みんな見ていた
第三話 みんな見ていた
「……ここからか」
画面の中で、キッドとサクラが同時に構えを変えた。
ついさっきまで殴り合っていた二人が、今度は並んで白蟻を見る。
コメント欄も、すぐに反応した。
『共闘!?』
『さっきまで戦ってたよな?』
『敵の敵は味方ってやつ?』
『サクラ(仮)普通にキッドの横いるんだけどw』
「サクラだからな」
反射的に返して。
紀人は少し黙った。
あの時は。
それが妙に自然だった。
サクラが隣にいる。
なら、一緒に戦う。
怪人だからどうとか。
敵だったからどうとか。
そんなことを考える暇もなかった。
昔。
同じ道場で並んで稽古していた時みたいに。
「…………」
画面の中で、白蟻が一斉に動いた。
◇
キッドが地面を蹴る。
ノミの力で一気に距離を詰め、一体を蹴り飛ばす。
サクラも翼を広げて上空へ。
急降下から白蟻へ一撃。
『サクラ(仮)飛んだ!』
『やっぱ羽飾りじゃなかったのか』
『キッドより便利そう』
「おい」
『キッドも飛べよ』
「飛べるわ!」
言い返してから。
「……いや、この時は飛んでねえけど」
一人で訂正する。
いつもの調子だった。
でも。
次の瞬間。
映像の端に、別の人影が入った。
「あ」
紀人が少し身を乗り出す。
CASH。
あの日。
紀人自身は白蟻とサクラばかり見ていた。
だから。
彼らが具体的にどう戦っていたのか、ほとんど知らない。
『なんか来た!』
『警察?』
『警察にしては装備おかしくない?』
『何あの人たち』
画面の中。
人間側の部隊が白蟻へ向かっていく。
装備は。
見事なくらい統一感がない。
『待って』
『武器バラバラすぎない?』
『何このパーティー』
『RPGじゃねえかw』
「…………」
紀人は思わず画面を止めた。
改めて見る。
「……ほんとだ」
そして再生。
◇
白蟻が襲いかかる。
CASHの面々が、それぞれの方法で迎え撃つ。
『いや個性えぐいって』
『統一する気ゼロ』
『でも普通に戦えてるぞ』
『ついに人間側も来たか』
『キッド以外でも怪人と戦えるんだな』
「…………」
紀人の表情が少し変わった。
あの日。
自分は。
サクラと戦って。
白蟻と戦って。
黒い奴と戦った。
それだけで精一杯だった。
だから。
「あいつら……」
画面を見る。
「こんなことしてたのか」
知っている顔がいる。
東。
北山。
ほかの連中も。
自分が見ていない場所で。
自分たちなりに。
怪人と戦っていた。
「…………」
少なくとも。
何もせず見ていたわけではない。
『頑張れRPGパーティー!』
「その名前で定着させんなよ」
紀人は思わず突っ込んだ。
◇
白蟻が次々と倒れていく。
そして。
最後の一体。
戦場が静かになる。
『終わった?』
『サクラ(仮)どうすんの?』
『そういや元々こいつと戦ってたんだった』
『忘れてた』
「忘れんな」
画面の中。
キッドとサクラが向き合う。
紀人の顔から、少しずつ笑みが消えた。
「…………」
ここから。
サクラは全部使った。
翼。
毒針。
怪人になって手に入れた力。
そして自分も。
メモリーの力を使った。
ノミ。
カンガルー。
ヒクイドリ。
『第二ラウンド!?』
『まだやるのかよ!』
『今度は能力あり?』
『さっきよりヤバそう』
「……そうだよ」
紀人が小さく答える。
「ここから本気だった」
◇
サクラが飛ぶ。
キッドが跳ぶ。
空中と地上。
互いの攻撃が交差する。
『サクラ(仮)速っ!』
『キッドもおかしい』
『カンガルーってそんな強いの?』
『カンガルーの腕力普通にヤバいぞ』
『足ばっか注目されるけど上半身も強い』
『人間なんか普通に吹っ飛ばされる』
「へえ」
紀人が自分の腕を見る。
「……そんな強いのか」
少し考えて。
「いや、使ってる俺が知らないのおかしいだろ」
また画面へ突っ込む。
それでも。
視線は次第にコメントではなく。
サクラへ向いていった。
あの時の自分は。
目の前の攻撃を読むだけで精一杯だった。
でも。
映像なら。
違う。
サクラが飛ぶ前。
地面を蹴る瞬間。
攻撃をかわしたあと。
ほんの一瞬。
カメラが表情を捉えている。
「…………」
楽しそうだ。
やっぱり。
本当に。
「……馬鹿」
紀人は小さく呟いた。
