アガト?
アガト?
あれから数日が経った。
「……疲れた」
川出は小さく息を吐いた。
朝から聞き込みと確認作業。
歩いて、話を聞いて、また歩く。
成果がまったくなかったわけではない。
だが、これといって大きな進展があったわけでもなかった。
「ちょっと休むか」
帰る途中、川出は近くの公園へ入った。
見覚えのある場所だった。
「……ここか」
少し前。
パンさんの店で買った焼き菓子を置いていった公園。
名前も知らない。
何者なのかも分からない。
ただ、二度も自分を助けてくれた怪人へ。
『ありがとうな』
そう言って、焼き菓子を置いていった。
川出は何となく周囲を見る。
当然、あの時の袋はもうない。
「なくなってるな」
誰が持っていったのかは分からない。
あいつが食べたのか。
まったく関係のない誰かが持っていったのか。
それすら確認できていない。
「まあ、いいか」
川出はベンチへ座った。
途中で買ったパンと飲み物を取り出す。
今日は朝から動きっぱなしだ。
「いただきます」
袋を開け、一口かじる。
腹が減っていたせいか、それだけでいつもより美味く感じる。
もう一口。
ようやく少しだけ力が抜けた。
その時だった。
がさっ。
川出の動きが止まる。
視線だけを動かした。
公園の奥。
茂み。
何も出てこない。
風か。
そう思いながら、少し待つ。
また。
がさっ。
「……いるな」
仕事柄、こういう気配には敏感だった。
川出は立ち上がらない。
武器にも手を伸ばさない。
ただ、茂みを見る。
「いるなら出てくれば?」
返事はない。
しばらくして。
茂みから、ほんの少しだけ顔が出た。
「……お前」
ネズミ怪人。
川出は思わず笑った。
「久しぶり……ってほどでもないか」
ネズミ怪人は出てこない。
顔だけを覗かせている。
右を見る。
左を見る。
公園の入り口を見る。
また右。
また左。
「大丈夫だよ」
川出も周囲を見回した。
「今は誰もいない」
意味が通じたのかどうか。
ネズミ怪人が一歩、茂みから出た。
止まる。
また周囲を見る。
「警戒心強いな」
もう一歩。
そして、ゆっくり川出へ近づいてくる。
川出は動かない。
そこで、ネズミ怪人の片手が握られていることに気づいた。
「……何持ってんの?」
ネズミ怪人が止まる。
川出を見る。
「?」
「いや、その手」
川出が指差す。
ネズミ怪人は自分の手を見てから、川出の前まで来た。
そして、握った手を差し出す。
「……俺に?」
返事はない。
代わりに、その手が開かれた。
「…………は?」
どんぐり。
一個。
二個。
三個。
それどころではない。
手のひらいっぱいに、どんぐりが乗っている。
「……何これ」
ネズミ怪人がさらに手を前へ出す。
「いや、見ればどんぐりなのは分かるけど」
また前へ。
「俺にくれるの?」
「アガト」
「……は?」
「アガト」
川出は瞬きをした。
「何?」
「アガト!」
「アガト?」
ネズミ怪人の反応が大きくなる。
「アガト! アガト!」
「いやいや、待って。何の話?」
ネズミ怪人は嬉しそうだ。
だが、川出には何一つ分からない。
「これを俺にくれるってことでいいの?」
「アガト!」
「だから、それが分かんないんだよな……」
ネズミ怪人が、さらにどんぐりを押しつけるように差し出す。
川出は少し迷った。
だが。
「分かった。もらうよ」
手を出した。
ころころと、どんぐりが川出の手へ移る。
「……結構あるな」
何個あるのか、数える気にもならない。
でも、せっかく持ってきたものだ。
川出はどんぐりを握る。
「ありがとう」
「アガト!!」
「……ん?」
川出が止まった。
ネズミ怪人は嬉しそうに川出を見ている。
「今……」
川出は少し考える。
「ありがとう」
「アガト!」
「……」
もう一度。
「ありがとう」
「アガト!」
「……お前」
ようやく、川出の中で何かがつながった。
「もしかして」
ネズミ怪人を見る。
「お前、それ……『ありがとう』って言ってんのか?」
「アガト!」
「……マジか」
川出は思わず笑った。
「アガトって、ありがとうだったのか」
「アガト!」
「いや、惜しい。結構惜しいけど」
川出は手の中のどんぐりを見る。
そして思い出す。
数日前。
ここへ焼き菓子を置いた。
最後に。
『ありがとうな』
そう言った。
「……聞いてたのか?」
「?」
