第九話 三つ目のどんぐり
第九話 三つ目のどんぐり
それから、川出たちは何度か公園へ足を運んだ。
毎日ではない。
仕事もある。
ネズミ怪人が必ず現れるわけでもない。
それでも時間が合えば、三人であの公園へ行くようになった。
◇
「カワデ!」
「おう」
最初の頃、ネズミ怪人が近づくのは、やはり川出だけだった。
「ニシ」
ニシが自分を指差す。
「ニシ」
「……ニシ」
「お!」
「動くな」
北山が言う。
「分かってるよ」
前回の失敗を覚えている。
ニシは動かない。
「俺の名前も覚えたか」
「ニシ」
「そうそう」
ネズミ怪人は川出の横。
まだニシからは少し離れている。
北山からは、もっと離れている。
「今日はな」
ニシが小さな袋を出した。
「俺が持ってきたぞ」
川出が見る。
「焼き菓子?」
「ああ」
「餌付けしようとしてません?」
「お前に言われたくねえよ」
「俺は交流です」
「俺も交流だ」
「二人とも」
北山が言う。
「その言い方をやめろ」
「はい」
「悪い」
ネズミ怪人は焼き菓子の袋を見ている。
「ほら」
ニシが一つ出す。
「食うか?」
ネズミ怪人は近づかない。
「まだ駄目か」
「置いてください」
「はいよ」
ニシが地面へ置き、数歩下がる。
ネズミ怪人が川出を見る。
焼き菓子を見る。
ニシを見る。
ゆっくり近づいて取る。
「オイシ」
「よし」
ニシが小さく拳を握った。
「何と戦ってるんです?」
「信用」
「そういうことにしときますか」
「何だよ、その言い方」
◇
次に来た時。
「ニシ!」
「おう!」
ネズミ怪人はニシの名前を普通に呼んだ。
「覚えてるじゃねえか」
「ニシ!」
「そうだ。俺がニシだ」
ニシは焼き菓子を出した。
「今日はどうする?」
前回と同じように、地面へ置こうとする。
その時。
ネズミ怪人が一歩、近づいた。
「ん?」
「動かないで」
川出が小声で言う。
「分かってる」
一歩。
もう一歩。
ニシの手。
焼き菓子。
ネズミ怪人は少し迷って、手を伸ばした。
取る。
ニシの顔が明るくなる。
でも、声は出さない。
ネズミ怪人が一口。
「オイシ!」
「……よし」
小声。
川出が笑った。
「成長しましたね」
「俺が?」
「両方です」
「そうか」
ニシは、ちょっと嬉しそうだった。
◇
一方、北山は何もしなかった。
「なあ」
ニシが聞く。
「お前も何かやれよ」
「何を?」
「菓子とか」
「必要ない」
「何でだよ」
「食べ物を渡さなければ観察できないわけじゃない」
「でもよ」
「無理に距離を縮める必要もない」
北山は少し離れた場所へ座っている。
ネズミ怪人を見る。
ネズミ怪人も時々、北山を見る。
目が合う。
ネズミ怪人が少し川出へ近づく。
北山は動かない。
「北山さんらしいですね」
川出が言った。
「何がだ」
「いや、別に」
「言え」
「無理に仲良くしようとしないところ」
「必要がないからな」
「嫌われてもいい?」
ニシが聞く。
「好かれるために来てるわけじゃない」
「真面目だなあ」
「お前が軽すぎる」
「何だと」
「静かにしろ」
「はい」
ニシはまた黙った。
◇
別の日。
三人は、いつものベンチでネズミ怪人を見ていた。
「そういや」
ニシが言った。
「この前のハツカネズミの話」
「調べたんですか?」
「ちょっとな」
川出が少し驚く。
「ニシさんが?」
「お前、俺を何だと思ってんだ」
「元プロレスラー」
「それは合ってる」
「じゃあ何が不満なんです?」
「そういうことじゃねえよ」
北山がため息をつく。
「話を進めろ」
「ああ」
ニシはネズミ怪人を見る。
「やっぱり、人に慣れやすいらしい」
「ハツカネズミが?」
「ああ」
「じゃあ」
川出が言う。
「こいつが人に慣れるのも、その影響?」
「可能性はあるんじゃねえか」
「可能性はな」
北山が言う。
「それをそのまま、こいつに当てはめるな」
「分かってるよ」
ニシも今度は反論しない。
「似てるってだけだ」
「それに」
北山が続ける。
「人に慣れやすいことと、人を助けることは別だ」
川出がネズミ怪人を見る。
二度、自分を助けた。
泣いている子供を慰めた。
落ちていた帽子を気にした。
「じゃあ」
川出が言う。
「人懐っこい部分は動物の性質かもしれない。でも、困ってる相手を助けるのは……」
「こいつ自身の性格?」
ニシが続ける。
「それも」
北山が言う。
