第2話「いつまで?」
「怪人がいる世界」
第2話「いつまで?」
怪人の存在が公表されてから、数日が経った。
『政府は引き続き、不要不急の外出を可能な範囲で控えるよう呼びかけています』
朝のニュースでは、連日のように同じ言葉が繰り返されていた。
『企業に対してはリモート勤務や時差出勤の活用を、学校についてもオンライン授業などを含めた安全対策の検討を求めています。また、大規模イベントについては延期や規模縮小など、慎重な判断を――』
公表直後、その呼びかけに大きな反発はなかった。
怪人が本当に存在する。
しかも、いつ、どこに現れるのか分からない。
ならば、できるだけ外へ出ない。人が集まる場所を避ける。
少なくとも最初の数日間は、それが最も分かりやすい安全策に思えた。
◇
「質問です」
政府の記者会見で、一人の記者が手を上げた。
「不要不急の外出を控えるよう呼びかけていますが、これはいつまでを想定しているのでしょうか?」
「今後の状況を見ながら、適切に判断してまいります」
「具体的な期間は?」
「現時点では申し上げることはできません」
「一週間ですか? 一か月ですか?」
「ですから、状況を――」
「怪人がいなくなるまでですか?」
答える側の言葉が止まった。
◇
その質問は、すぐにインターネットへ広がった。
『外出控えろって、いつまで?』
『一週間くらいなら分かる』
『一か月だったら?』
『一年後も怪人いたら一年間自粛すんの?』
『そもそも怪人っていなくなるの?』
『一生いる可能性だってあるだろ』
誰にも答えられない。
感染症なら、感染者数の減少や流行の収束など、少なくとも状況を判断するための数字はある。
しかし怪人には、それすらなかった。
なぜ現れるのか。
何体いるのか。
今後も現れ続けるのか。
そのどれも分かっていない。
終わりが分からない以上、期限も決められなかった。
◇
「うちは来週から、原則在宅勤務になったよ」
「いいな。そっちは?」
「普通に出勤」
「リモート無理なの?」
「俺、配送だぞ。荷物が勝手に家まで行ってくれるなら、俺も家にいるよ」
別の場所では、介護職員が同僚と話していた。
「家から出るなって言われてもね」
「利用者さん置いて帰れないし」
スーパーでは、店員が空いた棚へ商品を並べながら苦笑する。
「店閉めたら、食べ物どこで買うんだって話ですよ」
病院。
工場。
建設現場。
鉄道。
物流。
消防。
警察。
社会には、その場所へ行かなければ成立しない仕事がいくらでもある。
全員が家に籠もれば安全になるとしても、その生活を支える誰かは外へ出なければならなかった。
◇
「当面って、何日なんだよ」
臨時休業の札を出した飲食店で、店主が売上の数字を見ていた。
「政府は、まだ期間については……」
「家賃は待ってくれないぞ」
従業員は黙る。
「仕入れもある。給料もある。俺だって生活しなきゃならない」
店主は閉まった入口を見る。
「怪人に店を壊される前に、こっちが潰れるよ」
◇
同じ問いは、イベント業界にも突きつけられていた。
「二週間後に延期しますか?」
「二週間後なら安全なのか?」
「……分かりません」
「一か月後は?」
「それも」
「じゃあ、いつに延期するんだよ」
延期するには、次の日程を決めなければならない。
だが、安全になる日を誰も知らない。
中止すれば損失が出る。開催すれば批判されるかもしれない。
待とうにも、いつまで待てばいいのか分からなかった。
◇
学校も同じだった。
オンライン授業へ切り替える学校。
時差登校を始める学校。
通常授業を続ける学校。
判断は分かれた。
「学校を休校にしてください」
そう求める保護者がいる。
一方で、
「仕事があります。ずっと家にいられても困ります」
という保護者もいた。
「では、いつまで休校にすればいいのでしょうか」
学校側がそう尋ねても、誰も答えを持っていなかった。
仕事も、店も、学校も。
止めることより、いつ再開するのかを決める方が難しかった。
◇
数日も経つ頃には、政府内部でも考え方が変わり始めていた。
『政府は、全国一律の外出抑制だけでは長期的な対応は困難として、怪人事案発生時の避難・警戒体制の整備を進める方針です』
怪人が確認された地域への緊急通知。
発生地点周辺への一時的な立入制限。
駅や商業施設での避難誘導。
学校での避難方法の策定。
怪人関与の可能性がある事件について、対怪人専門部隊へ速やかに情報を共有する体制。
社会全体を止め続けるのではない。
怪人が現れた時、その場所から逃げる。
そして、対処できる部隊をできるだけ早く向かわせる。
怪人が消える日を待つのではなく、怪人がいるかもしれない世界で生活する方法を作る。
