「怪人がいる世界」 第5話「怪人を守れ」
『ビーストギア KID Another』
「怪人がいる世界」
第5話「怪人を守れ」
『こちらは、先日の火災現場で撮影された映像です』
テレビ画面には、二体の怪人が映し出されていた。
アガトとユキ。
炎が上がる現場で、消防隊やCASHと役割を分けながら消火活動を続けている。
『二体は人間側の動きに合わせるように行動し、実際に消火活動へ協力していたことが確認されています』
すでに何度も放送された映像だった。それでも怪人について議論する番組では、今も繰り返し取り上げられている。
「この映像を見る限り、CASHは二体を敵として扱っていませんよね?」
出演者の一人が画面を指した。
「そうですね。少なくとも、この現場では協力関係にあったように見えます」
「ということは、CASHには人間へ敵対する怪人と、そうではない怪人を見分ける方法があるのでしょうか?」
「そのような方法が確立されているとは公表されていません」
「では、なぜこの二体については安全だと判断できたんでしょう?」
「この二体についてだけ、何らかの事情を把握していた可能性もあります」
「だとしたら、その情報を一般にも公開してほしいですよね。私たちには、目の前に現れた怪人が危険なのかどうか分からないわけですから」
怪人が実在するという事実を受け入れたことで、今度は別の疑問が生まれていた。
◇
インターネットでは、さらに多くの意見が飛び交っていた。
『CASHだけ怪人の見分け方知ってるの?』
『知ってるなら公開してくれ』
『一般人には何も教えないのか』
『見分け方なんてなくて、あの二体だけ特別なんじゃね?』
そこまでは、まだ疑問の範囲だった。
しかし情報が少なければ、空白を好きな形で埋める者も現れる。
『そもそも怪人ってCASHが作ってるんじゃないの?』
『悪い怪人を出す→自分たちで倒す→功績にする。味方怪人も用意して印象アップ』
『全部自作自演説』
『証拠あるの?』
『証拠がないから怪しいんだろ』
『それ言い出したら何でもありじゃん』
『特別殲滅部隊が全滅した件まで自作自演にする意味ある?』
『CASHだって毎回命懸けなのに、何のためにそんなことするんだよ』
根拠のない話には、すぐ反論も付いた。
それでも、一度生まれた噂は簡単には消えない。
◇
一方で、もっと現実的な疑問も出ていた。
「この二体、人間の行動を理解しているように見えますよね?」
別のテレビ番組でも、アガトとユキの映像が流れている。
「消防隊の動きに合わせていますからね。少なくとも、周囲を見て行動を変えていることは分かります」
「だとすれば、意思疎通できる怪人もいるんじゃないですか?」
「可能性はあるでしょう」
「なら、怪人を発見した時、いきなり武器を向けるのではなく、まず対話を試みるべきでは?」
スタジオの空気が少し変わった。
「人間の言葉を理解できる可能性があるなら、敵意があるのか確認する。そのくらいは試す価値があると思うんです」
筋の通らない話ではなかった。
実際に、人間と協力している怪人が存在しているのだから。
◇
「では、こちらへ走ってくる怪人に『あなたは敵ですか?』と聞くんですか?」
別の出演者が問い返す。
「極端な話をしているわけではありません」
「ですが、現場ではその数秒で人が死ぬ可能性があります」
「だからといって、まだ何もしていない怪人へ先に攻撃していい理由にもならないでしょう」
「では、誰が最初に話しかけるんです?」
「それは、専門家が――」
「怪人との対話を専門にしている人間が、今の日本にいるんですか?」
言葉が止まった。
対話できるなら、対話した方がいい。
だが、目の前の相手が対話できる存在なのかを確かめるには、誰かが危険を引き受けなければならない。
そこまで考えると、話は急に難しくなった。
◇
それでも、
「まず対話を」
という声は、少しずつ広がっていった。
『怪人を殺すな』
『友好的な怪人を保護せよ』
『対話の可能性を捨てるな』
怪人の一律討伐に反対する人々が集まり始める。
これまで動物保護や生命倫理に関する活動をしてきた者もいれば、今回の報道を見て初めて参加した者もいた。
「人間を助ける個体が確認された以上、すべての怪人を同じものとして扱うべきではありません」
取材を受けた代表者は、落ち着いた口調で答えた。
「敵対行動を取っていない個体については、攻撃する前に意思疎通の可能性を探るべきです。人間の言葉や行動を理解できるのであれば、対話によって争いを避けられるかもしれません」
◇
さらに強い言葉を掲げる者も現れた。
『怪人にも人権を!』
テレビ番組では、その主張まで議論の対象になった。
「そもそも、人間ではない存在に『人権』という言葉をそのまま使えるのでしょうか?」
司会者の問いに、法律家が答える。
「そこからして現行法は想定していません」
「では、怪人には権利がない?」
「そういう意味でもありません。怪人を法的に何として扱うべきなのか、それ自体が定義されていないんです」
「動物として扱うこともできない?」
「現段階で一律にそう決めることは難しいでしょう。知性や意思疎通能力についても、個体によって異なる可能性があります」
人間なのか。
動物なのか。
未知の知的生命なのか。
これまで法律が考える必要さえなかった存在が、突然現実になった。
◇
当然、反発する者もいた。
「怪人を守れって、誰から守るんだよ」
怪人事件で自宅を失った男性が、取材に答えていた。
「こっちは怪人から守ってほしいんだよ」
別の番組では、地方の畜産農家で牛が全滅した事件も取り上げられる。
