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ビーストギア Another  作者: 戮
ミラーカメレオン編3

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 アガト?



アガト?


あれから数日が経った。


「……疲れた」


川出は小さく息を吐いた。


朝から聞き込みと確認作業。


歩いて、話を聞いて、また歩く。


成果がまったくなかったわけではない。


だが、これといって大きな進展があったわけでもなかった。


「ちょっと休むか」


帰る途中、川出は近くの公園へ入った。


見覚えのある場所だった。


「……ここか」


少し前。


パンさんの店で買った焼き菓子を置いていった公園。


名前も知らない。


何者なのかも分からない。


ただ、二度も自分を助けてくれた怪人へ。


『ありがとうな』


そう言って、焼き菓子を置いていった。


川出は何となく周囲を見る。


当然、あの時の袋はもうない。


「なくなってるな」


誰が持っていったのかは分からない。


あいつが食べたのか。


まったく関係のない誰かが持っていったのか。


それすら確認できていない。


「まあ、いいか」


川出はベンチへ座った。


途中で買ったパンと飲み物を取り出す。


今日は朝から動きっぱなしだ。


「いただきます」


袋を開け、一口かじる。


腹が減っていたせいか、それだけでいつもより美味く感じる。


もう一口。


ようやく少しだけ力が抜けた。


その時だった。


がさっ。


川出の動きが止まる。


視線だけを動かした。


公園の奥。


茂み。


何も出てこない。


風か。


そう思いながら、少し待つ。


また。


がさっ。


「……いるな」


仕事柄、こういう気配には敏感だった。


川出は立ち上がらない。


武器にも手を伸ばさない。


ただ、茂みを見る。


「いるなら出てくれば?」


返事はない。


しばらくして。


茂みから、ほんの少しだけ顔が出た。


「……お前」


ネズミ怪人。


川出は思わず笑った。


「久しぶり……ってほどでもないか」


ネズミ怪人は出てこない。


顔だけを覗かせている。


右を見る。


左を見る。


公園の入り口を見る。


また右。


また左。


「大丈夫だよ」


川出も周囲を見回した。


「今は誰もいない」


意味が通じたのかどうか。


ネズミ怪人が一歩、茂みから出た。


止まる。


また周囲を見る。


「警戒心強いな」


もう一歩。


そして、ゆっくり川出へ近づいてくる。


川出は動かない。


そこで、ネズミ怪人の片手が握られていることに気づいた。


「……何持ってんの?」


ネズミ怪人が止まる。


川出を見る。


「?」


「いや、その手」


川出が指差す。


ネズミ怪人は自分の手を見てから、川出の前まで来た。


そして、握った手を差し出す。


「……俺に?」


返事はない。


代わりに、その手が開かれた。


「…………は?」


どんぐり。


一個。


二個。


三個。


それどころではない。


手のひらいっぱいに、どんぐりが乗っている。


「……何これ」


ネズミ怪人がさらに手を前へ出す。


「いや、見ればどんぐりなのは分かるけど」


また前へ。


「俺にくれるの?」


「アガト」


「……は?」


「アガト」


川出は瞬きをした。


「何?」


「アガト!」


「アガト?」


ネズミ怪人の反応が大きくなる。


「アガト! アガト!」


「いやいや、待って。何の話?」


ネズミ怪人は嬉しそうだ。


だが、川出には何一つ分からない。


「これを俺にくれるってことでいいの?」


「アガト!」


「だから、それが分かんないんだよな……」


ネズミ怪人が、さらにどんぐりを押しつけるように差し出す。


川出は少し迷った。


だが。


「分かった。もらうよ」


手を出した。


ころころと、どんぐりが川出の手へ移る。


「……結構あるな」


何個あるのか、数える気にもならない。


でも、せっかく持ってきたものだ。


川出はどんぐりを握る。


「ありがとう」


「アガト!!」


「……ん?」


川出が止まった。


ネズミ怪人は嬉しそうに川出を見ている。


「今……」


川出は少し考える。


「ありがとう」


「アガト!」


「……」


もう一度。


「ありがとう」


「アガト!」


「……お前」


ようやく、川出の中で何かがつながった。


「もしかして」


ネズミ怪人を見る。


「お前、それ……『ありがとう』って言ってんのか?」


「アガト!」


「……マジか」


川出は思わず笑った。


「アガトって、ありがとうだったのか」


「アガト!」


「いや、惜しい。結構惜しいけど」


川出は手の中のどんぐりを見る。


そして思い出す。


数日前。


ここへ焼き菓子を置いた。


最後に。


『ありがとうな』


