第4話「動物園と博物館」
『ビーストギア Another』
第一篇「十年前の夏」
第4話「動物園と博物館」
「でっけえ……」
紀人は。
檻の前で、完全に固まっていた。
「でっけえ!」
「二回言った」
パンさんが横で笑う。
「だってでかい!」
「見れば分かる」
「ジン兄さん!」
「うん」
「あれ何キロくらいある!?」
「個体差はあるけど――」
「待て」
パンさんが、すぐに止めた。
「何?」
「簡単に言え」
「まだ何も言ってないけど」
「この前の虫取り忘れたのか」
「今回は大丈夫だよ」
「本当か?」
「たぶん」
「信用できねえ」
紀人は、そんな二人を気にせず。
目の前の動物へ夢中になっている。
「強そう!」
「またそれか」
「だって強そうじゃん!」
「まあ、強いだろうけど」
ジンが言う。
「ただ、強さっていうのも何を基準にするかで――」
「始まった!」
パンさんが頭を抱えた。
「まだ一行目だよ」
「一行目って何だよ!」
「ジン兄さん」
「ん?」
「もっと簡単に」
「強い」
「それでいい!」
「何のために僕いるんだろう」
ジンが少しだけ遠い目をした。
◇
三人が来ていたのは。
動物園だった。
紀人は朝からずっと。
走って。
止まって。
驚いて。
また走って。
その繰り返しだった。
「次!」
「待て紀人!」
「こっち!」
「地図見ろ!」
「見てる!」
「逆方向だ!」
「え!?」
「ほら、こっち!」
パンさんが、紀人の襟をつかむ。
「うわっ!」
「迷子になるぞ」
「ならない!」
「今なりかけた」
「なってない!」
「ジン」
「うん?」
「お前も止めろ」
「元気でいいじゃない」
「お前が甘やかすからこうなるんだよ」
「パンさん!」
「何だ」
「次あっち!」
「だから走るな!」
◇
「うわ……」
紀人が、今度は別の展示の前で止まる。
「何これ」
「骨」
パンさんが答える。
「骨なのは分かる!」
「じゃあ聞くなよ」
「何の骨!?」
「それは」
パンさんが、ゆっくりジンを見る。
「任せた」
「急に投げたね」
「俺には分からん」
ジンが展示を見る。
「ああ、これは――」
説明が始まる。
「まず骨格を見ると――」
「うん」
「関節の構造と重心の位置から――」
「うん」
「筋肉の付着部を考えると――」
「…………」
「さらにこの形状なら――」
「…………」
「紀人?」
「…………」
紀人は。
展示の隣にある、別の模型を見ていた。
「聞いてる?」
「聞いてる!」
「今何の話してた?」
「骨!」
「また範囲が広い」
パンさんが吹き出す。
「前と同じじゃねえか!」
「だって難しい!」
「説明してって言ったの紀人だよ」
「こんな長くなると思わないじゃん!」
「まだ半分くらい」
「まだ!?」
「ほらな」
パンさんがジンの肩を叩く。
「またやってる」
「説明って難しいなあ」
「お前の場合、削ること覚えろ」
「どこ削ればいいの?」
「九割」
「それ説明じゃなくなるよ」
「紀人にはそれくらいでいい」
「パンさんひどい!」
「お前、さっき聞いてなかっただろ!」
「聞いてた!」
「じゃあ説明してみろ」
「…………」
紀人が考える。
「骨がすごい」
「雑!」
ジンが頭を抱えた。
◇
それでも。
紀人は。
ジンの話を聞くのが嫌いではなかった。
「ジン兄さん」
「何?」
「なんでこいつ、こんな首長いの?」
「それは――」
「簡単に!」
「はいはい」
ジンが笑う。
「高いところの葉を食べやすい」
「へえ!」
「ただ、それだけじゃなくて――」
「簡単に!」
「分かってるって」
「油断するとすぐ長くなるから」
「信用ないなあ」
「前科がある」
パンさんが言う。
「前科って言い方やめてよ」
「事実だろ」
「でも」
紀人が、動物を見ながら言う。
「ジン兄さんって」
「うん?」
「何でも知ってるな」
「何でもじゃないよ」
「でもいっぱい知ってる」
「…………」
「すごい」
ジンが少しだけ笑う。
「知ってることが多いだけ」
「同じじゃん」
「違うよ」
「どう違うの?」
「…………」
ジンが説明しようとして。
パンさんが、すぐ横から口を挟む。
「長くなるぞ」
「…………」
「じゃあ」
ジンが考える。
「知らないこともいっぱいある」
「へえ」
「だから面白いんだよ」
「何が?」
「調べるのが」
「…………」
紀人は少し考える。
「俺は遊ぶ方が面白い」
「それも正しい」
「ははは!」
パンさんが笑った。
◇
昼を過ぎ。
三人は、そのまま近くの博物館にも寄っていた。
「…………」
紀人が、入り口でパンさんを見る。
「何だ」
「またいっぱい説明する?」
「俺じゃない」
「ジン兄さん?」
「するかもね」
「…………」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあいいじゃん」
