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ビーストギア Another  作者: 戮
アリア編1

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第五話 果たし状

第五話 果たし状


「もし、私がこのまま怪人になっていくなら……」


 その先を口にできないまま、咲子は画面の中のキッドを見つめていた。


 怪人へ向かっていく姿。


 拳の出し方。


 間合いの詰め方。


 何度見ても、紀人だった。


「…………」


 サクラは動画を止める。


 静かになった廃屋に、自分の呼吸だけが残った。


 今はまだ大丈夫だ。


 自分の名前を覚えている。


 父親も、母親も分かる。


 道場の場所も覚えている。


 紀人の腹立たしい顔だって、嫌になるくらい鮮明に思い出せる。


 でも。


 明日も同じだという保証は、どこにもなかった。


 サクラは異形になった自分の手を見る。


 少し触れただけで木を傷つけた。


 軽く小突いただけで石を割った。


 もし、これで人を殴ったら。


「……駄目」


 考えたくない。


 けれど、考えなければならなかった。


 今はまだ、人を傷つけたくないと思える。


 だから隠れている。


 自分を見て逃げた男も追わなかった。


 落とした物を使うことにだって罪悪感がある。


 それなら、まだ。


 自分は自分だ。


 人間だった頃のサクラが、ちゃんと残っている。


 でも。


 それまで失ったら?


