第一話 みたくない
第一話 見たくない
いつもなら、とっくに見ていた。
配信が終われば、なんだかんだでアーカイブを開く。
自分がどんな戦い方をしていたのかを確かめることもある。
それ以上に。
「誰がそんなこと言ったんだよ」
「勝手に名前つけんな!」
「いや、そこ違うから!」
画面の向こうから好き勝手に流れてくるコメントへ、一人で突っ込む。
見るのをやめようと思ったこともある。
でも、結局は気になる。
何を書かれているのか。
自分の戦いが、どう見えていたのか。
だからセミスピーカーの時も。
モズキャッチャーの時も。
紀人は結局、最後まで見た。
けれど。
今回だけは。
「…………」
スマートフォンの画面に表示されたサムネイルを見つめる。
キッド。
その向かいに立つ、蝶のような翼を持つ怪人。
サクラ。
今の姿だけを見て、あれがサクラだと分かる人間がどれだけいるだろう。
「……見たくねえ」
紀人は画面を伏せた。
◇
あの事件から、数日が経っていた。
黒い奴との戦いが終わったあと。
紀人はすぐに、サクラのもとへ駆け寄ろうとした。
けれど。
いなかった。
さっきまで、確かにそこにいた。
黒い奴に吹き飛ばされ、地面に倒れていた。
なのに。
戦いが終わった時には、サクラの姿は消えていた。
謎のヒーローも。
同じように姿を消していた。
「…………」
生きているのか。
死んだのか。
誰かに連れていかれたのか。
助けられたのか。
何も分からない。
「どこ行ったんだよ……」
答えは返ってこない。
当たり前だ。
それでも、あの日から何度も同じことを考えていた。
あの時。
もう少し早く動けていたら。
手を取れていたら。
黒い奴に吹き飛ばされる前に、何かできていたら。
「…………」
考えても意味はない。
分かっている。
それでも、考えてしまう。
◇
そして。
サクラのことがあったからこそ、紀人の中にはもう一つ、消えない疑問が残った。
怪人。
今まで紀人にとって、怪人は怪人だった。
人を襲う。
暴れる。
だから倒す。
それだけだった。
少なくとも、そう思っていた。
でも。
サクラは違った。
怪人の姿をしていた。
翼があった。
毒針もあった。
人間とは比べものにならない力を持っていた。
それでも。
中にいたのは、サクラだった。
自分の名前を覚えていた。
家族のことも。
道場のことも。
紀人のことも。
空手も。
全部覚えていた。
いつものように腹を立て。
いつものように勝負を挑んできた。
そして。
サクラは元々、人間だった。
「…………」
紀人は自分の右手を見る。
「じゃあ……」
何度目か分からない。
それでも、また口から出る。
「今までの奴らは?」
白蟻。
これまで戦ってきた怪人たち。
あいつらは、最初から怪人だったのか。
それとも。
サクラと同じように。
元は人間だったのか。
「……分かんねえ」
答えはない。
けれど。
もう以前のように、
『怪人だから倒す』
それだけで済ませることはできなくなっていた。
◇
紀人は、もう一度スマートフォンを手に取った。
アーカイブのページを開く。
サムネイル。
キッド。
サクラ。
コメント数も、かなり増えている。
「…………」
いつもなら。
まずコメント欄を見て、
「何書かれてんだよ」
とでも言いながら、そのまま再生する。
でも。
今回は指が動かない。
見れば、またあの戦いを見ることになる。
サクラとの一騎打ち。
毒針。
自分の拳。
サクラが、わざと攻撃を受けようとした瞬間。
そして。
紀人が寸前で拳を止めたところ。
そこまでも、見たいわけではない。
だが。
その後。
二人が手を伸ばした。
もう少しで届くところだった。
そこへ。
黒い奴が現れた。
「…………」
紀人は画面を閉じた。
「無理」
短く呟く。
「今回は無理」
それだけではない。
さらに先。
怒りに任せて戦った自分。
メモリーの力に飲まれかけ、怪人のような姿になった自分。
あの時は、自分がどんな姿をしていたのか、ほとんど分かっていなかった。
ジンが何か叫んでいた。
北山の声が聞こえた。
そして気づけば、元の姿へ戻っていた。
「……あれも映ってんだよな」
見たいわけがない。
自分自身が怪人になるかもしれない。
その可能性を。
わざわざ画面越しに突きつけられたいはずがなかった。
◇
紀人は別のことをしようとした。
宿題を開く。
数分で閉じる。
漫画を読む。
三ページで内容が頭に入らなくなる。
テレビをつける。
うるさく感じて消す。
「…………」
結局。
目はスマートフォンへ向く。
「だから見ねえって……」
自分に言う。
それでも、気になる。
いつもと同じだった。
見るのをやめようと思っても。
結局、気になってしまう。
ただ。
今回は、気になる理由がいつもとは違った。
「…………」
あの時。
自分は何を見ていた。
目の前のサクラ。
白蟻。
黒い奴。
戦う相手ばかり見ていた。
CASHの連中が何をしていたのか。
周囲で何が起きていたのか。
謎のヒーローが、いつ、どこにいたのか。
そして。
自分から見えていない時。
サクラがどんな顔をしていたのか。
ほとんど知らない。
「…………」
紀人は再びスマートフォンを手に取った。
今度は、すぐには閉じなかった。
画面には大量のコメントが並んでいる。
「……こいつら」
セミスピーカーの時も。
モズキャッチャーの時も。
好き勝手なことを書いていた。
そのたび紀人は、
「違うから!」
「誰がそんな名前つけた!」
と突っ込んできた。
今回も。
きっと同じように、好き勝手なことを書いている。
でも。
「あの時……こいつらは何見てたんだ?」
自分が戦っている間。
画面の向こう側では、何が見えていた。
「…………」
サムネイルのサクラを見る。
もしかしたら。
自分が見落としていた何かが、映っているかもしれない。
サクラが消えた理由まで分かるとは思わない。
怪人の正体だって、この動画一本で答えが出るわけがない。
でも。
「あの時、俺が見えてなかったものがあるんじゃないか」
それだけは。
確かめたかった。
紀人は再生ボタンへ指を置く。
また、ほんの一瞬だけ迷った。
「……今回だけは」
小さく呟く。
「本当に見たくねえんだけどな」
それでも。
結局。
気になるものは、気になってしまう。
「……一回だけ」
誰に言い訳しているのか。
自分でも分からない。
紀人は小さく息を吐き。
再生ボタンを押した。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




