第一話 間に合わなかった
第一話 間に合わなかった
白蟻の最後の一体が地面へ崩れ落ちた。
「……終わったか」
キッドが短く息を吐く。
頭にはヒクイドリ。
腕にはカンガルー。
脚にはノミ。
少し離れた場所では、サクラが大きな翼をたたみながら地面へ降り立った。
ようやく終わった。
そう思ったのも束の間だった。
「キッド」
「ん?」
サクラが拳を構える。
「もう全部さらした」
その姿を見ただけで、キッドには意味が分かった。
「今度は全力でいく」
「……まだやるのかよ」
「当たり前でしょ」
そもそも二人は、白蟻が乱入するまで戦っていたのだ。
途中で共闘したからといって、勝負が終わったわけではない。
「そっちこそ、逃げる?」
「誰が」
キッドが少しだけ笑った。
そのまま拳を構える。
「いいよ。受けてやる」
「そうこなくちゃ」
サクラの背中で翼が大きく開いた。
◇
先に動いたのは咲子だった。
一気に上空へ舞い上がる。
「またそれか!」
「もう隠す必要ないからね!」
空中で身体を翻し、そのまま急降下。
キッドが横へ跳ぶ。
直後、サクラの拳がさっきまでキッドのいた場所を貫いた。
「危なっ!」
ただの拳ではない。
その一撃には毒針がある。
白蟻へ使ったところを、キッドも見ていた。
「お前、殺す気か!」
「そもそも真剣勝負でしょ!」
「……あ」
一瞬だけ考えて。
「そりゃそうか」
「納得するな!」
「お前が言ったんだろ!」
サクラが再び飛ぶ。
キッドも地面を蹴った。
ノミの脚力で、一瞬にして距離を詰める。
「っ!」
サクラが翼を大きく動かし、横へ逃れる。
そこへカンガルーの拳。
サクラが腕で受け流す。
「重っ……!」
「まだいくぞ!」
「望むところ!」
拳。
蹴り。
翼。
跳躍。
互いの攻撃が、わずかな差ですれ違っていく。
最初の一騎打ちとはまるで違った。
あの時、二人は空手だけで戦っていた。
だが今は違う。
サクラは翼も毒針も隠さない。
キッドもメモリーの力を惜しまない。
「はっ!」
「おっと!」
サクラの蹴りをキッドがかわす。
返した拳を、サクラが首を傾けて避ける。
二人は同時に距離を取った。
「……やるじゃん」
「そっちこそ」
サクラが笑っている。
キッドにも分かった。
楽しんでいる。
たぶん。
自分も同じ顔をしている。
「やっぱお前、すげえ力隠してたんだな」
「手の内は隠しておくものでしょ」
「そういうもんか?」
「そういうものよ」
サクラが再び構える。
「でも、もう全部見せた」
「ああ」
「だから今度は、本当に全力」
キッドも拳を上げた。
「来いよ」
◇
そこからは、一瞬たりとも気が抜けなかった。
サクラの拳をかわす。
毒針が頬のすぐ横を通過する。
キッドがカンガルーの拳を返す。
サクラは翼を使って後方へ逃れる。
追う。
かわす。
また追う。
一撃。
どちらかがまともにもらえば、それで終わる。
そんなことを考える余裕さえ、次第になくなっていった。
見る。
読む。
動く。
打つ。
避ける。
それだけ。
「はぁっ!」
サクラが上空から突っ込んでくる。
キッドは寸前で身体をずらした。
毒針が空を切る。
すれ違いざまに拳を返す。
サクラが翼を使い、無理やり軌道を変えた。
「っぶな!」
「今のは惜しかった!」
「嬉しそうに言うな!」
「あんたも笑ってるでしょ!」
「うるせえ!」
もう一度。
二人がぶつかる。
それでも決まらない。
何度目かの攻防のあと、二人はほとんど同時に距離を取った。
「……はぁ」
キッドが息を吐く。
サクラも肩を上下させている。
「キリないな」
「そうね」
「じゃあ」
キッドが拳を構え直した。
「次で決めるか」
サクラは一瞬だけ黙った。
「…………」
「どうした?」
「何でもない」
サクラも構える。
「望むところよ」
その声が。
なぜか妙に穏やかに聞こえた。
◇
静かになった。
二人とも動かない。
キッドはサクラを見る。
サクラも、こちらを見ている。
何度も見てきた構えだった。
道場で。
昔から。
何度も何度も。
ただ今は。
サクラは怪人で。
自分はキッドで。
「…………」
そんなことは関係ない。
今は勝負だ。
呼吸。
足。
肩。
視線。
相手のすべてを見る。
先に動いた方が負ける。
そう思った瞬間。
サクラの身体が沈んだ。
「――!」
同時に、キッドも地面を蹴る。
ノミの力で、一瞬にして距離が消えた。
サクラも真正面から踏み込んでくる。
翼は使わない。
「はああっ!」
「おおおっ!」
二人の拳が走る。
キッドはサクラの攻撃を紙一重で外した。
身体を入れ替える。
右拳を引く。
カンガルーの力を乗せる。
これで。
決める。
サクラの胸元へ向けて。
拳を放った。
その瞬間だった。
「…………え?」
何かがおかしい。
サクラが。
避けない。
いや。
避けられないんじゃない。
避けようとしていない。
「――っ!」
キッドの目が見開かれる。
サクラと目が合った。
そこには焦りも、恐怖もなかった。
むしろ。
ほんの少しだけ。
笑ったように見えた。
「お前――!」
止める。
止めなければ。
全身へ命令する。
腕を引け。
力を抜け。
止まれ。
「やめ――」
遅かった。
鈍い衝撃が、拳から腕へ突き抜けた。
「――っ!」
サクラの身体が浮く。
そのまま大きく後方へ吹き飛んだ。
「…………」
キッドは拳を突き出した姿勢のまま、動けなかった。
一瞬。
何が起きたのか理解できない。
「……え?」
サクラが地面へ落ちる。
動かない。
「…………おい」
自分の拳を見る。
今。
何を。
「おい……」
ようやく足が動いた。
「サクラ!」
駆け出す。
「おい、サクラ!」
返事はない。
そこでようやく。
キッドは気づいた。
サクラは避けられなかったんじゃない。
あいつは。
最初から――。
「……わざと?」
自分の声が。
ひどく遠く聞こえた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




