第八話 知らない人
第八話 知らない人
数日後。
「本当に、ここに来るのか?」
ニシが公園の入り口から中を覗いた。
「たぶん」
「たぶん?」
「約束してるわけじゃないですから」
「お前、俺たちを呼んどいてそれかよ」
「仕方ないでしょう」
川出は声を落とした。
「それより、絶対にいきなり出てこないでくださいよ」
「分かってるって」
「ニシさん、声も大きいんで気をつけてください」
「俺、そんな声でかいか?」
「でかい」
北山が即答した。
「お前まで言うのかよ」
「警戒心が強いんだろ。余計なことをするな」
「分かったよ」
三人は公園の奥を見る。
いつものベンチ。
その周辺には誰もいない。
「じゃあ、俺だけ行きます」
川出が言った。
「二人はここで待っててください」
「どのくらい?」
「分かりません」
「本当に大丈夫か、この作戦」
「俺も分かりません」
「おい」
「とにかく、出てきたら合図します」
川出は一人、公園の中へ入っていった。
◇
いつものベンチ。
川出は腰を下ろした。
周囲を見る。
誰もいない。
茂み。
木の陰。
いつもの場所。
「いるか?」
返事はない。
川出は待った。
一分。
二分。
「……今日は来ないかな」
そう思った頃。
「カワデ!」
「お」
川出が振り返る。
茂みから、ネズミ怪人が顔を出していた。
「いたのか」
「カワデ!」
「おう。川出」
ネズミ怪人が出てくる。
右。
左。
いつものように周囲を確認。
そして、川出へ向かって歩き出した。
だが、数歩進んだところで止まる。
「ん?」
ネズミ怪人の鼻が動く。
すん。
すんすん。
右を見る。
左。
公園の入り口。
「……やっぱ分かるか」
ネズミ怪人の身体が少し強張っている。
「今日はな」
川出はゆっくり話す。
「俺以外にも、人がいる」
「……ヒト?」
「そう。人」
川出は指を二本立てる。
「二人」
「……フタ?」
「二人」
「フタリ?」
「お、そう」
意味まで理解しているかは分からない。
それでも、川出は続ける。
「俺の知ってる人」
自分を指差す。
「川出」
「カワデ」
公園の入り口を指差す。
「川出の知ってる人」
ネズミ怪人が一歩、後ろへ下がった。
また一歩。
「嫌なら帰っていいぞ」
「……?」
「無理しなくていい」
川出は追わない。
手も伸ばさない。
「帰ってもいい」
意味が通じたのかは分からない。
ネズミ怪人は茂みを見る。
川出を見る。
また茂み。
そして、ベンチの横に置かれた焼き菓子の袋を見る。
「それは気になるんだな」
ネズミ怪人が川出を見る。
「カワデ」
「うん」
少し迷ってから、ネズミ怪人は川出へ近づいた。
ただし、いつもの隣ではない。
川出の後ろへ隠れる。
「……そこならいいの?」
「カワデ」
「はいはい」
川出は少し笑った。
「じゃあ、そこにいろ」
◇
川出は公園の入り口へ向かって手を上げた。
合図。
少しして、二人の男が歩いてくる。
ニシ。
北山。
走らない。
急がない。
ゆっくり。
ネズミ怪人の身体が強張った。
「大丈夫」
川出が言う。
「動かなくていい」
ネズミ怪人は川出の後ろへ隠れる。
顔だけ、少し出す。
ニシが止まった。
「本当にいた」
「だから言ったでしょう」
「いや、聞いてたけどよ」
「静かに」
北山が言う。
「悪い」
二人は距離を残したまま止まった。
北山は何もしない。
ただ、見る。
ニシも少しだけ腰を落とした。
「……どうも」
「何ですか、その挨拶」
「いや、何て言えばいいんだよ」
「俺に聞かれても」
ネズミ怪人が、さらに川出の後ろへ隠れた。
「俺、そんな怖いか?」
「でかいですからね」
「お前に言われたくねえよ」
「静かにしろ」
北山がもう一度言った。
