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ビーストギア Another  作者:
セミスピーカー編

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3/13

手がないなら、使わせてもらう!」

ANOTHER BEAST GEAR


第3話「手がないなら、使わせてもらう!」


時根脱才 作


 カバーは開いた。


 そこまでは、どうにかなった。


 怪人の攻撃でひしゃげた柵。その折れ曲がった金属部分へベルトを引っかけ、腰を捻り、身体ごと動かしてカバーをこじ開けたのだ。


 我ながら、よくやったと思う。


 少なくとも数秒前までは。


「…………」


 紀人は、自分の腰へ視線を落とした。


 開いたカバー。


 その奥に、コブラメモリーが鎮座している。


 抜けばいい。


 たった、それだけだ。


 それだけなのだが――。


「手を使わずに……どうやってメモリー抜くんだよ!」


 叫んだところで、消えてしまった両腕が生えてくるわけではない。


 当然、怪人が解決方法を教えてくれるわけでもなかった。


 むしろ怪人は地面を蹴り、一気に距離を詰めてくる。


「うおっ!」


 振り下ろされた拳を、紀人は横っ跳びでかわした。


 直後。


 背後で轟音が弾ける。


 怪人の拳をまともに受けた壁が砕け、破片がばらばらと路上へ降り注いだ。


「だからちょっとくらい考える時間くれって!」


 怪人がゆっくりと振り返る。


 言葉など通じていない。


 いや、通じていたとしても待ってくれるはずがない。


「くれないよな! 知ってた!」


 紀人は駆け出した。


 左右の肩から先がない。


 腕を振って身体のバランスを取れないため、普通に走っているだけでも重心が妙にぶれる。


 最初に比べれば慣れてきた。


 それでも、走りづらいものは走りづらい。


 しかも今は、ベルトのカバーが開いたままだ。


 転倒して地面にぶつけるなど、絶対に避けたい。


「あとメモリー抜くだけなんだぞ……!」


 そこまで来た。


 本当に、あと一歩なのだ。


「指が一本あれば済む話なんだよ!」


 その一本すら、今の紀人にはない。


     ◇


「何か……何かあるだろ!」


 怪人から逃げながら、紀人は必死に周囲を見回した。


 先ほど使った壊れた柵。


 道路へ散乱した瓦礫。


 壁。


 ひしゃげた道路標識。


 手の代わりになりそうなもの。


 メモリーへ引っかけて、そのまま引き抜ける何か。


「…………」


 紀人の視線が、再び壊れた柵へ向いた。


「いや……ダメだ」


 すぐに首を振る。


 カバーならよかった。


 大きく張り出した部分へ金属を引っかけ、身体を動かせば開けることができた。


 しかしメモリーは違う。


 ベルトへ直接差し込まれている。


 その隙間へ無理やり金属片を突っ込み、こじって引き抜く。


 もし途中で折れたら。


 あるいはメモリーだけでなく、ベルト側まで壊したら。


「…………」


 嫌な想像が頭に浮かんだ。


 腕はない。


 メモリーは壊れた。


 ベルトまで故障した。


「地獄じゃねえか!」


 即座に却下した。


 その瞬間、背後から空気を裂く音。


「くっ!」


 紀人は身体を沈めた。


 怪人の拳が頭上すれすれを通過する。


 その勢いを利用して身体を反転させる。


「おらっ!」


 怪人の膝へ蹴りを叩き込んだ。


 巨体がわずかに沈む。


 紀人は止まらない。


「もう一発!」


 軸足を返し、顎を狙って蹴り上げる。


 鈍い手応え。


 怪人が数歩後退した。


「よし!」


 腕がなくても戦える。


 最初こそ転ぶ、受け身が取れない、捕まれば何もできないと散々だったが、脚だけを使う戦闘にも少しずつ適応してきている。


 だが。


「勝つのは別問題なんだよな……!」


 拳は使えない。


 掴めない。


 腕による防御もできない。


 何より、この状態で無理に戦い続ける理由がない。


「戻れるなら、戻った方がいいに決まってる!」


 紀人は開いたベルトへ目をやった。


 そこに刺さっているコブラメモリー。


 抜く。


 ただ抜けばいい。


「抜く……抜く……」


 何かで。


 何かを使って。


