怪人がいる世界」 第4話「本物と偽物」
『ビーストギア KID Another』
「怪人がいる世界」
第4話「本物と偽物」
『続いて、○○県で発生した家畜被害についてです』
テレビに映し出されたのは、高層ビルでも駅前でもなかった。
山と田畑に囲まれた、一軒の畜産農家。
『現地で飼育されていた牛が全滅しているのが確認され、その後の調査で、白い蟻型の怪人が関与した可能性が高いことが分かりました』
映像が切り替わる。
規制線の張られた牛舎と、その周辺を調べる警察官たち。
『現場には対怪人専門部隊CASHが派遣され、周辺で確認された怪人はすでに討伐されたということです』
怪人そのものの映像はなかった。
だが、CASHが出動し、討伐した。
それだけで、この事件が何だったのかを理解するには十分だった。
『これまで大規模な怪人事件の多くは東京都内で確認されていましたが、今回の事件は東京から大きく離れた地域で発生しています。政府は東京都外から寄せられている目撃情報についても、怪人との関連を調査しています』
◇
「……ここ、東京じゃないよな?」
「全然違う」
「しかも街ですらないじゃん」
「畜産農家だろ?」
食堂でニュースを見ていた会社員たちが顔を見合わせる。
「じゃあ、田舎に行けば安全ってわけでもないのか」
「まだ一件だけだろ?」
「でも、出たんだろ?」
「まあ……」
東京を離れれば安全なのではないか。
ここ数日、多くの人間が抱き始めていた期待に、小さな亀裂が入った。
日本中に怪人がいると分かったわけではない。
地方が東京と同じように危険だと証明されたわけでもない。
それでも一つだけ、確かなことが増えた。
東京から遠く離れた田舎にも、本物は現れる。
◇
怪人の存在が公表されて以降、警察への通報は増え続けていた。
『駅前に怪人がいる』
『公園で見た』
『道路を歩いている』
『家の近くに変なものがいる』
以前なら見間違いではないかと疑われたような通報でも、今は無視できない。
本物が存在すると、もう知ってしまったからだ。
◇
「怪人を見たという通報がありました」
「場所は?」
「商店街です」
「被害は?」
「今のところありません。ただ、人が逃げているそうです」
現場へ向かった警察官たちを待っていたのは、怪人ではなかった。
「すみません! 撮影です!」
カメラに照明、慌ただしく動くスタッフ。
その中央に、怪人姿の役者が立っていた。
「許可は取ってます!」
「それは分かりましたが……」
警察官は周囲を見回す。
離れた場所から、不安そうにこちらを見ている人たちがいた。
「せめて、撮影だと分かるようにしてください」
「はい……」
スタッフは何度も頭を下げた。
◇
住宅街に怪人がいる。
駆けつけてみれば、大型犬。
空き地に怪人らしき影がいる。
確認すると、工事用の機械。
怪人が店に入った。
現場にいたのは、コスプレ姿の客。
それでも、
「また見間違いでしょう」
とは言えなかった。
東京から遠く離れた畜産農家の事件は、本物だったのだ。
「これ、全部確認するんですか?」
「確認しないわけにいかないだろ」
「ですよね……」
偽物が増えたわけではない。
今までなら気にも留めなかったものまで、本物かもしれないと思うようになった。
変わったのは、見る側だった。
◇
テレビでも、この問題は取り上げられ始めた。
『怪人に関する通報が各地で相次いでいます。警察は冷静な通報を呼びかける一方、危険を感じた場合には近づかず、安全な場所から通報するよう求めています』
続いて、司会者が一枚の写真を紹介した。
街中を歩く怪人らしき姿。
『こちらも怪人の目撃情報として通報されたものですが、実際には特撮番組の撮影中だったことが確認されています』
「これ、見分けろって言われても無理じゃない?」
出演者の一人が言った。
「本物の怪人を間近で見たことがある人なんて、ほとんどいませんからね」
「でも、怪人かもしれないものを見つけても通報するな、とは言えないでしょう?」
「そこが難しいところです」
◇
その影響をまともに受けた業界の一つが、特撮だった。
「どうします?」
制作会社の会議室では、次回撮影で使用する怪人のデザイン画を前に話し合いが続いていた。
「このまま撮るのはまずいだろ」
「でも、もうスーツ作ってますよ」
「屋外撮影したら、また通報されるぞ」
「スタッフを付ければいいんじゃないですか?」
「スタッフが横にいれば本物じゃないって、誰が保証するんだよ」
「そこまで言われたら何もできませんよ」
冗談のような会話だった。
だが、誰一人として笑ってはいなかった。
◇
番組には、すでに様々な意見が届いていた。