「怪人って……」


 キッドの動画に映っていた怪人たちを思い出す。


 人を襲うもの。


 暴れるもの。


 迷わずキッドへ襲いかかっていくもの。


 以前なら、ただの悪役として見ていた。


 今は違う。


 もし、あれも。


 最初からああだったわけではないとしたら。


 自分と同じように人間だった時があって。


 少しずつ何かを失って。


 最後には――。


「…………」


 サクラは首を振った。


 分からないことを考えても仕方がない。


 今、分かっているのは自分のことだけ。


 昨日まで人間だった身体が、今はもう違うものになっている。


 その事実だけだった。


     ◇


「元に戻れるなら……」


 戻りたい。


 今すぐにでも。


 家へ帰りたい。


 道場へ行きたい。


 もう一度、空手着を着たい。


 紀人と組手をして。


 今度こそ一本取って。


「見たか!」


 そう言ってやりたい。


 その時の紀人の顔を想像して、ほんの少しだけ胸が軽くなる。


 だが、すぐに池の水面に映った自分の姿が浮かんだ。


「……戻れるの?」


 答えはない。


 スマホでいくら調べても、出てくるのは特撮や創作の話ばかり。


 病院へ行く勇気もない。


 警察へこの姿をさらすこともできない。


 誰が自分をこんな身体にしたのかすら分からない。


 元に戻る方法どころか、戻れるものなのかさえ分からない。


 なら。


 もし、戻れなかったら。


「…………」


 サクラはスマホの画面をつけた。


 停止したままのキッドが映っている。


 紀人。


 怪人と真正面から戦っている。


「もし私が……」


 自分では止まれなくなったら。


 誰かを襲うようになったら。


 家族のことさえ分からなくなったら。


 その時は。


 誰かに止めてもらわなければならない。


 でも。


 誰でもいいとは思えなかった。


「……あんたなら」


 自分を女だからと手加減しなかった。


 女だから無理だとも言わなかった。


 サクラが勝とうとすれば、当たり前のように自分も勝つつもりで向かってきた。


 昔から。


 ずっと。


 紀人だけは、真正面からサクラを見ていた。


 なら。


 最後まで。


「……私を、ちゃんと見てくれるよね」


 怪人だから。


 かわいそうだから。


 女だから。


 そんな理由ではなく。


 一人の相手として。


 サクラとして。


「止めるなら……」


 声が震えた。


「紀人がいい」


 口にすると、不思議なくらい迷いが消えた。


 最後に戦うなら、紀人がいい。


 そして。


 自分が自分でなくなる前に、紀人に止めてほしい。


「…………」


 正しいとは思わない。


 紀人にそんな役目を背負わせていいはずもない。


 それでも。


 他の誰かでは駄目だった。


「ごめん」


 画面の中の紀人へ、小さく謝る。


「でも……お願い」


     ◇


 サクラは、男が落としていったメモ帳を手に取った。


 ボールペンのキャップを外し、少し考える。


 そして一番上に書いた。


『果たし状』


「…………」


 自分で書いておいて、眉をひそめる。


「古いかな……」


 けれど、ほかにしっくりくる言葉もなかった。


 決闘。


 挑戦状。


 呼び出し。


 どれも少し違う。


 これは紀人と戦うためのもの。


 そして、もしかしたら。


 本当に最後になる。


「……果たし状でいいか」


 サクラは続きを書いた。


 キッドへ。


 指定した場所へ来てほしいこと。


 一対一で戦いたいこと。


 自分が怪人であること。


 そして――。


 そこで、ペンが止まった。


『私を倒してほしい』


 その言葉だけは、書けなかった。


「…………」


 紀人に。


 自分を殺してくれと。


 文字にして突きつける。


「……違う」


 サクラは首を振った。


 そんなことを書けば、紀人は最初から本気では戦わない。


 もしかすると、戦うこと自体を拒むかもしれない。


「それじゃ意味ないじゃん」


 勝手なことを言っている。


 自分でも分かっていた。


 それでも。


 最後くらい。


 いつものように戦いたかった。


 道場で何度もやってきたように。


 サクラと紀人として。


 真正面から。


 ただ、どちらが強いか。


 それだけを考えて。


「……これでいい」


 サクラは書き直した。


 余計なことは書かない。


 一騎打ちを申し込む。


 場所。


 時間。


 逃げるな。


 必ず来い。


 最後に。


『決着をつける』


 そこでペンを止めた。


「…………」


 我ながら、ずいぶん偉そうな文章だった。


「まあ……私だし」


 少しだけ笑った。


 怪人になってから。


 初めて、以前の自分らしいことをした気がした。


     ◇


「でも……」


 書き上げた紙を見て、サクラは気づく。


「これ、どうやって渡すのよ」


 紀人の家へ行く。


 無理。


 道場へ行く。


 もっと無理。


 誰かに届けてもらおうにも、この姿を見られる。


「……駄目じゃん」


 額を押さえようとして、異形の手が目に入った。


 途中で止める。


「何やってんの、私……」


 せっかく書いた果たし状を見つめる。


 その横に置かれたスマートフォン。


「……あ」


 紙で届ける必要はない。


 キッドは怪人と戦っている。


 なら。


 怪人の情報を扱っているところへ送れば、ひょっとしたら届くかもしれない。


 サクラは検索を始めた。


 警察。


 怪人。


 目撃情報。


 情報提供。


 いくつかページをたどり、その中の一つで指が止まる。


「……ここなら」


 本当にキッドまで届く保証はない。


 途中で悪戯だと思われるかもしれない。


 普通の警察官が読んで終わる可能性だってある。


 それでも、ほかに方法はなかった。


 サクラは入力欄を開く。


『キッドへ』


 一文字ずつ打ち込んでいく。


 場所。


 時間。


 一対一。


 決着をつける。


 最後まで入力して。


 送信ボタンの上で指が止まった。


「…………」


 これを押せば。


 紀人が来るかもしれない。


 本当に戦うことになる。


 そして。


 その先に何が待っているかも、自分は分かっている。


 父親の顔が浮かぶ。


 母親。


 道場。


 空手着を着た自分。


 そして。


 紀人。


『何でそこで女が出てくるんだ?』


 あの時の、心底不思議そうな顔。


「……本当に腹立つ」


 サクラは少し笑った。


「だから……あんたがいい」


 指を下ろした。


 画面が切り替わる。


『送信しました』


「…………」


 サクラは、しばらくその文字を見つめていた。


 本当に届くかは分からない。


 キッドが読むかも分からない。


 紀人が本当にキッドなのかも、本人に確かめたわけではない。


 でも。


 来てくれたなら。


 全部分かる。


 あの動きを。


 真正面から見れば。


 絶対に間違えない。


「……来てよ」


 静かな廃屋に、小さな声が落ちる。


「紀人」


 サクラはスマホを伏せた。


 怪人になった手を、ゆっくり握る。


 今はまだ。


 自分の意思で拳を握れる。


 自分が誰なのかも分かっている。


 なら。


 その間に。


「最後に……ちゃんと戦おう」


 もし紀人が来てくれたなら。


 自分の願いは。


 きっと――叶う。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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