 手の代わりになるもの。


「…………」


 そこで紀人の視線が、ふと怪人へ向いた。


 怪人が両腕を構えている。


 右腕。


 左腕。


 その先には。


 当然ながら、手がある。


「…………」


 紀人の足が止まった。


 怪人もまた、わずかに距離を置いて紀人を見ている。


「お前……」


 紀人の目が怪人の手へ吸い寄せられる。


「手、あるな」


 怪人は答えない。


「しかも両方」


 自分の肩を見る。


 ない。


 怪人を見る。


 ある。


 自分にはない。


 相手にはある。


「…………あるじゃん」


 紀人の口元が、ゆっくりと持ち上がった。


「手」


 思わず怪人を指差そうとして――。


「…………」


 指すための腕がない。


「くそっ! こういうときまで!」


 しかし。


 方法は見つかった。


     ◇


「よし」


 紀人は怪人へ身体を向けた。


「ちょっと協力してもらうぞ」


 返答の代わりに、怪人が地面を蹴った。


「もちろん!」


 紀人も駆ける。


「お前に協力する気がないのは知ってる!」


 正面から拳が飛んでくる。


 紀人は首を振ってかわした。


「これは違う!」


 続いて反対側。


 身体を捻る。


 拳が胸元を掠める。


「これも違う!」


 蹴りを返し、いったん距離を取った。


「問題は……」


 怪人の手を見る。


「どうやって、あいつの手をメモリーに当てるかだ」


 拳を直接ベルトへ誘導する。


 そんな真似はできない。


 怪人の一撃には壁を砕くほどの威力がある。


 そんなものをベルトに直撃させれば、メモリーを抜くどころではない。


「殴らせるんじゃない」


 必要なのは。


 手。


 できれば、指。


「……掴ませる」


 そこまで考えて。


「…………」


 紀人の顔が引きつった。


「いや、どうやって!?」


 ここを掴んでください。


 できればメモリーに指を引っかけてください。


 そんなお願いを怪人が聞いてくれるわけがない。


「そりゃそうだよ!」


 怪人が再び迫る。


 紀人は一歩後退した。


 さらに一歩。


 逃げるのではない。


 距離を測る。


 相手の腕。


 手。


 自分の腰。


 開いたカバー。


 その奥にあるメモリー。


「だったら――」


 やらせるしかない。


 紀人は足を止めた。


「来い!」


 今度は避けない。


 怪人の手が伸びる。


 拳ではない。


 紀人の身体そのものを捕まえようとしている。


「まだ……!」


 巨大な指が迫る。


 本能が逃げろと叫ぶ。


 だが紀人は動かない。


「まだ……!」


 あと少し。


 あと一歩。


「今!」


 直前で身体を捻った。


 怪人の手が紀人の胴へ回り込む。


「ぐっ!」


 強烈な圧迫感。


 捕まった。


「よし!」


 成功――。


「いや、よくねえ!」


 足が地面から離れた。


「うおおおおおっ!?」


 視界が一気に高くなる。


 怪人が紀人を持ち上げたのだ。


「違う違う! そうじゃねえ!」


 そのまま腕が動き始める。


 嫌というほど覚えがある。


「また振り回す気かよ!」


 だが。


 今回は目的が違う。


 紀人は必死に怪人の手の位置を確認した。


 胴体を掴む太い指。


 そのすぐ下。


 腰には開いたままのベルト。


「もうちょい下……!」


 腕は使えない。


 ならば、胴体そのものを動かす。


 腰を捻る。


 背中を反らす。


 怪人の手へ、ベルトの方を近づける。


「そこ……!」


 指先がカバーの縁に触れた。


「あとちょっと!」


 紀人はさらに身体を捻った。


「頼む!」


 敵に何を頼んでいるんだ、俺は。


 そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。


 当然、怪人は紀人の都合など知らない。


 暴れる紀人を押さえ込もうとして、指へ力を込める。


 その一本が滑り――。


 開いたカバーの内側へ。


「――!」


 コブラメモリーへ引っかかった。


「そこだ!」


 紀人は思い切り上体を反らした。


 怪人は紀人を掴んでいる。


 怪人の指はメモリーへ引っかかっている。


