第三話 アガト……かわいい
第三話 アガト……かわいい
数日後。
朝の公園。
中央の大きな池を囲む遊歩道には、時折、散歩やランニングをする人の姿があった。
紀人は周回路を一周してから、池の近くにあるベンチへ向かった。
そこには、すでに東が座っている。
「おはようございます」
「おはよう、紀人くん」
紀人は東の隣へ座った。
「今日は早いですね」
「あなたに合わせたのよ。普段はこの時間に走ってるんでしょう?」
「そうですけど……すみません」
「いいのよ。私もたまには朝の公園を歩くのも悪くないから」
東の手には小さなバッグ。
そこから飲み物を取り出した時、紀人の目が止まった。
バッグには、小さなマスコットのキーホルダーがついている。
「……東さん」
「何?」
「それ」
紀人が指差す。
東も自分のバッグを見る。
「ああ、これ?」
「そういうのつけるんですね」
「つけちゃ駄目?」
「いや、駄目じゃないですけど。何となく意外だっただけです」
「私を何だと思ってるの?」
「警察の人」
「それは仕事でしょう?」
「CASHの指揮官」
「それも仕事」
「レイピアで怪人と戦う人」
「……それも仕事ね」
東が少し呆れたように息を吐く。
「私だって、かわいいものくらい好きよ。甘いものだって好きだし」
「それも意外」
「紀人くん」
「はい」
「私のこと、普段どういう人間だと思ってるの?」
紀人は少し考える。
「……東さん?」
「答えになってないわよ」
紀人が笑った。
◇
「それで」
東が話を戻した。
「アガト、だったわね」
「はい。名前分かったんですよ」
「連絡は読んだわ」
「どんぐりくれながら、何回も言ってたんで」
「アガトって?」
「はい」
「自分から名前を教えてくれたってこと?」
「たぶん」
「あなた、ずいぶん気に入られたのね」
「そうなんですかね」
「一緒に走ったんでしょう?」
「はい」
「怪人と?」
「はい」
「公園で?」
「はい」
「……何をしてるの、あなた」
「俺も途中で思いました」
東が少し笑った。
「でも、攻撃してくる様子はなかったのね?」
「全然。むしろ普通に遊んでただけです」
「そう……」
東も公園を見渡した。
「今日は?」
「いるかどうか分かりません」
「呼んだら来るの?」
「それも分かりません」
「じゃあ、どうするの?」
「とりあえず」
紀人は立ち上がり、遊歩道の前後を確認した。
人はいない。
それを確かめてから、茂みの方へ声をかける。
「アガトー。いる?」
東が紀人を見る。
「普通に呼ぶのね」
「名前なんだから、これでいいかなって」
「そうね」
少し待つ。
何も起きない。
「いないかな」
紀人が言った時。
がさっ。
茂みが動いた。
「あ」
顔が出る。
ネズミ怪人。
「いた」
紀人が笑う。
「アガト」
「アガト!」
東の眉が少し上がった。
「本当に反応したわね」
「でしょう?」
東も試すように呼ぶ。
「アガト」
ネズミ怪人の動きが止まった。
東を見る。
そして、少し後ろへ下がる。
「やっぱり、私には警戒してるわね」
「前に一緒にいたの覚えてるんですかね」
「それは分からないけど、少なくともあなたと私への反応は違うわ」
ネズミ怪人は紀人を見る。
東を見る。
逃げはしないが、茂みから出てこない。
紀人は近づかなかった。
「大丈夫。今日は何もしないから。俺、走るだけ」
東が紀人を見る。
「通じるの?」
「たぶん通じてないです」
「でしょうね」
「でも、何となくでいいんですよ」
「何となく?」
「はい」
紀人は笑った。
「俺たち、だいたいそんな感じなんで」
◇
紀人は周囲に人がいないことを確認してから、遊歩道を軽く走り始めた。
しばらくすると、ネズミ怪人が茂みから出てきて紀人の後ろを走り始める。
「来た」
東はベンチから二人を見ていた。
紀人が少し速度を上げる。
アガトも上げる。
紀人が振り返って笑う。
アガトもその後を追う。
本気で周回するような速さではない。
互いに少し先へ出たり、追いついたり。
途中からは競争なのか遊びなのか分からなくなっていく。
紀人が急に方向を変える。
アガトが追う。
今度はアガトが逃げ、紀人が追う。
「待てって!」
楽しそうな声。
東は黙って見ていた。
紀人が言っていたとおりだった。
言葉で何かを指示しているわけではない。
命令もない。
それでも、何となく二人の間では通じている。
東は小さく笑った。
「本当に遊んでるのね……」
◇
その時、アガトの動きが止まった。
耳が動く。
東も遊歩道を見る。
人が来る。
紀人も気づいた。
「アガト、人!」
アガトはすぐに茂みへ走り、姿を隠した。
紀人は何事もなかったように一人でランニングを続ける。
東も普通にベンチへ座ったまま。
散歩中の夫婦が近づいてきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
東が挨拶する。
少し遅れて、紀人も二人とすれ違う。
「おはようございます」
夫婦が通り過ぎ、姿が見えなくなる。
紀人が周囲を確認した。
「もういいぞ」
がさっ。
アガトが顔を出す。
東はその様子を見ていた。
「……なるほど」
紀人が戻ってくる。
「何か分かりました?」
「人間全般に慣れてるわけじゃないってこと」