『現実に怪人事件で被害者が出ているのに、怪人を娯楽として扱うのは不謹慎ではないか』
『子供が本物の怪人と番組の怪人を見分けられなかったらどうするのか』
『怪人の姿をした役者を屋外で歩かせないでほしい』
一方では、
『フィクションまでやめる必要はない』
『怪人が実在したからって、昔からある番組を潰すのはおかしい』
『子供が楽しみにしている』
という声も届く。
「……どうしろっていうんだ」
制作スタッフが頭を抱えた。
◇
ヒーローショーも同じだった。
「中止にしますか?」
「いつまで?」
その一言で、全員が黙る。
怪人がいなくなるまで。
そんな期限では、何も決められない。
ここでも結局、同じところへ行き着いた。
「じゃあ、やり方を変えましょう」
一人のスタッフが言った。
◇
数日後。
ヒーローショーの会場には、以前なら考えられなかった掲示が出ていた。
『本公演に登場する怪人は、すべて演者によるものです』
『出演者は会場外では怪人衣装を着用いたしません』
スタッフは腕章を付け、怪人役は舞台裏から直接ステージへ出る。
会場外を怪人姿で歩かず、衣装や造形物の運搬時にも外から見えないようにした。
「ここまでやるの?」
「今は仕方ないよ」
スタッフは苦笑した。
中止するのではない。
続けるために、やり方を変える。
◇
特撮番組側でも、新しい試みが始まった。
「もっと現実の怪人と違うデザインにしましょう」
「どう違わせる?」
「可愛くするとか」
「悪役なのに?」
「丸くして、色も派手にして……」
「それ、怖くないだろ」
「本物と間違われるよりいいでしょう」
別のスタッフが手を上げた。
「いっそ巨大怪獣にしません?」
「巨大?」
「五十メートルくらい」
「なんで?」
「さすがに間違えないでしょう」
一瞬、全員が黙った。
「……それはそうだな」
◇
妙に可愛らしい怪人。
現実の生物から大きく離れた姿。
巨大怪獣。
現実に怪人が存在するようになったことで、フィクションの怪人まで姿を変え始めていた。
怪人が実在するからといって、特撮そのものがなくなるわけではない。
作る側もまた、続ける方法を探していた。
◇
「そもそもさ」
制作会議で、一人が言った。
「怪人って、全部悪役にしていいの?」
「……何?」
「ニュースでやってたじゃん。人間を助けた怪人」
会議室が静かになる。
「現実に人を助ける怪人がいるのに、番組では怪人ってだけで全部悪者って、今後まずくない?」
「そこまで考えるのか?」
「苦情、来るかもしれないですよ」
「じゃあ、味方の怪人出す?」
「……それはそれで、ありかも」
かつては現実に存在しないものとして自由に描けた怪人が、今では現実の存在を意識せずには描けないものになっていた。
現実がフィクションに追いついたのか。
それとも、追い越したのか。
誰にも分からなかった。
◇
その日のニュースでは、あるヒーローショーの様子が紹介されていた。
『怪人の実在が公表された影響で一時開催が危ぶまれましたが、主催者側は安全対策を強化した上で公演を再開しました』
ステージに怪人が現れる。
客席の子供たちが、一瞬だけ静かになった。
以前なら、そんな間はなかった。
だが、すぐにヒーローが飛び出した。
「頑張れー!」
一人の子供が叫ぶ。
続いて、
「負けるなー!」
別の声が上がった。
やがて会場いっぱいに、子供たちの声が広がっていく。
◇
その様子をテレビで見ていた大人が呟いた。
「結局、やるんだな」
隣にいた者が答える。
「ずっとやめてるわけにもいかないだろ」
「本物の怪人いるのに?」
「本物がいるから、偽物までなくさなきゃいけないってこともないんじゃない?」
「……まあ、それもそうか」
◇
本物と偽物。
昨日までは、簡単に区別できると思っていた。
怪人はフィクションで、現実には存在しない。
その前提がなくなっただけで、境界は急に曖昧になった。
東京から遠く離れた畜産農家に現れたものは本物だった。
商店街に現れた怪人は役者で、住宅街の目撃情報は大型犬だった。
だが、それは結果が分かった後だから言えることだ。
目の前に現れた瞬間、本物か偽物かを誰もが正しく判断できるわけではない。
だから、撮影だと分かるようにする。
衣装の扱い方を変える。
安全対策を増やす。
それでも番組を作り、ショーを続ける。
現実が変わったからといって、それまであったものをすべて捨てる必要はない。
変えなければならないところを変え、続けられるものは続けていく。
怪人がいる世界で、人々はまた一つ、新しい当たり前を作り始めていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