「はい」
ニシは素直に黙った。
◇
川出はネズミ怪人を見る。
「大丈夫」
そして、ニシを指差した。
「ニシさん」
「ニシ」
ニシが自分を指差す。
「ニシ」
ネズミ怪人は見ている。
「ニシ」
川出も言う。
「……ニ……?」
ニシの顔が明るくなった。
「お」
一歩、前へ。
ネズミ怪人が川出の後ろへ隠れる。
「動くな」
北山。
「悪い」
ニシが元の位置へ戻る。
「今の駄目だったか」
「急に近づいたからですよ」
「難しいな」
「だから言ったでしょう」
次に、川出は北山を指差す。
「北山さん」
北山は自分を指差す。
「北山」
ネズミ怪人はじっと見ている。
「キタヤマ」
「……キタ?」
「無理に覚えなくていい」
「ニシより長いですからね」
「そこは関係あるのか?」
「分かりません」
北山が少し眉を寄せる。
「お前ら、今は黙ってろ」
「はい」
◇
しばらく、誰も動かなかった。
ネズミ怪人は川出の後ろ。
ニシを見る。
北山を見る。
また川出。
逃げない。
だが、近づかない。
ニシが小声で言った。
「何か渡した方がいいか?」
「食べ物なら、多少は」
「俺、何も持ってきてねえぞ」
「でしょうね」
「何で分かるんだよ」
「持ってくるように言ってませんから」
「じゃあどうすんだ」
川出は焼き菓子の袋から一つ取り出した。
「これ使います?」
「俺が渡すの?」
「直接はやめた方がいいです」
「じゃあ?」
「置いて、下がってください」
「なるほど」
ニシは川出から焼き菓子を受け取った。
ゆっくり地面へ置く。
そして、数歩下がった。
ネズミ怪人が見る。
焼き菓子。
ニシ。
川出。
また焼き菓子。
「大丈夫」
川出が言う。
ネズミ怪人はゆっくり、川出の後ろから出た。
一歩。
止まる。
また一歩。
止まる。
焼き菓子の前まで来ると、匂いを嗅いだ。
すん。
すんすん。
ニシを見る。
ニシは動かない。
ネズミ怪人が焼き菓子を取った。
一口。
もぐ。
もぐもぐ。
「オイシ」
「喋った!」
ネズミ怪人がびくっとした。
「声がでかい」
北山。
「悪い!」
「それもでかい」
「……すまん」
今度は小さい。
川出が笑いをこらえる。
「だから言ったでしょう」
「本当に喋るんだな」
「少しだけですけど」
「オイシ」
ネズミ怪人はもう一口。
「……かわいいな」
ニシが小さく呟いた。
「でしょう?」
川出が即答した。
北山とニシが川出を見る。
「何です?」
「いや」
「別に」
「何ですか、その反応」
◇
北山はネズミ怪人を観察していた。
川出には身体を向ける。
ニシが少し動けば、すぐ反応する。
北山自身にも一定の距離を取っている。
そして何度も、周囲を見る。
「……逃げ道を確認してるな」
「え?」
川出が聞く。
「俺たちを襲う位置取りじゃない」
北山が言う。
「何かあれば、すぐ逃げられる位置を選んでる」
「俺も、そう見えます」
「少なくとも今は、攻撃より逃げることを優先してる」
川出は少し安心した。
だが、北山は続ける。
「今は、だ」
「はい」
「これだけで安全とは言えない」
「分かってます」
「ならいい」
川出自身、それを確認してもらうために北山を連れてきた。
◇
少し時間が経った。
ネズミ怪人は、まだニシと北山へ近づかない。
だが、最初ほど川出の後ろへ隠れなくなった。
ニシがじっと見る。
「……なあ」
「何です?」
「こいつさ」
ニシがネズミ怪人を見る。
「ネズミはネズミでも、ハツカネズミっぽくないか?」
「種類分かるんですか?」
「いや、見た目だけじゃなくて」
「性格?」
「そう」
ニシは少し考える。
「昔、聞いたことあるんだよ。ハツカネズミって結構、人に慣れやすいって」
川出がネズミ怪人を見る。