 なら。


 自分の身体を動かせば。


「抜けろぉぉぉぉぉっ!」


 腰を捻る。


 怪人の手。


 ベルト。


 コブラメモリー。


 三つに異なる方向から力がかかる。


 ぐっ。


「もうちょい!」


 確かに動いた。


 メモリーがわずかに浮いている。


「いける!」


 その瞬間。


 怪人が紀人を投げようと、大きく腕を振った。


「今だけは――!」


 足は宙に浮いている。


 踏ん張れない。


 それでも紀人は身体を捻り続けた。


「離すなよ!」


 敵に向かって、自分を離すなと叫ぶ。


 状況だけ切り取れば意味不明だった。


「うおおおおおおっ!」


 怪人の腕が振り抜かれる。


 紀人の身体が引っ張られる。


 指に引っかかったメモリーへ、最後の力が加わった。


 ――スポン。


「!」


 コブラメモリーが抜けた。


「抜けたあああああああっ!」


 やった。


 これで――。


「…………」


 紀人は一瞬だけ自分の肩を見る。


 ない。


「……そうだった!」


 抜いただけでは終わらない。


 形態変化を確定させるには、カバーを閉じなければならない。


「最後まで面倒くせええええ!」


 しかも。


 怪人に掴まれたままである。


「だったら!」


 紀人は再び腰を捻った。


 開いたカバーを怪人の手へ押し当てる。


「ついでだ! 最後まで付き合え!」


 怪人が紀人を振り払おうと腕を動かした。


 その勢い。


 怪人の手。


 そして、押し当てたカバー。


 ――カチン。


「!」


 閉じた。


 次の瞬間。


 形態変化が走る。


 肩から先。


 失われていた部分が戻っていく。


「おおおおおおっ!」


 右腕。


 左腕。


 手。


 そして、十本の指。


「戻った!」


 拳を握れる。


 指が動く。


 腕に力が入る。


 普段なら意識すらしない感覚が、今は信じられないほどありがたい。


「…………」


 ただし。


 まだ怪人に掴まれている。


 紀人と怪人の視線が合った。


「…………」


 紀人は、戻ったばかりの右手をゆっくり握り締めた。


「じゃあ――」


 拳を作る。


「まず離せ!」


 拳が怪人の顔面へ突き刺さった。


 怪人の手が緩む。


「よし!」


 紀人の身体が落下する。


「っと!」


 両手を地面につく。


 衝撃を逃がす。


 そのまま転がり、すぐに立ち上がった。


「…………」


 両手を見る。


 握る。


 開く。


 もう一度、握る。


「すげえ……」


 紀人は心の底から呟いた。


「手があると……めちゃくちゃ便利だ……!」


 今さら知った。


 当たり前すぎる事実だった。


     ◇


 怪人が立ち上がる。


 まだ戦いは終わっていない。


「さて」


 紀人はベルトへ目を落とした。


 今度は手がある。


 メモリーを自分で選べる。


 自分で差せる。


 そして、自分でカバーを操作できる。


「もう間違えねえ」


 一本取る。


「違う」


 確認して戻す。


 次。


「これも違う」


 怪人が迫ってくる。


「待て! 今確認してる!」


 待つはずがない。


「だからお前は!」


 拳をかわしながら、次のメモリーを確認する。


「……これだ!」


 見る。


 もう一度見る。


「間違いないな?」


 確認。


 さらにスロットも確認。


「よし!」


 差し込む。


 そして。


 カバーを閉じる。


 形態変化。


 紀人は真っ先に右腕を見た。


「ある!」


 左腕。


「ある!」


 両手を握る。


「ある!」


 そこまで確認して、ようやく怪人へ顔を向けた。


「よし!」


 構える。


「今度こそ戦える!」


 怪人が突進してくる。


 紀人も地面を蹴った。


 拳。


 回避。


 蹴り。


 身体を返す。


 そして、もう一度拳。


「おらぁっ!」


 打撃が怪人を捉えた。


 巨体が大きく吹き飛んだ。


     ◇


 戦いが終わった。


 静けさを取り戻した場所で、紀人はその場へへたり込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 疲れた。


