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ビーストギア Another  作者:
モズキャッチャー編 1

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8/15

第5話「またな

『ビーストギア Another』


第一篇「十年前の夏」


第5話「またな」


 その日は。


 特別な日ではなかった。


 祭りがあるわけでもない。


 どこかへ遊びに行く予定があるわけでもない。


 虫取り網を持って走り回るわけでも。


 動物園や博物館へ行くわけでもない。


 いつものように。


 紀人がジンのところへ遊びに来て。


 いつものように。


 パンさんもいて。


 三人で。


 何でもない時間を過ごしていた。


     ◇


「ジン兄さん」


「ん?」


「暇」


「そう」


「暇!」


「聞こえてるよ」


「何かしよう!」


「僕、今作業してるんだけど」


「じゃあ手伝う!」


「それは駄目」


「何で!?」


「壊すから」


「壊さない!」


「この前も聞いたな」


 パンさんが横から口を挟む。


「今日はまだ何も壊してない!」


「“まだ”って言うな」


「…………」


「自分で壊す予定あるみたいになってるぞ」


「ないよ!」


 紀人が頬を膨らませる。


 ジンは作業台に向かったまま、小さく笑った。


「じゃあ、そこの箱取って」


「これ?」


「違う。その隣」


「これ?」


「もう一個右」


「これ?」


「それ」


「最初からそれって言ってよ!」


「そこの箱って言ったじゃない」


「箱いっぱいあるじゃん!」


「確かに」


「片付けろよ」


 パンさんが言う。


「どこに何があるか分かってるから」


「お前だけだろ」


「僕の部屋だからね」


「この前、ドライバー探して十分くらいうろうろしてただろ」


「あれは例外」


「説得力ねえな」


 紀人が箱を抱えてジンのところへ持っていく。


「はい!」


「ありがとう」


「何入ってるの?」


「部品」


「何の?」


「いろいろ」


「何作るの?」


「いろいろ」


「教えてよ!」


「説明したら長くなるけど」


「…………」


 紀人が止まった。


「じゃあいい」


「諦めるの早くなったな」


「学習した」


「偉い」


「褒めるところか?」


 パンさんが呆れる。


     ◇


 しばらくして。


 紀人は床に座り込んでいた。


 目の前には。


 紙。


 鉛筆。


 そして。


「完成!」


 紀人が紙を持ち上げる。


「見て!」


「何だそれ」


 パンさんが覗き込む。


「すごいロボット!」


「…………」


「何その間!」


「いや」


 パンさんが紙を見る。


「どっちが上?」


「こっち!」


「そうか」


「何で分かんないんだよ!」


「分かるか!」


「ジン兄さん!」


「はいはい」


 呼ばれたジンがやってくる。


「見て!」


「ロボット?」


「ほら!」


「何で分かるの!?」


 今度はパンさんが驚いた。


「頭っぽいのがあるから」


「そこ頭だったのか……」


「頭だよ!」


「で」


 ジンがしゃがむ。


「これは何ができるの?」


「強い!」


「また強さ基準」


「空も飛ぶ!」


「へえ」


「あと速い!」


「うん」


「それで」


 紀人は紙を指差す。


「ここからビーム出る!」


「どこ?」


「ここ!」


「腕?」


「うん!」


「なるほど」


「それでこっちからミサイル!」


「随分物騒だな」


 パンさんが苦笑する。


「あと透明になる!」


「機能盛りすぎじゃない?」


「強いから!」


「理由になってないよ」


「ジン兄さん作れる?」


「…………」


 ジンが紙を見る。


「無理かな」


「えー!」


「これ全部は難しい」


「じゃあ」


 紀人が少し考える。


「空飛ぶだけ」


「それも難しいなあ」


「前も言ってた!」


「言ったね」


「十年後なら?」


「…………」


 ジンの手が。


 一瞬だけ止まる。


「十年後か」


「うん!」


「紀人、最近十年後好きだな」


 パンさんが笑う。


「だって十年経ったら大人だろ?」


「まあな」


「俺も大人になって」


 紀人が胸を張る。


「ギターも弾ける!」


「練習続ければな」


「指も届く!」


「それはたぶん届く」


「難しい話も分かる!」


「それは勉強次第」


「飛べる!」


「それは知らん」


「ジン兄さんが何か作ってくれる!」


「最後だけ他力本願じゃねえか」


「いいじゃん!」


 紀人は笑った。


「十年後ってすごいな!」


「…………」


 ジンは。


 そんな紀人を見ながら。


 少しだけ笑った。


「そうだね」


「きっと」


「いろいろ変わってるだろうね」


「ジン兄さんも?」


「僕も?」


「うん」


「どうだろう」


「パンさんは?」


「俺?」


 紀人はパンさんをじっと見る。


「…………」


「何だよ」


「変わってなさそう」


「何でだよ!」


「パンさんずっとパンさんっぽい!」


「どういう意味だ!」


「ははは!」


 ジンが声を上げて笑った。


「笑うな!」


「いや、ごめん」


「ジン兄さんは」


「ん?」


「もっとすごいの作ってそう!」


「それは期待が重いなあ」


「だって天才なんだろ?」


「誰が言ったの?」


「みんな」


「みんなって誰?」


「パンさんとか」


「俺は言ってねえ!」


「言ってた!」


「いつだよ!」


「前!」


「雑すぎるだろ!」


「でも」


 紀人が笑う。


「十年後も三人で遊ぼうな!」


「…………」


 ほんの少し。


 ジンが黙った。


「ジン兄さん?」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや」


 いつもの顔。


「そうだね」


「約束な!」


「はいはい」


「パンさんも!」


「俺もかよ」


「三人って言ったじゃん!」