「そんな楽しそうにやることかよ」
でも。
自分も同じだった。
◇
戦いが進む。
互いに決定打が入らない。
そして。
画面の中のキッドが構えた。
『これ決まる?』
『サクラ(仮)も来るぞ』
『どっちだ』
紀人の身体が僅かに強張った。
知っている。
この先を。
「…………」
二人が同時に踏み込む。
サクラの拳。
キッドがかわす。
そして。
カンガルーの力を乗せた拳が。
サクラへ向かう。
『あ』
『これ入る』
『避けろ!』
サクラは。
避けない。
「…………」
紀人は画面を止めた。
◇
静かになった。
紀人は、止まった映像を見る。
サクラの顔。
「…………」
あの時。
自分は。
直前まで気づかなかった。
でも。
こうして見ると。
「最初から……」
サクラは。
避ける気がない。
攻撃を受けると決めている。
その顔だった。
「…………」
再生。
キッドが気づく。
拳を止める。
寸前。
『止めた!?』
『今の何?』
『サクラ(仮)避けなかったよな?』
『わざと?』
『え?』
『どういうこと?』
コメント欄が一気に流れる。
紀人は何も返さなかった。
画面の中。
自分がサクラへ怒鳴っている。
何で避けなかった。
何を考えている。
そして。
サクラが。
話し始める。
◇
怪人になったこと。
戻れるか分からないこと。
このまま自分ではなくなっていくかもしれないこと。
誰かを傷つけるかもしれないこと。
だから。
その前に。
紀人に止めてほしかったこと。
コメント欄から。
さっきまでの軽さが消えていった。
『え』
『元人間なの?』
『マジ?』
『怪人って人間なの?』
『これどういうこと?』
「…………」
紀人は唇を噛む。
今。
自分がずっと考えていることを。
画面の向こうの人間たちも。
あの瞬間に考えていた。
『じゃあ今までの怪人は?』
「…………」
紀人の目が止まる。
そのコメント。
自分と同じだ。
「……やっぱそう思うよな」
小さく呟く。
答えは。
誰にも分からない。
◇
映像の中。
キッドが手を差し出す。
助けられるかもしれない。
戻す方法があるかもしれない。
だから。
一緒に来い。
サクラが、その手を見る。
『行け』
『手取れ!』
『サクラ(仮)行け!』
『助かるかもしれないんだろ』
『キッド頼む』
『生きろ』
「…………」
紀人の目が、コメント欄へ移った。
一つ。
また一つ。
流れていく。
『サクラ(仮)助かってくれ』
『頼むから手取って』
『怪人でもいいだろ』
『まだ本人なんだろ?』
『だったら助けろ』
「…………」
紀人は何も言えなくなった。
あの時。
自分は必死だった。
サクラを助けられるかもしれない。
それしか考えていなかった。
でも。
画面の向こうでも。
知らない誰かが。
同じことを思っていた。
「お前ら……」
サクラの名前も知らない。
だから。
勝手に「サクラ(仮)」なんて呼んでいる。
紀人との関係だって知らない。
何が起きたのかも。
全部は分かっていない。
それでも。
『手取れ!』
『生きろ!』
『頼む!』
次々と流れる。
「…………」
紀人は画面を見つめた。
サクラが。
ゆっくり手を伸ばす。
キッドも。
手を伸ばす。
あと少し。
ほんの少し。
『いけ!』
『もうちょい!』
『取れ!』
『サクラ(仮)!』
「…………」
紀人も。
あの日と同じように。
無意識に自分の手を伸ばしていた。
画面へ。
「……取れ」
もう結果は知っている。
それでも。
「取れよ……」
指先が。
届きそうになる。
その瞬間。
黒い影が。
画面へ飛び込んだ。
「――っ!」
サクラの身体が吹き飛ぶ。
『は?』
『え』
『何!?』
『誰だよこいつ!』
『サクラ(仮)!!』
『おい!!』
『ふざけんな!!』
コメント欄が。
一気に埋まっていく。
「…………」
紀人は。
画面へ伸ばしていた手を。
ゆっくり下ろした。
分かっていた。
こうなることは。
全部。
知っていた。
それでも。
「……くそ」
あの日と同じ言葉が。
口から漏れた。
画面の中では。
黒い存在が。
ゆっくりと。
キッドの前へ立っていた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