そう言った。


「……聞いてたのか?」


「?」


「俺がここに菓子置いてった時」


「……?」


「まあ、そこまでは分かんないか」


川出はどんぐりを一つ摘まむ。


「これも……お礼?」


「アガト!」


「そういうことか」


焼き菓子をもらった。


だから今度は、自分が何かを持ってきた。


たぶん、そういうことなのだろう。


「律儀だな、お前」


「?」


「いや。ありがとう」


「アガト!」


「うん。それ」


川出は笑った。


「でもな」


もう一度、どんぐりを見る。


「……これ、どうすりゃいいんだ」


「?」


「いや、嬉しいよ?」


ネズミ怪人が首を傾げる。


「嬉しいんだけどさ」


どんぐり。


川出は人間である。


「俺、これ食えないんだよな」


「……」


ネズミ怪人の動きが止まった。


「……」


「え」


明らかに、さっきまでと違う。


「いやいやいや!」


川出は慌てた。


「違う! いらないって意味じゃない!」


「……」


「もらう! ちゃんともらうから!」


どんぐりを握る。


「ほら!」


何を必死になっているんだ。


自分でも分からない。


「大事にするから!」


「……」


ネズミ怪人が少しだけ顔を上げる。


「アガト?」


「そうそう。アガト」


川出は言ってから止まった。


「……いや、俺までアガトになってるな」


「アガト!」


「まあいいか」


ネズミ怪人が嬉しそうなら、それでいい。


◇


川出は改めてベンチへ座った。


ネズミ怪人は、少し離れたところに立っている。


「……座る?」


「?」


川出が隣を軽く叩く。


「ここ」


ネズミ怪人がベンチを見る。


川出を見る。


またベンチ。


少し警戒しながら、端へ座った。


「……」


「……」


妙な光景だった。


刑事と、ネズミの怪人。


二人で公園のベンチに座っている。


「お前さ」


川出が言う。


「喋れたんだな」


「……シャベル?」


「違う違う」


「?」


「言葉」


自分の口を指差す。


「言葉。分かる?」


「……コトバ?」


「お」


川出が少し驚く。


「そう。言葉」


「コトバ」


「結構いけるじゃん」


少なくとも、単語を真似することはできるらしい。


「じゃあさ」


川出は自分を指差す。


「川出」


「……?」


「か・わ・で」


「……カ……ワ……」


「川出」


「カワ……」


「もうちょい」


「カワ……デ?」


「おお!」


川出が思わず声を上げた。


ネズミ怪人がびくっとする。


「あ、ごめん」


「……カワデ?」


「そう。俺、川出」


自分の胸を指差す。


「川出」


「カワデ」


「正解」


通じた。


それだけなのに、少し嬉しい。


「じゃあ」


今度はネズミ怪人を指差す。


「お前は?」


「……?」


「名前」


「ナマエ?」


「そう。名前」


川出は自分を指差す。


「川出」


そして、ネズミ怪人を指差した。


「お前の名前は?」


「……」


ネズミ怪人は自分を指差す。


「……ナマエ?」


「いや、名前って名前じゃなくて」


「ナマエ」


「違う」


「ナマエ?」


「難しいな……」


川出は頭をかいた。


まだ、会話と呼ぶには遠い。


でも、少し前までなら、こいつが言葉を話せることすら知らなかった。


「まあ、ゆっくりでいいか」


「ユックリ?」


「そこ拾うのか」


川出は笑った。


◇


遠くから声が聞こえた。


人だ。


公園へ近づいてくる。


ネズミ怪人が瞬時に立ち上がった。


「……!」


「ああ」


川出も気づく。


「誰か来るな」


ネズミ怪人が周囲を見る。


さっきまでとは違う。


明らかに逃げようとしている。


「行け」


川出が言った。


「見つかると面倒だ」


意味が通じたかは分からない。


だが、ネズミ怪人は茂みへ走る。


その途中、一度だけ振り返った。


「アガト!」


「……おう」


川出が手を上げる。


「またな」


ネズミ怪人は少しだけ首を傾げた。


そして、茂みの奥へ消えた。


◇


川出は一人、ベンチに残った。


手を開く。


どんぐり。


いっぱい。


「……どうしよう、これ」


本当に使い道がない。


食べるわけにもいかない。


だからといって、捨てる気にもならなかった。


川出は少し考えて、どんぐりをポケットへ入れた。


「アガト、ねえ……」


思い出す。


嬉しそうに、何度もあの言葉を繰り返していた。


「……まあ」


川出は立ち上がる。


「次は、名前くらい聞けるといいんだけどな」


公園を出る。


ポケットの中で、どんぐりがころころと小さな音を立てていた。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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