「十年後、お前もう高校生くらいだろ」


「だから?」


「その歳になっても俺たちと遊ぶのか?」


「遊ぶ!」


 即答だった。


「絶対?」


「絶対!」


「友達と遊ぶ方が楽しくなってるんじゃない?」


「それも遊ぶ!」


「欲張りだな」


「いいじゃん!」


 紀人には。


 何の迷いもなかった。


     ◇


 夕方。


「紀人」


 パンさんが時計を見る。


「そろそろ帰れ」


「えー」


「えー、じゃない」


「まだいいじゃん」


「暗くなるぞ」


「一人で帰れる!」


「そういう問題じゃない」


「もうちょっと!」


「駄目」


「パンさんケチ!」


「何とでも言え」


 紀人は。


 今度はジンを見る。


「ジン兄さん」


「パンさんの言うこと聞きな」


「ジン兄さんまで!」


「また来ればいいだろ?」


「…………」


「明日でも」


「…………」


「明後日でも」


「…………」


「暇な時に」


 紀人は少し考えて。


「分かった!」


 あっさり笑った。


「じゃあまた来る!」


「ああ」


 紀人は荷物を持つ。


 描いたロボットの絵も忘れない。


「それ持って帰るの?」


「うん!」


「捨てるなよ」


「捨てない!」


「十年後に見たら恥ずかしくなるぞ」


 パンさんが笑う。


「ならない!」


「なるって」


「ならない!」


「俺も昔の――」


「パンさん」


 ジンが遮った。


「何だ」


「余計なこと言うと、昔のバンドの話をまた聞かれるよ」


「…………」


 パンさんが黙る。


「何!?」


「何でもない」


「今何言おうとしたの!?」


「帰れ!」


「教えてよ!」


「帰れ!」


「パンさーん!」


 紀人は笑いながら。


 玄関へ向かった。


     ◇


「じゃあな!」


 外へ出る。


「寄り道するなよ」


「分かってる!」


「走るなよ」


「分かってる!」


「車に気をつけろよ」


「分かってるって!」


「本当に?」


「パンさん、うるさい!」


「誰がうるさい!」


「ははは!」


 紀人が走り出す。


「だから走るな!」


「大丈夫!」


「それが信用できねえんだよ!」


 少し進んで。


 紀人は止まった。


 振り返る。


 そこには。


 パンさんがいて。


 ジンがいる。


 いつもの二人。


「パンさん!」


「何だー?」


「またな!」


「ああ!」


「ジン兄さん!」


 ジンが。


 紀人を見る。


「またな!」


 紀人が大きく手を振る。


 ジンも。


 いつものように。


 片手を上げた。


「ああ」


 そして。


「またな、紀人」


「うん!」


 紀人は。


 笑った。


「またな!」


 それだけだった。


 何でもない。


 いつもの別れ。


 紀人にとって。


 また会うことを疑う理由なんて。


 一つもなかった。


     ◇


 バンドの真似事をした。


 大きすぎるギターを抱えて。


 指が届かなくて。


 それでも。


 ジンと同じことがしたくて。


 何度も練習した。


 虫を取りに行った。


 ジンの説明は。


 やっぱり難しくて。


 途中から何を言っているのか。


 全然分からなくなった。


 動物園にも行った。


 博物館にも行った。


 パンさんと。


 ジンと。


 三人で。


 たくさん笑った。


 どれも。


 大事件なんかじゃない。


 世界の命運なんて。


 もちろん関係ない。


 ただ。


 子供だった紀人が。


 大好きな兄貴分と。


 昔なじみのパンさんと。


 一緒に過ごした。


 何でもない日々。


 そして。


 その後。


 ジンは。


 紀人たちの前から姿を消した。


     ◇


 十年後。


「…………」


 紀人は。


 手の中のメモリーを眺めていた。


 虫。


 動物。


 かつて。


 ジンが紀人に。


 頼んでもいないところまで。


 延々と説明してくれたもの。


「…………」


 ふと。


 思い出した。


『トンボは前翅と後翅をある程度独立して動かすことができるから――』


『もっと簡単に』


『速く飛べる』


『それなら分かる!』


「…………」


 紀人の口元が。


 ほんの少しだけ緩む。


「そういや……」


 小さく呟いた。


「ジン兄さん、こういう話になると長かったな」


 あの頃。


 聞いても分からなかった話。


 十年後なら。


 もう少し分かるかもしれないと。


 そんな話をしたこともあった。


『十年後に教えて!』


『覚えてたらね』


「…………」


 十年。


 経った。


 紀人は高校生になった。


 大人用のギターだって。


 もう抱えられる。


 昔より。


 難しい話だって。


 きっと分かる。


 けれど。


 教えてくれるはずだった人は。


 ここにはいない。


「…………ジン兄さん」


 十年間。


 行方不明だった人。


 その人から。


 突然。


 ビーストギアが送られてきた。


 理由は。


 まだ分からない。


 何を考えていたのかも。


 何をしていたのかも。


 分からない。


 ただ。


 紀人が知っていることが。


 一つだけある。


「…………」


 メモリーを握る。


 そして。


 紀人は小さく笑った。


「今度会ったら……」


 一拍。


「あの時の続き、ちゃんと聞かせてもらうからな」


 返事はない。


 それでも。


 紀人は。


 あの日と同じように。


 もう一度だけ。


 心の中で呟いた。


 ――またな。


 それは。


 十年前。


 当たり前のように交わした言葉。


 そして今は。


 いつか。


 もう一度会うための言葉だった。


――第一篇「十年前の夏」完。


――――――――――


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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