「人を助けた怪人がいたからって、全部が安全になるわけじゃないだろ」
「牛を全部殺された農家の前でも、『まず対話しろ』って言えるのか?」
怪人に助けられた人間がいる。
怪人に生活を壊された人間もいる。
どちらか一方だけを見て、怪人という存在すべてを決めつけることはできなかった。
◇
テレビ討論では、双方の意見がぶつかっていた。
「人間を助ける怪人が確認されている以上、対話の可能性を捨てるべきではありません」
「では、襲ってくる怪人とどう見分けるんですか?」
「だからこそ調べるべきだと言っているんです」
「調べている間に襲われたら?」
「危険かもしれないというだけで攻撃するんですか?」
「被害が出てからでは遅いんです!」
どちらも譲らない。
どちらの主張にも理由があり、それだけですべてを解決できる答えでもなかった。
◇
その頃。
「アガト、こっち!」
子供たちの声が響いていた。
テレビの中では、自分たちについて大人たちが激論を交わしている。
当のアガトとユキは、そんなことを知るはずもなく、子供たちと遊んでいた。
「はい、アガト鬼!」
子供がアガトの体に触れる。
「ギャッ?」
「逃げろー!」
子供たちが一斉に走り出した。
何を言われたのか完全には理解していないらしい。それでも全員が逃げたので、アガトも後を追う。
「わー!」
「来た!」
なぜかユキまで一緒になって走り始めた。
「ユキは鬼じゃない!」
「ギャウ!」
「そっちじゃないって!」
細かなルールは理解していなくても、楽しんでいることだけは誰の目にも分かった。
◇
「……のんきなもんだな」
少し離れた場所で、北山がその様子を眺めていた。
手元のスマートフォンには、
『怪人との対話は可能か』
というニュース記事が表示されている。
画面の中では難しい言葉が並び、目の前ではアガトが子供たちを追い回していた。
「自分たちのことで世間が大騒ぎしてるなんて、何も知らないんだろうな」
「北山さん!」
「ん?」
子供が投げたボールが飛んできた。
北山は反射的に受け取る。
「投げて!」
「俺もやるのか?」
「早く!」
少し離れたところで、アガトとユキがこちらを見ていた。二体とも、ボールが投げられるのを待っている。
「……ほら」
北山が投げると、アガトとユキが一斉に走り出した。
「そっち! ユキ頑張れ!」
「アガトの方が速い!」
北山はその様子をしばらく眺めてから、スマートフォンの画面を消した。
「……まあ、知らない方がいいか」
◇
社会では、二体の映像がさらに広がっていた。
『消火してる怪人かわいい』
『こいつら味方怪人なの?』
『名前あるらしいぞ』
『アガトとユキだって』
一方では、
『可愛いからって近づくなよ』
『この二体が安全でも、他の怪人が安全とは限らない』
『そもそも安全って誰が判断したんだ?』
という意見も広がっている。
アガトとユキが人間と遊んでいるからといって、怪人すべてが同じだとは限らない。
それもまた事実だった。
◇
政府にも質問が飛んだ。
「CASHは実際にアガトとユキを敵として扱っていません。これは現場独自の判断なのでしょうか。それとも、友好的な怪人と敵対的な怪人を区別する基準があるのでしょうか?」
「現時点で、すべての怪人へ適用できる統一的な基準は策定されていません」
「では、現場判断ですか?」
「個々の状況に応じ、安全確保を最優先として対応しています」
「怪人との意思疎通について、政府として研究する考えは?」
「専門家による調査・研究も含め、今後の対応を検討しています」
また曖昧な答えだった。
ただ、今回は単に答えを隠しているわけでもない。
前例はなく、法律もなく、怪人そのものについて分かっていないことも多い。
誰も、まだ答えを持っていなかった。
◇
「難しいね」
ニュースを見ていた男性が言った。
「何が?」
「怪人」
「俺は見たら逃げるけど」
「味方だったら?」
「味方でも逃げる」
「なんで?」
「味方かどうか、俺には分からないだろ」
「……まあ、そうだな」
一般の人間にとっては、それが一番現実的な答えなのかもしれなかった。
◇
夜。
家庭のテレビに、またアガトとユキの映像が流れていた。
炎へ向かい、消火活動をする二体。
それを見ていた子供が母親に聞いた。
「ねえ」
「ん?」
「この怪人は、いい怪人なの?」
母親は画面を見る。
以前なら、怪人は悪いやつだと答えられたかもしれない。
今は、そんな単純な答えを口にできなかった。
「……分からない」
「でも、人を助けてるよ?」
「そうだね」
「じゃあ、いい怪人?」
母親は少し考えてから答えた。
「少なくとも、この時は人を助けてたね」
「ふーん」
子供はそれで納得したのか、またテレビへ視線を戻した。
◇
怪人がいる。
それだけでも、世界は十分に複雑になった。
さらに、その怪人がすべて同じではないと分かれば、話はもっと難しくなる。
人間を襲う怪人がいる。
人間を助ける怪人もいる。
意思疎通できる怪人もいるのかもしれない。
だが、その違いを出会った瞬間に見分けられるとは限らない。
対話できるなら、対話した方がいい。
その考え自体は、決して間違いとは言い切れない。
問題は、目の前の相手が対話できる怪人なのかどうかを、誰が、どうやって、安全に確かめるのかだった。
今まで存在しなかった問いに、最初から正しい答えなど用意されていない。
それでも人間は、少しずつ答えを探していくしかない。
怪人がいる世界で、これからも生きていくために。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




