サクラ(仮)
第二話 サクラ(仮)
再生された映像の中に、数日前の自分がいた。
「…………」
紀人は何となく居心地が悪くなり、ベッドの上で座り直した。
自分の戦いを見ること自体は、もう珍しくない。
配信が終わればアーカイブを見返す。
コメント欄を開いて、好き勝手なことを書いている連中に一人で突っ込む。
いつものことだ。
それでも。
今回は、やっぱり違う。
画面の中。
キッドの正面には、蝶のような翼を持つ怪人が立っている。
サクラだ。
「…………」
一瞬、再生を止めようかと思った。
だが。
「見るって決めたんだろ」
自分に言い聞かせ、そのまま再生を続ける。
映像の中で。
二人が構えた。
◇
『何これ?』
『新しい怪人?』
『女っぽくない?』
『羽すげえ』
『蝶? 蜂?』
『キッドと一対一?』
コメントが次々と流れていく。
「好き勝手言ってんな……」
紀人が呟く。
こうしてコメントへ突っ込んでいると、少しだけいつもの調子が戻ってくる。
画面の中では、キッドとサクラが互いに間合いを測っていた。
『あれ?』
『なんか変じゃね?』
『何が?』
『こいつら構え似てない?』
「……お?」
紀人も改めて画面を見る。
言われてみれば、確かに似ている。
同じ道場で。
同じ師匠に習ってきた。
当然といえば当然だった。
『絶対なんかあるだろ』
『キッドの知り合い説』
『怪人と知り合いってなんだよw』
『元同門じゃね?』
「…………」
紀人の眉が動いた。
「お前ら、妙なところ鋭いな」
適当に書いているだけなのか。
本当に二人の動きを見て気づいたのか。
分からない。
でも。
当たっている。
「ネット怖え……」
思わず呟いた。
◇
サクラが踏み込む。
拳。
キッドがかわす。
すぐに反撃。
サクラが受ける。
蹴り。
防御。
距離を取る。
また踏み込む。
『うまっ』
『この怪人普通に格闘技やってる?』
『キッドと戦い方似てるな』
『空手?』
「……正解」
紀人が答える。
『怪人の方も空手経験者?』
「経験者どころか……」
そこで言葉が止まった。
画面の中のサクラを見る。
知っている動きだった。
何度も見てきた。
道場で。
試合で。
組手で。
昔からずっと。
「…………」
紀人は少しだけ動画を戻した。
もう一度、再生。
サクラが攻撃をかわす。
踏み込む。
拳を出す。
その一瞬。
顔が映る。
「……笑ってんじゃん」
紀人は初めて気づいた。
戦っている最中は、そんなところまで見ていなかった。
いや。
見ていたのかもしれない。
でも、覚えていなかった。
サクラは笑っている。
楽しそうに。
「お前……」
紀人は画面を見つめた。
「こんな顔してたのか」
◇
『なんかこの怪人楽しそうじゃね?』
「…………」
コメント欄にも、同じことに気づいた人間がいた。
『分かる』
『キッドも楽しそう』
「俺も?」
紀人は今度は自分を見る。
画面の中。
攻撃をかわし。
拳を返し。
サクラと距離を取るキッド。
『笑ってね?』
『笑ってるな』
『何で怪人との戦闘で楽しそうなんだよw』
「いや……」
否定しようとして。
やめた。
確かに。
楽しんでいた。
久しぶりだった。
サクラと、あんなふうに本気で戦ったのは。
高校に入ってから差が開いた。
昔のような、どちらが勝つか分からない勝負は少なくなった。
それでも、あの日は。
怪人になったサクラと。
昔みたいに。
真正面から拳を交えた。
「…………」
紀人は少しだけ目を伏せた。
サクラは、自分に止めてもらうために来た。
それはもう知っている。
でも。
それだけではなかった。
「……楽しかったんだな」
サクラも。
自分も。
あの勝負を。
それだけは。
嘘じゃなかった。
◇
コメントは流れ続ける。
『こいつ名前ないの?』
『怪人の?』
『呼びづらい』
『蝶女』
『蜂女じゃね?』
『蟻っぽい部分もない?』
『全部入ってるだろ』
「好きに分析すんな」
『じゃあ名前つけようぜ』
「やめろ」
紀人が即座に反応する。
嫌な予感しかしない。
『キッドの知り合いっぽいし』
『サクラとかどうよ』
「…………は?」
紀人が固まった。
『なんでサクラw』
『なんとなく』
『見た目和風っぽいから?』
『じゃあサクラ(仮)』
『サクラ(仮)で』
『サクラ(仮)』
『サクラ(仮)強くね?』
「ちょっと待て」
紀人は思わず画面へ顔を近づけた。
「何でサクラなんだよ!」
偶然。
ただの偶然だ。
コメントを書いた人間が、本名を知っているはずがない。
分かっている。
分かっているが。
「怖えよ!」
思わず声が大きくなる。
「しかも仮って何だよ! 本名だよ!」
誰も聞いていないのに。
いつものように画面へ突っ込んでいた。
気づけば。
さっきまで張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩んでいた。
◇
『しかし何で戦ってんだ?』
『怪人だからだろ』
『いやキッド側がちょっと変』
『最初から知り合いみたいな空気あるよな』
『呼び出された?』
『怪人から?』
『果たし状とかw』
「…………」
紀人が止まった。
『ありそう』
『一騎打ちしろ的な?』
『果たし状で呼び出されたキッド』
『昭和かよ』
「……なんで当ててんだよ」
今度は、本気で少し怖かった。
「お前ら何なんだよ……」
もちろん。
大量のコメントの中の一つにすぎない。
適当に書いた予想が、偶然当たっただけだ。
それでも。
「果たし状まで当てる?」
紀人は呆れながら画面を見る。
そして。
自分が少し笑っていることに気づいた。
◇
動画は進んでいく。
サクラとキッドの攻防。
流れ続けるコメント。
茶化すもの。
真面目に分析するもの。
意味の分からないもの。
いつもの配信だった。
でも。
紀人にとっては。
もう、いつもの怪人戦ではない。
『サクラ(仮)がんばれ』
「だから仮じゃねえって」
『キッド負けんな』
「負けねえよ」
『どっち応援すればいいんだこれ』
「俺だろ」
反射的に返して。
少し考える。
「……いや」
画面の中のサクラを見る。
「まあ、好きな方でいいけど」
二人が、またぶつかる。
拳。
蹴り。
受ける。
かわす。
そして、また距離を取る。
楽しそうに。
本当に。
昔の組手みたいに。
「…………」
紀人は、さっきより少しだけ楽に画面を見られるようになっていた。
見たくなかったはずなのに。
少なくとも。
ここまでは。
見てよかった。
そう思えた。
その時だった。
画面の端で。
白い何かが動いた。
「……あ」
紀人には分かった。
次に何が起きるのか。
一体。
また一体。
白い蟻の怪人たちが、二人の戦場へ入り込んでくる。
『え?』
『なんか来た』
『白蟻?』
『またこいつらかよ!』
『空気読めwww』
『今いいとこだっただろ!』
『一騎打ち邪魔すんな!』
「…………」
紀人も。
思わず同じことを言った。
「ほんとだよ」
画面の中。
キッドとサクラが、ほとんど同時に白蟻の方を見る。
そして。
さっきまで戦っていた二人が。
同時に構えを変えた。
「……ここからか」
紀人の表情から。
さっきまで浮かんでいた僅かな笑みが消えた。
それでも。
今度は。
画面から目を逸らさなかった。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