「まだ分からない」
「厳しいなあ」
「分からないものを分かったことにする方が危険だ」
「まあ、そりゃそうだ」
ニシも頷く。
答えは、まだ出ない。
それでよかった。
◇
その時。
ネズミ怪人が急に立ち上がった。
「ん?」
川出が見る。
人の気配ではない。
ネズミ怪人は公園の端を見ている。
「あっち?」
三人もそちらを見る。
木の枝。
そこに、小さな袋が引っかかっていた。
子供用らしい。
紐のついた小さな巾着袋。
風で飛ばされたのか、少し高い枝に絡んでいる。
「また落とし物か」
川出が言う。
ネズミ怪人は木の下まで行く。
見上げる。
手を伸ばす。
届かない。
少し跳ぶ。
それでも届かない。
もう一度。
「気になるんだな」
ニシが言う。
「みたいですね」
川出も見る。
ネズミ怪人は諦めない。
木を見る。
周囲を見る。
また木。
「ほら」
ニシが小さく言う。
「まただ」
「はい」
川出は頷く。
北山は黙って見ていた。
ネズミ怪人が、もう一度手を伸ばす。
届かない。
北山が立った。
「北山さん?」
「待ってろ」
ネズミ怪人が北山を見る。
警戒。
一歩下がる。
北山はネズミ怪人には近づかない。
木へ手を伸ばす。
巾着袋の紐を枝から外す。
取る。
ネズミ怪人が見ている。
北山は袋を確認する。
名前らしいものが書かれている。
「川出」
「はい」
「ベンチの見えるところに置いとけ」
「分かりました」
北山が川出へ渡す。
川出はベンチの上へ、目立つように置いた。
「これなら取りに来た時に分かるでしょう」
「ああ」
ネズミ怪人は巾着袋を見る。
ベンチを見る。
北山を見る。
しばらく何も言わない。
北山も何も言わなかった。
◇
少しして。
ネズミ怪人が自分の持っていたものを探る。
「ん?」
川出が気づく。
どんぐり。
一つ。
ネズミ怪人が川出を見る。
ニシを見る。
そして、北山を見る。
北山もネズミ怪人を見る。
一歩。
ネズミ怪人が近づく。
止まる。
北山は動かない。
一歩。
また止まる。
手を伸ばす。
どんぐり。
「……俺に?」
「ハイ」
北山はゆっくり手を出した。
ネズミ怪人が、その手へどんぐりを置く。
そして、すぐ川出のところへ戻った。
北山は手のひらを見る。
どんぐり。
「ありがとう」
「アガト!」
川出が笑った。
「北山さんも、一個分認められましたね」
「その数え方をやめろ」
「俺と同格だな」
ニシが言う。
「お前とも競ってない」
「でも、どんぐり一個だぞ」
「だから何だ」
「俺も一個」
「だから?」
「同格」
「うるさい」
川出は笑った。
ネズミ怪人も、意味は分からないまま。
「アガト!」
嬉しそうに言った。
◇
帰る時間。
ネズミ怪人が茂みへ向かう。
「マタナ!」
「おう。またな」
川出。
「またな!」
ニシ。
ネズミ怪人が北山を見る。
北山も見る。
「……またな」
少し遅れて言った。
「マタナ!」
ネズミ怪人が嬉しそうに返す。
そして、茂みの奥へ消えた。
◇
三人は公園を出る。
北山は手の中のどんぐりを見ていた。
「どうします?」
川出が聞く。
「何がだ」
「それ」
「持って帰る」
即答。
ニシが笑った。
「気に入ってんじゃねえか」
「もらったものを捨てる理由がないだけだ」
「はいはい」
「何だ、その言い方は」
「別に」
少し歩く。
北山が言った。
「……少なくとも」
二人が見る。
「川出の話に、思い込みだけがあったとは思わない」
川出は黙って聞く。
「あいつが人間を助けようとしている。それ自体は、事実として見ていいだろう」
「……はい」
「ただし」
「安全だと断定するには早い?」
「ああ」
川出は少し笑った。
「それで十分です」
ニシが言う。
「俺はもう結構信用してるけどな」
「だから」
北山がニシを見る。
「お前と俺の両方が必要なんだろ」
「俺が信用する係?」
「誰がそんな係を決めた」
「じゃあ北山が疑う係」
「お前な」
「まあまあ」
川出が二人の間に入る。
三人は歩く。
少しして。
遠く、公園の茂みの方から。
「マタナ!」
声が聞こえた。
三人が振り返る。
姿は見えない。
川出が手を上げる。
「おう!」
ニシも。
「またな!」
北山は手の中のどんぐりを見る。
そして、ほんの少しだけ笑った。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