「じゃあ、こいつが俺に懐いてるのも?」
「可能性はあるんじゃねえか?」
「待て」
北山が止める。
「それだけで決めるな」
「分かってるよ」
ニシも頷く。
「可能性の話だ」
「元になった動物の性質が、怪人にも出てる……とか?」
川出が言う。
「それも、今は分からん」
北山。
「博士に見せれば何か分かるかもしれないが」
「まだ博士は……」
「ああ」
北山もネズミ怪人を見る。
「今はやめた方がいいだろうな」
人間が二人増えただけで、これだけ警戒している。
「まあ」
ニシが言う。
「急ぐ必要もねえだろ」
「そうですね」
川出も頷いた。
◇
その時。
ネズミ怪人が何かを取り出した。
「ん?」
川出が見る。
どんぐり。
「また持ってきたの?」
「アガト!」
「はいはい」
ネズミ怪人が川出へ一つ差し出す。
「ありがとう」
「アガト!」
そして。
もう一つ、手に残っている。
ネズミ怪人がニシを見る。
ニシも自分を指差した。
「俺?」
ネズミ怪人は少し迷う。
そして一歩、ニシへ。
「動かないでくださいよ」
「分かってる」
一歩。
また一歩。
まだ距離はある。
それでも手を伸ばす。
どんぐり。
「……俺にも?」
「ハイ」
ニシがゆっくり手を出した。
ネズミ怪人はどんぐりを乗せると、すぐ川出のところまで戻った。
ニシは手の中のどんぐりを見る。
「ありがとな」
「アガト!」
「本当にアガトって言った」
「だから言ったでしょう」
ニシが笑った。
「これ、持って帰っていいんだよな?」
「たぶん」
「たぶんかよ」
「俺も最初そうでしたから」
北山を見る。
ネズミ怪人は北山には何も渡さなかった。
北山も、それについて何も言わない。
ただ、静かに見ていた。
◇
遠くから人の声。
ネズミ怪人の耳が動いた。
「そろそろだな」
川出が言う。
ネズミ怪人が茂みを見る。
そして。
「カワデ」
「おう」
「マタナ!」
「またな」
ネズミ怪人がニシを見る。
少し考える。
「……マタナ」
ニシが笑った。
「おう。またな」
ネズミ怪人は北山を見る。
「……」
「……」
何も言わない。
そして、茂みへ走った。
姿が消える。
◇
三人が残った。
最初に口を開いたのは、ニシだった。
「……かわいいな」
「でしょう?」
川出が答えた。
そして、自分で止まる。
「……いや」
「何だよ」
「そういう話じゃなくて」
「お前、完全に情が移ってるな」
北山が言った。
「だから北山さんにも来てもらったんですよ」
「自覚はあるのか」
「あります」
「なら、まだいい」
北山はネズミ怪人が消えた茂みを見る。
「少なくとも、今日見た範囲ではこちらへの攻撃性は確認できなかった」
「はい」
「逃げることを優先している。川出には明確に慣れている。ニシにも、少しだけ警戒を解いた」
ニシがどんぐりを見る。
「俺、認めてもらえた?」
「一個分な」
「何だよ、一個分って」
「俺は何ももらってない」
「欲しかったのか?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ何だよ」
「警戒の度合いの話だ」
川出は二人のやり取りを見て、少し笑った。
「じゃあ」
ニシが言う。
「もう少し見るか」
北山は少し考えた。
「ああ」
「いいんですか?」
「一度見ただけで結論を出す方がおかしい」
「……ありがとうございます」
「だから礼はまだ早い」
「はい」
川出は頷いた。
ネズミ怪人。
まだ、何者なのかは分からない。
安全だと決まったわけでもない。
それでも。
少なくとも。
一人で考える必要は、もうなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




