第一話 カンガルーメモリー
第一話 カンガルーメモリー
「それじゃあ、始めようか」
シラメ博士の声が響いた。
紀人の前には、打撃の威力や身体の動きを確認するための計測機器が並んでいる。
今日ここにいるのは、紀人、シラメ博士、そして東の三人。
今回の目的は、カンガルーメモリーの性能を改めて調べることだった。
紀人は手の中にあるメモリーを見る。
「これ、最初に使った時は腕でしたよね」
「ああ。ヨミと初めて遭遇した時だね」
シラメ博士が答える。
あの戦いで、紀人はカンガルーメモリーを腕へ装着した。
目的はパンチ力の強化。
実際、その力は十分に発揮された。
だが、それ以外の部位ではまだ一度も試していない。
「腕に使えることは分かった。でも、このメモリーを他の部位に装着したらどうなるのかは分かってない」
シラメ博士が言う。
「カンガルーなら、脚も強そうですけど」
紀人が言った。
「普通に考えればね。でも、実際に試してみないと分からない」
「そうね」
東も頷く。
「実戦になってから『思っていたのと違った』では困るもの」
「ですよね」
紀人はカンガルーメモリーを握る。
腕は既知。
脚、胴体、頭部は未知。
「じゃあ今日は、一通り?」
「その予定だけど、まずは腕からだね。実戦で感じたものと、実際の数値がどの程度一致するのか確認しよう」
「分かりました」
東が少し離れた位置へ移動する。
「無理はしないでね。検証で怪我したら意味がないんだから」
「はい」
紀人はメモリーを見る。
まずは、唯一使ったことのある腕から。
◇
カンガルーメモリーを腕へ装着する。
腕部が、カンガルーの特徴を取り込んだ形へ変化していく。
紀人は拳を握り、何度か開閉した。
「……うん」
「どう?」
シラメ博士が聞く。
「この感じです。ヨミと戦った時と同じ」
腕に力が満ちている。
通常の状態より明らかに強い。
それでも、動かすこと自体に大きな違和感はない。
「重さは?」
「多少あります。でも、動かしにくいほどじゃないです」
「じゃあ、測ってみよう」
紀人の前に打撃測定用の機器が用意される。
東が念を押した。
「最初から全力は駄目よ」
「分かってます」
紀人は構えた。
まずは軽く拳を当てる。
数値が表示された。
シラメ博士が確認する。
「次。少し強く」
「はい」
二度目。
今度は腰を入れる。
拳が測定部へ叩き込まれ、鈍い音が響いた。
数字が一気に上がる。
東が画面を見る。
「やっぱり、かなり上がるのね」
「うん」
シラメ博士も頷く。
「腕力そのものだけじゃない。強い打撃を出した時、それに耐えられるよう腕部全体も強化されているみたいだ」
紀人は自分の拳を見る。
「確かに。殴った時の反動も、そんなに気にならないです」
「そこは重要だね。強いパンチを出せても、そのたびに自分の腕を痛めたら使いものにならない」
「実戦ではそこまで考えてなかったな……」
「戦ってる最中だったものね」
東が言う。
紀人はもう一度構えた。
今度は連続で打ち込む。
右。
左。
さらに右。
何度か打ち込み、動きを止めた。
「連打も問題ないです」
シラメ博士が数値を確認する。
「速度の低下も大きくないね」
「一発だけの切り札じゃなくて、そのまま格闘戦を続けられる?」
東が聞く。
「はい。腕なら普通に戦えます」
ヨミとの戦いで感じた手応え。
それが今回、改めて数値としても確認された。
◇
腕の検証を終え、一度変化を解除する。
紀人は腕を軽く振った。
「痛みは?」
東が聞く。
「ないです」
「違和感は?」
「大丈夫です」
シラメ博士も確認する。
「じゃあ、次は脚だね」
紀人はカンガルーメモリーを見る。
「ここからは初めてですね」
「うん」
シラメ博士が頷く。
「カンガルーって考えたら、むしろこっちの方が本命っぽいですけど」
「僕もそう思う」
「予想だけで決めないの」
東が二人を見る。
「だから検証するんでしょう?」
「はい」
「そのとおり」
紀人とシラメ博士が同時に答えた。
◇
カンガルーメモリーを脚へ装着する。