少しずつ、対策の方向が変わり始めていた。
◇
「結局、自分の身は自分で守れってこと?」
「CASHって全国どこでもすぐ来られるの?」
「東京にいるんだろ?」
「北海道で出たらどうすんの?」
テレビでは連日、怪人対策についての議論が続いていた。
そんな中、ある番組が一枚の地図を映した。
東京都。
その上に、これまで確認された怪人事件の発生地点が、一つ、また一つと示されていく。
出演者の一人が思わず口にした。
「……こうして見ると、ほとんど東京ですよね?」
◇
「現時点では、東京という地域そのものと怪人の出現に因果関係があるとは断定できません」
専門家は慎重だった。
「東京都は人口が多く、監視カメラやスマートフォンによる撮影機会も多い。単純に発見されやすい可能性もあります」
「でも、実際に事件が起きている場所は東京ですよね?」
「確認されている範囲では、そうです。ただし――」
その先の説明よりも、画面に映る地図の方が分かりやすかった。
◇
インターネットでは、さらに話が単純になった。
『怪人、東京にしか出てなくね?』
『東京脱出すればよくね』
『地方最強説』
『実家帰ろうかな』
『子供だけ田舎の親に預けるわ』
『東京から人いなくなるぞ』
もちろん反論もある。
『地方に出ない保証どこにあるんだよ』
『東京で最初に見つかっただけじゃね?』
『人口多いんだから事件も多く見えるだろ』
『大阪とか名古屋に出始めたらどうすんだ』
それでも、
――今まで確認された大きな怪人事件のほとんどが東京で起きている。
その事実は、不安を抱える人間にとって無視できるものではなかった。
◇
「東京じゃなきゃ、安全なんじゃない?」
家庭でも、その言葉が出始めた。
「しばらく実家に戻ろうかな」
「仕事は?」
「私はリモートできるし」
「子供の学校は?」
「オンラインになるかもしれないでしょ」
「いつまで向こうにいるんだ?」
「……」
また、同じところで止まった。
「分からない」
◇
それでも、実際に動く人間は現れた。
地方の祖父母宅へ子供を預ける家庭。
家族で一時的に実家へ戻る家庭。
リモート勤務を利用し、地方のホテルや短期賃貸へ移る者。
不動産会社にも問い合わせが入る。
「東京じゃないところで探したいんです」
「どちらの地域をご希望でしょうか?」
「怪人が出ていないところで」
「……」
担当者は困った。
「申し訳ありません。それを条件に検索する項目は、まだございませんので……」
◇
だが、東京から全員が出ていけるわけではない。
「東京から逃げろって言われても、会社が東京なんだけど」
「店ごと持っていけるわけじゃないしな」
「病院どうするんだよ」
「電車止めるの?」
「物流は?」
東京には会社がある。
店がある。
病院がある。
学校がある。
鉄道がある。
行政がある。
そして、そこで生活している人間がいる。
東京だけではない。
大阪、名古屋、福岡、札幌。
人と企業が集まり、経済と生活を支えている都市はいくつもある。
仮に怪人が都市を狙っているのだとしても、都市そのものを捨てることなどできなかった。
◇
「じゃあ、本社を大阪に移せば?」
「大阪に怪人が出ない保証あるの?」
「名古屋なら?」
「同じだろ」
「福岡?」
「だから、どこなら絶対安全なんだよ」
答えは出ない。
東京から人がいなくなれば、東京だけが困るわけではない。
企業が止まり、物流が滞り、経済が動かなくなる。
その影響は、地方へ逃げた人間の生活にも届く。
安全な場所へ逃げれば、それですべて解決するほど、社会は単純にできていなかった。
◇
テレビでは、政府の新たな方針が報じられていた。
『政府は今後、社会活動を可能な限り維持しながら、怪人発生時の局地的な避難・警戒体制を強化する方針です』
全国を止め続けることはできない。
都市を捨てることもできない。
ならば、怪人が存在する可能性を抱えたまま、社会を動かす方法を探すしかない。
◇
そのニュースを見ながら、一人の母親がスマートフォンを操作していた。
画面には、地方にある実家までの経路が表示されている。
「……子供だけでも、しばらく向こうに行かせようかな」
隣で父親が黙って画面を見る。
「しばらくって?」
母親の指が止まった。
「……分からない」
外へ出なければ安全なのか。
東京を離れれば安全なのか。
地方なら怪人は現れないのか。
何一つ分かっていない。
それでも、人々は自分や家族を守るために選ばなければならなかった。
家に籠もり続けることができないのなら。
今度は、どこへ行けば安全なのか。
人々は、それを考え始めていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