「俺がここに菓子置いてった時」
「……?」
「まあ、そこまでは分かんないか」
川出はどんぐりを一つ摘まむ。
「これも……お礼?」
「アガト!」
「そういうことか」
焼き菓子をもらった。
だから今度は、自分が何かを持ってきた。
たぶん、そういうことなのだろう。
「律儀だな、お前」
「?」
「いや。ありがとう」
「アガト!」
「うん。それ」
川出は笑った。
「でもな」
もう一度、どんぐりを見る。
「……これ、どうすりゃいいんだ」
「?」
「いや、嬉しいよ?」
ネズミ怪人が首を傾げる。
「嬉しいんだけどさ」
どんぐり。
川出は人間である。
「俺、これ食えないんだよな」
「……」
ネズミ怪人の動きが止まった。
「……」
「え」
明らかに、さっきまでと違う。
「いやいやいや!」
川出は慌てた。
「違う! いらないって意味じゃない!」
「……」
「もらう! ちゃんともらうから!」
どんぐりを握る。
「ほら!」
何を必死になっているんだ。
自分でも分からない。
「大事にするから!」
「……」
ネズミ怪人が少しだけ顔を上げる。
「アガト?」
「そうそう。アガト」
川出は言ってから止まった。
「……いや、俺までアガトになってるな」
「アガト!」
「まあいいか」
ネズミ怪人が嬉しそうなら、それでいい。
◇
川出は改めてベンチへ座った。
ネズミ怪人は、少し離れたところに立っている。
「……座る?」
「?」
川出が隣を軽く叩く。
「ここ」
ネズミ怪人がベンチを見る。
川出を見る。
またベンチ。
少し警戒しながら、端へ座った。
「……」
「……」
妙な光景だった。
刑事と、ネズミの怪人。
二人で公園のベンチに座っている。
「お前さ」
川出が言う。
「喋れたんだな」
「……シャベル?」
「違う違う」
「?」
「言葉」
自分の口を指差す。
「言葉。分かる?」
「……コトバ?」
「お」
川出が少し驚く。
「そう。言葉」
「コトバ」
「結構いけるじゃん」
少なくとも、単語を真似することはできるらしい。
「じゃあさ」
川出は自分を指差す。
「川出」
「……?」
「か・わ・で」
「……カ……ワ……」
「川出」
「カワ……」
「もうちょい」
「カワ……デ?」
「おお!」
川出が思わず声を上げた。
ネズミ怪人がびくっとする。
「あ、ごめん」
「……カワデ?」
「そう。俺、川出」
自分の胸を指差す。
「川出」
「カワデ」
「正解」
通じた。
それだけなのに、少し嬉しい。
「じゃあ」
今度はネズミ怪人を指差す。
「お前は?」
「……?」
「名前」
「ナマエ?」
「そう。名前」
川出は自分を指差す。
「川出」
そして、ネズミ怪人を指差した。
「お前の名前は?」
「……」
ネズミ怪人は自分を指差す。
「……ナマエ?」
「いや、名前って名前じゃなくて」
「ナマエ」
「違う」
「ナマエ?」
「難しいな……」
川出は頭をかいた。
まだ、会話と呼ぶには遠い。
でも、少し前までなら、こいつが言葉を話せることすら知らなかった。
「まあ、ゆっくりでいいか」
「ユックリ?」
「そこ拾うのか」
川出は笑った。
◇
遠くから声が聞こえた。
人だ。
公園へ近づいてくる。
ネズミ怪人が瞬時に立ち上がった。
「……!」
「ああ」
川出も気づく。
「誰か来るな」
ネズミ怪人が周囲を見る。
さっきまでとは違う。
明らかに逃げようとしている。
「行け」
川出が言った。
「見つかると面倒だ」
意味が通じたかは分からない。
だが、ネズミ怪人は茂みへ走る。
その途中、一度だけ振り返った。
「アガト!」
「……おう」
川出が手を上げる。
「またな」
ネズミ怪人は少しだけ首を傾げた。
そして、茂みの奥へ消えた。
◇
川出は一人、ベンチに残った。
手を開く。
どんぐり。
いっぱい。
「……どうしよう、これ」
本当に使い道がない。
食べるわけにもいかない。
だからといって、捨てる気にもならなかった。
川出は少し考えて、どんぐりをポケットへ入れた。
「アガト、ねえ……」
思い出す。
嬉しそうに、何度もあの言葉を繰り返していた。
「……まあ」
川出は立ち上がる。
「次は、名前くらい聞けるといいんだけどな」
公園を出る。
ポケットの中で、どんぐりがころころと小さな音を立てていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




