第3話「逃げる場所」
『ビーストギア KID Another』
「怪人がいる世界」
第3話「逃げる場所」
東京駅では、大きな荷物を抱えた家族の姿が目立つようになっていた。
旅行へ向かうにしては、誰もがどこか表情を硬くしている。
「おばあちゃんの言うこと、ちゃんと聞くのよ」
「うん」
「着いたら電話して」
「お母さんは?」
「お母さんは仕事があるから、東京に残るよ」
「一緒に来ないの?」
母親は少し困った顔をしてから、子供の頭を撫でた。
「あとでね」
「あとって、いつ?」
「……もう少し落ち着いたら」
具体的な日は言えなかった。
◇
怪人事件の多くが東京都内で起きている。
その事実が広まるにつれ、東京を離れる人間も少しずつ増えていた。
家族全員で地方の実家へ戻る者もいれば、リモート勤務を利用して地方のホテルや短期賃貸へ移る者もいる。仕事などの事情で東京を離れられない親が、子供だけを祖父母へ預ける家庭もあった。
「本当にいいのか?」
駅へ向かう電車の中で、父親が聞いた。
「何が?」
「子供だけ向こうに行かせて」
「よくはないよ」
母親は即答した。
「でも、今まで大きな怪人事件って、ほとんど東京でしょ」
「地方が安全だって決まったわけじゃないぞ」
「分かってる」
「向こうで出るかもしれない」
「それも分かってる」
母親は眠っている子供を見る。
「でも、何もしないでここに置いておくよりはいいと思いたいの」
父親は、それ以上何も言えなかった。
正しいとも、間違っているとも言えない。
今はただ、少しでも安全だと思える方を選ぶしかなかった。
◇
地方でも変化は始まっていた。
「東京から?」
「はい。しばらくこちらで暮らしたくて」
ホテルには長期滞在の問い合わせが増え、不動産会社にも一か月単位で借りられる物件を探す相談が入るようになった。
学校には、
「祖父母宅へ一時的に避難するのですが、その間だけこちらの学校へ通わせることはできますか?」
という問い合わせが届く。
突然、孫との生活が始まった祖父母もいた。
「しばらくこっちにいればいいよ」
「東京よりは安心でしょ」
そう言ってもらえるだけで、親にとってはありがたかった。
◇
だが、ニュースは何度も注意を促していた。
『これまで確認された大規模な怪人事件の多くが東京都内で発生していることは事実です。しかし、東京以外では怪人が出現しないと確認されたわけではありません』
画面には日本地図が映る。
『現在の情報だけをもとに、特定の地域を安全と断定することはできません』
それでもインターネットでは、
『東京脱出組、正解だったな』
『田舎最強』
『怪人のいない県に引っ越したい』
という書き込みが並ぶ。
その中に、別の意見が混じった。
『地方で怪人出たらCASH来るまで何時間かかるんだ?』
その一言に、すぐ反応が集まる。
『あ』
『それは考えてなかった』
『CASHって東京だよな?』
『東京は怪人多いけど、対抗できる連中も東京にいるのか』
東京を離れることと、安全な場所へ行くこと。
その二つは、必ずしも同じ意味ではなかった。
◇
「東京を離れれば安全なのか。単純には判断できません」
テレビ番組で、専門家が説明していた。
「東京では怪人事件が多く確認されています。一方で、警察や消防、大規模な医療機関なども集中しています。さらに、怪人への対処経験を持つ専門部隊も活動している」
「つまり、事件は多いけれど、対応する側も多い?」
「そういう側面はあります」
「では、地方の方が危険ということですか?」
「そういう意味でもありません。現状では、判断するための情報そのものが少なすぎるんです」
安全か危険か。
そんな単純な二択にできるほど、まだ誰も怪人について知らなかった。
◇
そして、もう一つの疑問があった。
なぜ怪人事件は都市部で多く起きるのか。
当初は、単純に人口が多いからではないかとも言われていた。
だが、これまでの事件を並べていくと、それだけでは説明しきれない可能性も見えてくる。
「単純に、人が多いところを狙っているだけではない可能性があります」
番組の解説者が地図を示した。
「どういうことですか?」
「これまで事件が起きたのは、住宅地や駅周辺、道路、商業地域など、人間の生活へ大きな影響を与えやすい場所が多いんです」
◇
「例えば駅を止めれば、多くの人が移動できなくなる。道路や物流拠点に被害が出れば、その場にいない人間の生活にも影響します」
画面には、鉄道、高速道路、商業施設、住宅地などが映し出される。