今回が初めて。
紀人自身も、どんな変化になるのか知らない。
太腿から足先までが、強靭な後脚を思わせる形へ変化していく。
変化が終わると、紀人は軽く膝を曲げ、足首を動かした。
「どう?」
シラメ博士が聞く。
「思ったより違和感ないです」
「重い?」
「腕の時とは違いますね」
「どう違うの?」
東が聞く。
紀人はその場で軽く足踏みする。
「何て言えばいいんだろう。踏ん張ると、すごく力が返ってくる感じがします」
シラメ博士が興味深そうに見る。
「じゃあ、まず蹴る前に軽く跳んでみよう」
「跳ぶ?」
「カンガルーだからね」
「なるほど」
東がすぐに言う。
「軽くよ」
「分かってますって」
紀人は膝を曲げた。
本当に少しだけ跳ぶつもりだった。
地面を蹴る。
「――うわっ!」
身体が予想以上に高く上がった。
着地。
紀人自身が一番驚いている。
「……びっくりした」
「軽くって言ったでしょう?」
「軽くやったんですよ!」
「今のが?」
「本当に!」
シラメ博士は計測結果を確認する。
「紀人くんの言うとおりだと思う。今の踏み切り、そこまで強くない」
東も画面を見る。
「じゃあ、脚そのものの力?」
「かなり強化されてる」
紀人は自分の脚を見る。
今度は先ほどより慎重に跳ぶ。
それでも高い。
着地して、少し考えた。
「……でも」
「どうしたの?」
東が聞く。
「跳ぶだけなら、ノミの方が上ですね」
シラメ博士が頷く。
「僕もそう思う。純粋な跳躍力だけを比べれば、ノミメモリーの方が強い」
「ですよね」
紀人はもう一度軽く跳ぶ。
十分高い。
だが、ノミメモリーを使った時の爆発的な跳躍とは違う。
「ただ」
シラメ博士が言う。
「これでも通常とは比べものにならないくらい高い」
「はい」
「ノミが跳躍に特化していると考えれば、カンガルーはどこまで他の能力も持っているかだね」
紀人は頷いた。
「じゃあ、次は蹴りですね」
◇
まず前方向への跳躍を試す。
助走はつけない。
膝を曲げ、そのまま前へ。
一気に距離を詰める。
着地。
紀人が振り返った。
「これ、移動にも使えますね」
「うん。一気に間合いを詰める。攻撃を避ける。高い場所へ移動する」
東も頷く。
「追跡にも使えそうね」
「逃げる時にも使えます」
「そうね。攻撃にしか使えない能力じゃないわ」
脚へ入れただけで、まだ本格的に蹴ってすらいない。
それでも、腕とはまったく違う使い道が見え始めていた。
◇
「じゃあ、そろそろ蹴っていいですか?」
紀人が言う。
「まずは軽く」
シラメ博士。
「本当に軽くよ」
東。
「分かってます」
紀人は測定機器の前へ立った。
空手で何度も繰り返してきた構え。
まずは軽い蹴りを当てる。
表示された数値を見て、紀人が眉を上げた。
「軽く蹴っただけなんですけど」
「分かってる。次は少し強く」
「はい」
紀人が構える。
軸足。
腰。
体重移動。
そして蹴り。
衝撃音。
測定機器が揺れる。
東が画面を見る。
「……かなり出てるわね」
「うん」
シラメ博士の表情も真剣だった。
「やっぱり、カンガルーの特徴は脚にかなり強く出るみたいだ」
紀人は自分の脚を見る。
「もう一回いいですか?」
「いいけど、全力はまだ駄目」
「はい」
今度は、紀人自身も意識を変えた。
ただ脚を振るのではない。
自分が空手で身につけてきた蹴り。
軸。
腰。
身体の回転。
そこへ、この脚の力を乗せる。
「――っ!」
蹴り。
先ほどよりさらに大きな衝撃。
機器が揺れた。
「紀人くん」
東が少し低い声で呼ぶ。
「……すみません。ちょっと力入りました」
「ちょっと?」
「……結構」
「検証で壊さないでね」
「はい」
だが、シラメ博士は画面から目を離していなかった。
「面白い」
「何がです?」
「今の蹴り。メモリーだけの力じゃない」
「俺の蹴り?」
「そう。脚力が強化されているのは間違いない。でも、それだけじゃない」
紀人には空手がある。
長く繰り返してきた身体の使い方がある。
軸。
腰。
踏み込み。
体重移動。