「ああ」
「あなたにはかなり警戒を解いてる。でも、知らない人が来ればすぐ隠れる。私にもまだ警戒してる」
東は少し考える。
「少なくとも、自分から人間の多いところへ出たがるタイプには見えないわね」
「前に子供とは遊んでましたけど」
「あの時は、向こうから何かあったのかもしれないし。まだ分からないわ」
「そうですね」
東はあくまで慎重だった。
◇
しばらくして、紀人とアガトはベンチの近くへ戻ってきた。
「疲れた」
紀人が座る。
アガトは少し離れたところ。
まだ東からは距離を取っている。
紀人が自分用に持ってきた軽食を取り出す。
アガトが見る。
「これ?」
アガトの鼻が動く。
すん。
すんすん。
東の目が止まった。
紀人が少し分けると、アガトは両手で持って小さくかじる。
もぐもぐ。
鼻が動く。
また一口。
東はじっと見ていた。
「……似てる」
「え?」
紀人が聞く。
東はアガトから目を離さない。
「昔ね、モルモットを飼ってたの」
「モルモット?」
「ええ」
アガトは両手で軽食を持ったまま食べ続けている。
「もちろん、この子がモルモットだって言ってるわけじゃないわよ」
「分かってます」
「でも、こういう仕草が似てるのよね」
アガトの鼻が動く。
何か気になったのか、首を傾げた。
東の声が少し柔らかくなる。
「食べる時とか、周りを気にする時とか……何となく思い出すの」
「かなり可愛がってたんですか?」
東は少し黙った。
「……ええ。かなりね」
「へえ」
「何?」
「いや。本当にかわいいもの好きなんですね」
「だから最初からそう言ってるでしょう?」
「そうでした」
「もう」
東は少し笑った。
紀人には、いつもCASHで指示を出している時とは少し違う東に見えた。
◇
食べ終わったアガトが立ち上がった。
まず紀人の近くへ。
それから、東を見る。
東も見る。
しばらく、そのまま。
やがてアガトが一歩近づいた。
止まる。
鼻を動かす。
すん。
また一歩。
紀人が東を見る。
東の手が、ほんの少し動いた。
「東さん」
「何?」
「触りたいんですか?」
「別に」
「今、手出しかけましたよ」
「出してないわよ」
アガトがもう一歩近づく。
東の手が、また少し動いた。
「ほら」
「紀人くん」
「はい」
「静かにして」
「はい」
紀人は口を閉じた。
アガトは東を見る。
次に、東のバッグについたマスコットを見る。
そしてまた東。
東は動かない。
「怖くないわよ」
小さな声。
アガトには意味が通じていないだろう。
それでも、少しだけ距離が縮まった。
◇
「触ってみればいいじゃないですか」
紀人が小声で言った。
「駄目よ」
「何で?」
「まだ要観察対象でしょう?」
「でも、俺とは普通に遊んでますよ」
「あなたと私では立場が違うの」
東はアガトを見る。
「私は警察官よ。それにCASHとしても、この子が何なのか確認しなきゃいけない」
「はい」
「かわいいからって、それだけで安全だと決めるわけにはいかないでしょう?」
「……そうですね」
紀人も、そこは分かる。
ただ。
東は少しだけ残念そうに見えた。
それを見て、紀人が笑いそうになる。
「何?」
「何でもないです」
「今、笑ったでしょう?」
「笑ってません」
「絶対笑ったわよ」
「気のせいです」
◇
その時、アガトが何かを取り出した。
「ん?」
紀人が見る。
どんぐり。
「また?」
アガトが紀人へ差し出す。
「アガト!」
紀人が東を見る。
「ほら」
「え?」
「これです」
紀人はどんぐりを受け取った。
「この前も、これくれながら『アガト』って言ったんですよ」
「それで名前だと思ったの?」
「はい」
「なるほど」
東がアガトを見る。
「アガト」
「アガト!」
「本当ね」
「でしょう?」
「ちゃんと自分の名前に反応してるみたい」
「ですよね」
二人の中では、完全にアガトが名前として定着した。
アガト本人だけが何も知らない。
「アガト!」
嬉しそうに、もう一度言った。
◇
そろそろ帰る時間。
東が立ち上がる。
「じゃあ、今日はここまでにしましょう」
「はい」
紀人も立つ。
アガトは少し離れたところから二人を見ている。
東は少し迷ってから。
「じゃあね、アガト」
「アガト!」
東が笑った。
紀人はその顔を見る。
「東さん」
「何?」
「やっぱり、かわいいと思ってるでしょう」
少し間があった。
「……見た目はね」
「見た目だけ?」
「今は、ね」
「はいはい」
「何、その返事」
「別に」
「紀人くん?」
「行きましょう」
紀人が先に歩き出す。
東もその後を追った。
◇
公園を出る途中。
紀人が聞いた。
「本当にモルモットに似てるんですか?」
「種類は全然違うわよ」
「それは分かってます」
「ただ、仕草がね。食べてる時とか、警戒してる時とか。何となく思い出すの」
東は少しだけ懐かしそうに笑った。
「また会いたい?」
「観察は必要でしょう?」
「はいはい」
「だから何、その返事」
紀人は笑った。
東は少し不満そうな顔をしながらも、一度だけ振り返った。
公園の茂み。
もう、アガトの姿は見えなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