「仮に怪人が人間社会へ被害を与えることを目的としているのであれば、誰もいない山中を襲うより、こうした場所を狙う方が影響は大きい」
「だから東京なんですか?」
「東京だけとは限りません。大阪、名古屋、福岡、札幌など、都市機能が集中している場所であれば同じことが言えます」
東京そのものに、怪人を引き寄せる何かがあるとは限らない。
人が暮らし、働き、その生活を支える機能が集中している。
だからこそ、壊された時の影響も大きい。
◇
「だったら、都市機能を地方へ移せばいいんじゃないですか?」
番組内で、そんな意見が出た。
「簡単にはできません」
「でも、危険なんですよね?」
「会社だけの話ではありません。鉄道や道路、物流、病院、行政、通信、商業、住宅。それらを短期間で別の場所へ移すことはできません」
「時間をかければ?」
「仮に移せたとして、そこへ人と機能が集中すればどうなりますか?」
質問した側が黙った。
「そこが、新しい都市になります」
場所を変えただけでは、人間が社会を作って暮らすという構造そのものは変わらない。
◇
「そう考えると、不思議でもないんですよ」
別の出演者が言った。
「何がですか?」
「よく特撮番組って、怪人が街に現れると都合よくヒーローも現れるじゃないですか」
「ありますね」
「でも、現実は逆なんでしょうね」
「逆?」
「怪人が事件を起こすから、それに対処できる人たちがそこへ向かうんです」
出演者は少し考えてから続けた。
「火事が起きた場所に消防車が来ることを、『都合よく消防車が現れた』とは言わないでしょう?」
「ああ……」
「犯罪が起きれば警察が来る。怪人が現れればCASHや、あの協力者たちが向かう。それと同じなんじゃないですか」
怪人と、それを止める者が偶然同じ場所にいるわけではない。
人々の生活を支える場所が襲われる。
だから、守る者がそこへ向かう。
◇
東京では、その日も電車が走っていた。
「お子さん、実家に?」
「うん。昨日送った」
「自分は残るんだ」
「仕事あるからね」
それだけだった。
覚悟を決めて東京へ残ったわけではないし、怪人が怖くなくなったわけでもない。
生活があるから、今日も出勤する。
◇
地方の祖父母宅では、子供が母親と電話をしていた。
『ちゃんとご飯食べた?』
「食べた」
『おばあちゃん困らせてない?』
「困らせてないよ」
『本当に?』
「本当」
少し間が空いた。
「お母さん」
『ん?』
「そっち、怪人大丈夫?」
『今日は何もないよ』
「いつ迎えに来る?」
母親の返事が遅れた。
『……もう少し待ってね』
「もう少しって?」
『……』
やはり、具体的な日は言えなかった。
◇
地方へ避難することが間違っているわけではない。
子供や家族を守るため、あるいは仕事を続けながら少しでも危険を避けるため、それぞれが自分にできる方法を選んでいる。
ただし、全員が同じ選択をすることはできない。
そして全員が都市を捨てれば、そこで人々の生活を支えていた社会そのものが止まってしまう。
個人にとって合理的な選択が、そのまま社会全体の答えになるとは限らなかった。
◇
さらに数日が経つと、一度東京を離れた人々の中から、戻る者も少しずつ現れ始めた。
「会社から、来週から出社してくれって」
「もう戻るの?」
「いつまでもホテル暮らしできないよ」
「怖くない?」
「怖いけどさ」
それ以上、言うことはなかった。
◇
夜の電車。
怪人の存在が公表された直後より、乗客は少し増えていた。
「人、戻ってきたな」
「まあ、仕事あるからな」
「怪人、怖くないの?」
「怖いよ」
会社員は即答し、スマートフォンから顔を上げた。
「でも会社行かなきゃ、給料出ないし」
「……それもそうか」
電車が走り出す。
◇
安全な場所が見つかったから、人々が戻り始めたわけではない。
怪人がいなくなったわけでもない。
怖くなくなったわけでもなかった。
それでも仕事があり、学校があり、家族がいる。
人間が社会を作って暮らす限り、生活を支える場所も、守らなければならない場所もなくならない。
そして、そこを壊そうとするものが現れれば、それを止める者も向かう。
怪人から永遠に逃げ続けることはできない。
だから人々は少しずつ、逃げる場所を探すだけではなく、この世界でどう生きていくのかを考え始めていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