「そこへ、この脚力が乗ってる」
紀人は自分の脚を見る。
「じゃあ、これ、俺とかなり相性いい?」
「そうだと思う」
東も頷いた。
「元々持っている技術を、そのまま強くできるなら大きいわね」
「……」
紀人は少し考えた。
「でも、蹴りだけならヒクイドリの方が強いと思います」
「うん」
シラメ博士もすぐに頷いた。
「純粋な一撃の威力なら、ヒクイドリに分があると思う」
東が二人を見る。
「跳躍ならノミ。蹴りの威力ならヒクイドリ?」
「そうですね」
紀人が答える。
「じゃあ、カンガルーはその二つより弱いってこと?」
「いや」
紀人は少し考えてから首を振った。
「逆かもしれないです」
「逆?」
「ノミほどじゃないけど、かなり跳べる。ヒクイドリほどじゃないけど、かなり強く蹴れる」
シラメ博士も頷く。
「一つのメモリーで、その両方を高い水準で使える」
「それに」
紀人は構える。
「跳んで、そのまま蹴れる」
東が少し考える。
「自分で一気に距離を詰めて、そのまま攻撃までつなげられる?」
「はい」
「ノミなら、跳んだ後に別の攻撃手段が必要になる」
シラメ博士が言う。
「ヒクイドリなら、強力な蹴りを当てる位置まで入る必要がある」
紀人が続ける。
「でもカンガルーなら、脚だけで両方できる」
跳ぶ。
距離を詰める。
蹴る。
回避する。
また跳ぶ。
一つの部位で、その流れを組み立てられる。
東が納得したように頷いた。
「一番高く跳べるわけでも、一番強く蹴れるわけでもない。でも、両方できるから扱いやすいのね」
「そうですね」
紀人は自分の脚を見る。
「少なくとも、俺にはかなり使いやすいです」
シラメ博士も笑った。
「空手との相性まで考えれば、紀人くんにとってはかなり優秀な組み合わせだと思うよ」
「これ、腕よりこっちの方が俺に合ってるかもしれない」
紀人はもう一度、ゆっくり構えた。
◇
一通りの検証を終え、紀人は変化を解除した。
椅子へ座り、水分を取る。
シラメ博士は記録を確認し、東も隣から画面を見ていた。
「まず腕」
シラメ博士が言う。
「ヨミとの戦いで確認したとおり、パンチ力の強化。強い打撃に腕自体が耐えられるから連打もできる」
「速度低下も大きくない」
東が付け加える。
「近距離の格闘戦なら、かなり使いやすそうね」
「はい」
「そして脚」
シラメ博士が記録を切り替える。
「今回、初めて試した」
紀人が頷く。
「跳躍力は高い。ただし、純粋な跳躍ならノミには及ばない」
「蹴りも強いけど、一撃の威力ならヒクイドリの方が上」
紀人が続ける。
「その代わり、両方できる」
東がまとめる。
「跳躍と蹴りを一つでこなせる万能型、というところかしら」
「そうだね」
シラメ博士が頷いた。
「特に紀人くんの場合、元々の空手技術との相性がいい。単純な数値だけでは測れない使いやすさがある」
紀人は机の上のカンガルーメモリーを見る。
腕なら、パンチ。
脚なら、蹴りと跳躍。
同じメモリーなのに、装着する場所で戦い方そのものが変わる。
「これ、思ってたより使えるメモリーですね」
「かなりね」
東も同意する。
「うん。応用範囲は広そうだ」
シラメ博士も頷いた。
紀人はカンガルーメモリーを手に取る。
「じゃあ、残りも試します?」
「もちろん」
「胴体と」
紀人が言う。
「頭ね」
東が続けた。
まだ二か所。
一度も試していない場所が残っている。
「カンガルーって、脚以外にも特徴あるんですよね?」
紀人が聞く。
「あるよ。特に、もう一つ重要な部分がね」
「もう一つ?」
「尻尾」
紀人が少し目を丸くした。
「尻尾?」
「カンガルーにとって、かなり大事な部位だよ」
シラメ博士はカンガルーメモリーを見る。
「次はそこも含めて調べてみよう」
紀人も手の中のメモリーを見る。
腕と脚。
それだけでも予想以上だった。
なら、まだ試していない場所では何が起きるのか。
検証は、まだ半分だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