 全身が重い。


 だが、怪人と戦った疲労だけではない。


 今日の戦いは、別の意味で精神を削られすぎた。


「…………」


 紀人は両手を持ち上げた。


 十本の指。


 曲げる。


 伸ばす。


 握る。


 開く。


「……ある」


 当たり前なのに。


 妙に嬉しかった。


「もう二度と……」


 ベルトへ目を落とす。


「確認しないでメモリー入れねえ」


 心の底から誓った。


 メモリーには、それぞれ対応する生物の特徴がある。


 そして、その特徴は装着した部位へ反映される。


 だからこそ。


 どのメモリーを。


 どの部位へ入れるのか。


 ちゃんと考えなければならない。


「コブラに腕はない……」


 紀人は遠い目をした。


「なんで入れる前に気づかなかったんだ、俺……」


 沈黙。


 数秒後。


「…………待てよ」


 紀人の視線が、手元のメモリーへ落ちる。


「じゃあ逆に……」


 思考が動き始める。


「腕がある生き物なら――」


 そこで。


 紀人は勢いよく首を振った。


「やめろ」


 自分自身へ言い聞かせる。


「今日はもう何も試すな」


 メモリーをしまった。


「絶対ろくなことにならねえ」


 立ち上がる。


 歩き始める。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「…………」


 紀人は足を止めた。


 振り返る。


 怪人と戦った場所。


 壊れた壁。


 ひしゃげた柵。


 散乱する瓦礫。


 そして。


 自分の両腕。


「…………」


 深く。


 本当に深く。


 ため息をついた。


「腕って……大事だな」


 その日。


 紀人は怪人との戦いで、また一つ大切なことを学んだ。


 メモリーは、ちゃんと確認してから入れよう。


 そして。


 コブラに腕はない。


 ――当たり前である。


     ◇


後書き


「手がないなら、敵の手を使えばいい」。


というわけで、「腕がない!?」編、これにて完結です。


第1話では、紀人が腕のスロットへコブラメモリーを入れてしまったことで、まさかの両腕消失。


第2話では、腕のない身体でどうにか戦いながらベルトのカバーを開けることには成功。


ところが、今度はメモリーを抜くための手がない。


そして第3話。


紀人が最後に利用したのは、よりにもよって戦っている怪人の手でした。


敵に自分を掴ませ、その手と戦闘中の動きを利用してメモリーを抜く。


さらに、メモリーを抜いただけでは形態変化は完了しないため、最後はカバーを閉じるところまで怪人に「協力」してもらいました。


もちろん怪人本人に協力しているつもりはありません。


そして紀人が今回得た最大の教訓。


メモリーは、ちゃんと確認してから入れよう。


コブラに腕はありません。


当たり前です。


でも、戦闘中に焦っていると、その当たり前を忘れることもある。


……たぶん。


これにて、ANOTHER BEAST GEAR「腕がない!?」編、完結です。


【ANOTHER BEAST GEAR】


本作は『ビーストギア』本編の設定をもとに、「もし、あのとき別の選択・結果になっていたら」を描くIFストーリーです。


本編とは異なる世界線の物語であり、本編の出来事そのものを変更するものではありません。


また、ANOTHERであっても、本編で確定している世界観・能力・ビーストギアおよびメモリーの基本設定は共通しています。


【人間×生成AIによる合作作品】


企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才


文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)


本作品の世界観、キャラクター、基本設定は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

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