「現金なもの」 第2話「CASH」
「現金なもの」
第2話「CASH」
「どうしてこうなったのかです」
東の一言で、怪人の存在が初めて公式に認められた記者会見の映像が再生された。
早送りしながら確認していくと、シラメ博士が画面を指す。
「この辺じゃない?」
「止めてください」
通常再生へ戻すと、記者から対怪人部隊について質問を受けた代表者が説明を始めていた。
『怪人事案への対処を目的とした専門部隊については――CASHが、これまでにも複数の事案へ対応しており――』
「ここです!」
東が声を上げた。
◇
「言ってるな」
ニシが腕を組む。
「言ってますね」
川出も頷いた。
「はっきり言ってるね」
シラメ博士だけは楽しそうだった。
「どうして言ってしまったんですか……」
東は額を押さえる。
「普段そう呼んでるからじゃねえの?」
「正式名称ではありません」
「でも、もう遅いんじゃないですか?」
北山が画面を指した。
会見映像では、当然の疑問が記者から飛んでいる。
『CASHというのが、その専門部隊の名称ですか?』
代表者の動きが一瞬止まった。
「ここで否定してください」
東が思わず画面へ向かって言った。
もちろん、すでに終わった会見の映像が言うことを聞くはずもない。
『……現在、内部でそのように呼称されている部隊です』
東はゆっくり目を閉じた。
「どうして補強するんですか」
◇
その後は早かった。
『CASHは、いつから活動していたんですか?』
『CASHには何人所属しているんですか?』
会見が進むにつれ、記者たちは当たり前のようにその名前を使い始めた。
報道各社も同じだった。
『対怪人専門部隊CASH』
『CASHの活動実績』
『CASHへの情報共有に不備か』
すでに完全な部隊名として扱われている。
「……終わりました」
東が呟く。
「何が?」
「訂正する機会がです」
◇
「別にいいじゃねえか」
ニシが言った。
「短くて呼びやすいし」
「元々どういう意味で呼ばれていたか、忘れたんですか?」
「忘れてねえよ」
「スマートフォンやパソコンに溜まる、あのキャッシュですよ」
東の声には、明らかな不満が混じっていた。
「放っておけば溜まって、邪魔になれば消す。そういう扱いから付けられた呼び名なんですよ?」
「まあ……そうだったな」
「それを今さら『怪人と戦う精鋭部隊CASH』と言われても、私は納得できません」
シラメ博士が首を傾げる。
「でも、今は格好いいと思われてるんでしょ?」
「元の意味を知っているから嫌なんです」
「呼び方なんて、使ってるうちに意味が変わることもあるよ」
「博士は気にならないんですか?」
「別に」
即答だった。
「僕が付けた名前じゃないし」
「そういう問題でしょうか」
◇
その日の午後。
東が別部署へ書類を届けに行くと、昨日CASHへの異動について尋ねてきた若い警察官と再び顔を合わせた。
「あ、東さん!」
「昨日はどうも」
「こちらこそ、ありがとうございました。ニュース、また見ました」
「そうですか」
「CASHって、格好いい名前ですよね」
東の足が止まった。
「……格好いい?」
「はい。短くて覚えやすいですし、怪人専門の特殊部隊って感じがして」
「……」
「どうしたんですか?」
「いえ、何でもありません」
一瞬、由来を説明しようかとも思った。
だが、やめた。
相手に悪意はない。
むしろ、本気でCASHに憧れている。
彼にとってのCASHは、最初から怪人と戦う者たちの名前なのだ。
その言葉が昨日までどんな意味で使われていたのかを、わざわざ教える必要もないのかもしれない。
「俺、いつか本当にCASHに入れるように頑張ります」
若い警察官はそう言って頭を下げた。
「……はい」
東も小さく頷く。
「その時は、よろしくお願いします」
◇
CASHへ戻ると、東はその話をした。
「格好いいって言われました」
「よかったじゃねえか」
ニシが笑う。
「よくありません」
「なんでだよ」
「複雑なんです」
川出が少し考えてから言った。
「でも、あの人みたいに最近知った人からしたら、もう悪口じゃないんでしょうね」
「そうなんだろうね」
シラメ博士が頷く。
「意味って変わるんだよ」
「変わってほしくなかったです」
「なんで?」
「元が元だからです」
◇
「でもよ」
ニシが椅子の背にもたれた。
「昨日まで馬鹿にしてCASHって呼んでた連中が、今日は尊敬した顔でCASHって呼んでるんだろ?」
「そうですね」
「だったら、変わったのは名前じゃねえじゃん」
東がニシを見る。
「呼んでる連中の方だ」
東は少し黙った。
確かに、名前そのものは何も変わっていない。
同じ音で、同じように呼ばれている。
それでも、その言葉に込められる意味は、いつの間にか別のものになり始めていた。
理屈では分かる。
ただ、長い間その名前をどんな調子で呼ばれてきたのかを知っている東には、そう簡単に割り切れるものでもなかった。
◇
その時、部屋の扉が開いた。
「失礼します」
別部署の職員だった。
「CASHの東さん、こちら確認をお願いします」
「はい」
書類を受け取る。
「いつもありがとうございます。本当に大変だと思いますけど、頑張ってください」
「……ありがとうございます」
職員は丁寧に頭を下げ、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
東は手元の書類を見ながら呟いた。
「……あの人」
「ん?」
「以前、私たちのことを『また訳の分からないことをやっている』と言ってませんでした?」
「言ってましたね」
川出が苦笑する。
「俺らの前でな」
ニシも覚えていた。
東は小さく息を吐いた。
「……本当に、現金なものですね」
「そうだね」
シラメ博士が頷き、ふと何かに気づいたように東を見る。
「CASHだけに?」
「……」
一瞬の沈黙。
ニシが吹き出した。
「博士!」
川出まで笑い出す。
「いや、今のはうまいだろ!」
「偶然だよ?」
「偶然なのかよ!」
◇
昨日まで、侮蔑の意味を込めて呼ばれていた名前。
今日、その同じ名前が、怪人と戦う者たちへの敬意とともに口にされている。
呼び方は何一つ変わっていない。
変わったのは、その名前を口にする人間たちだった。
そして、これからCASHを知る者にとっては、もう最初から別の意味を持つ名前なのかもしれない。
テレビから、また聞こえてくる。
『対怪人専門部隊CASH――』
東は画面を見た。
「……やっぱり、少し納得できません」
「まだ言ってるのかよ」
ニシの笑い声が、部屋に響いた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




