから鍵をかけた。
そしてふらふらとベッドに向かい、そのまま倒れ込む。
さっきとは違う。瞼が重い。
律は完全に眠りに落ちた。
『あと20分でドッキングです。お荷物はクロークに預け、ドッキングの衝撃に備えてください。』
響き渡るブザー音と無機質な声でスカイは瞼を開けた。
モニターには4階のコックピットへの行き方を示す案内が映し出されている。
荷物は仮眠をとる前に預けておいたから今から部屋を出るには少し早いだろう。大きなあくびをして、ベッドから降りる。
洗面台で顔を洗ってからジャンプスーツに袖を通した。
「……そういえばあいつ、SCSに来るのかな。名前、なんて言ったっけ」
ぽつりと呟いてから首を振る。
どうでもいい、あんな弱そうな奴。
そう自分に言い聞かせ、無心で部屋を出る準備をする。
ここは次もスカイが泊まるスカイ専用の個室であるが、次に乗るのは一ヶ月後だ。
「よし」
綺麗になった部屋を見渡し、頷く。
少し早いけどもう出よう。スカイは部屋から出て鍵を掛け、ポケットに入れた。
廊下はまだがらんとして、人気がない。静かな所が好きなスカイは、こうして早めに行動するのだ。
例によってこの時間帯ならまだエレベーターが混む事もない。ボタンを押すとすぐに到着した空のエレベーターに乗り込み、4階へ向かう。
スカイは適当な席に座り、シートベルトを締めた。
IRSとSCSの行き来は時間が掛かって面倒だ。できればもう地球には戻らずに、ずっとSCSで生活してもいいのだが、そういうわけにもいかない。一ヶ月に一度は地球に戻らなくてはならない規則だ。
スカイはジャンプスーツの襟を正し、首に刻まれた黒いラインを指でなぞる。
これ、取れないのかな。
ぼんやりと考えているうちに、スカイの乗るSCSはドッキング体制に入る。
「SCSに戻ったら仕事だ」
スカイは安全バーを下ろし、衝撃に備えた。
律が出て行った部屋で、シェナリーは溜息をついた。
「ごめんね赤旗くん……」
今決めて後悔するくらいなら、もっと悩んでほしいと思う。
この仕事を、運命を受け入れれば彼の人生が一気に短くなってしまうかもしれない。
命を懸けて戦う仕事だから。
他のパイロットに全てを任せて自身の安全を優先するのも選択肢の一つだ。私達IRSの最も重要な仕事は、エンシェントの殲滅ではなく、その脅威から地球守り、安全を保持する事。
IRSが地球を守るからには地球は安全でなければならない。だから、IRSに入らないと言うなら彼の安全は保証せねばなるまい。
もしIRSに入り、パイロットとして生きる道を選んでくれるのであれば、共に戦う同志として温かく迎えようとは思っている。
けれど、命の保証はない。
いや、
「……パイロットの命を守る事は……私達指揮官の仕事じゃないの……」
そうだ。
地球を守る事がアレースパイロットに課せられた使命なら、その命を守る事はシェナリー達指揮官の仕事だ。
シェナリーは律にまだ全てを伝えていない。アレース計画の全て、それを知ってから悩んで悩んで、悩み抜いて選んでほしいと思っている。
全てを説明するのは、SCSに到着してからだ。