「でも」
紀人が真剣な顔になる。
「短くして」
「努力します」
「前も聞いた」
「努力はしてる」
「結果が出てない」
「厳しいなあ」
パンさんが笑う。
◇
展示室。
化石。
標本。
昔の道具。
機械。
模型。
紀人にとっては。
全部。
知らないものだった。
「これ何?」
「これは――」
「短く!」
「昔の道具」
「何に使うの?」
「それは――」
「短く!」
「物を測る」
「へえ!」
「でも厳密には――」
「ジン兄さん!」
「分かってるって!」
ジンも少しずつ。
紀人向けの説明に慣れてきていた。
「こっちは?」
「昔の機械」
「何するの?」
「計算」
「こんなので!?」
「うん」
「遅そう」
「今と比べたらね」
「じゃあいらないじゃん」
「その時代には必要だったんだよ」
「へえ」
「便利っていうのは、その時代の基準で――」
「長い」
「まだ三秒」
「始まり方で分かる」
「だんだん見抜かれてきた」
「当たり前だ」
パンさんが即答した。
◇
そして。
一つの展示の前で。
ジンが完全に止まった。
「…………」
紀人が見る。
「ジン兄さん?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや」
展示をじっと見ている。
「ちょっと面白くて」
「何が?」
「これ」
紀人も見る。
「…………」
「普通じゃん」
「そう見える?」
「うん」
「実はね――」
「…………」
パンさんが。
静かに紀人の肩へ手を置いた。
「覚悟しろ」
「え?」
「長いやつだ」
「…………」
ジンの目が。
完全に研究者の目になっていた。
「この構造って一見単純に見えるんだけど、実際には――」
「来た!」
「素材の特性と耐久性、それに力の伝わり方を考えると――」
「パンさん!」
「知らん!」
「さらに当時の加工技術を考えると――」
「ジン兄さん!」
「何?」
「日本語で言って!」
「日本語だよ!」
「分かる日本語で!」
「難しい注文だなあ!」
周囲の客が。
少し振り返る。
パンさんが慌てて二人を小声にさせる。
「静かにしろ!」
「紀人が!」
「ジン兄さんが!」
「二人ともだ!」
◇
しばらくして。
三人は休憩スペースに座っていた。
「疲れた……」
紀人が机へ突っ伏す。
「お前、ずっと走ってたからだろ」
「違う」
「じゃあ何だ」
「ジン兄さんの説明」
「僕?」
「頭疲れた」
「そんなに?」
「難しい」
「かなり簡単にしたんだけど」
「嘘だ」
「本当」
パンさんが飲み物を渡す。
「ほら」
「ありがとう」
紀人は少し飲む。
「…………」
それから。
ジンを見る。
「でも」
「ん?」
「楽しかった」
「…………」
「分かんない話いっぱいあったけど」
「うん」
「動物も面白かったし」
「うん」
「虫も面白かったし」
「うん」
「博物館も」
「…………」
紀人が少し考える。
「まあまあ」
「そこだけ評価低いなあ!」
「説明長かったから」
「展示のせいじゃないだろ!」
パンさんが笑う。
「ははは!」
紀人も笑った。
◇
帰り道。
夕方。
三人で歩く。
「ジン兄さん」
「何?」
「また行こう」
「動物園?」
「うん」
「博物館は?」
「…………」
「紀人?」
「説明短くするなら」
「条件ついた」
「当然」
「厳しいなあ」
パンさんが横から言う。
「お前は紀人向け説明モード作れ」
「何それ」
「難しい話を始めそうになったら自動で止まる」
「そんな機能、人間にはないよ」
「ジン兄さんなら作れるんじゃない?」
「僕に付けるの!?」
「便利そう!」
「誰にとって!?」
「俺とパンさん」
「僕には何のメリットもない!」
「静かになる」
「それ僕のメリットじゃないよ!」
三人は。
笑いながら歩いた。
紀人には。
ジンが話していた内容の。
ほとんどが。
分かっていなかった。
虫のこと。
動物のこと。
骨のこと。
機械のこと。
ジンが。
どうしてそんなに楽しそうに話すのかも。
まだ。
全部は分からなかった。
それでも。
知らないことを聞けば。
何かを教えてくれる。
難しくて。
途中で分からなくなって。
パンさんに止められて。
それでも。
笑いながら話してくれる。
そんな。
ジン兄さんとの時間が。
紀人は。
好きだった。
――つづく
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※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。
物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。
本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




