第1話「最大の悲劇」
『ビーストギア Another』
第三篇「メモリー予想スレを目撃する紀人」
第1話「最大の悲劇」
「…………ん?」
紀人の指が止まった。
スマートフォンの画面。
そこに、見覚えのある文字があった。
KID。
「…………」
別に珍しくはない。
だから。
何となく開いた。
「…………」
動画だった。
「…………」
KIDが飛んでいた。
オニヤンマのメモリーで。
それはもう。
楽しそうに。
「…………」
紀人は画面を見る。
再生数を見る。
もう一度。
再生数を見る。
「…………桁、多くない?」
嫌な予感がした。
だが。
コメント欄を開いた。
◇
【めちゃくちゃ楽しそうで草】
【完全に遊んでるwww】
【性能確認とは】
【最初はちゃんと試してるんだよ】
【途中から明らかに楽しくなってるwww】
【旋回し始めた辺りから怪しい】
【その後完全に遊んでる】
「…………」
紀人は動画を見る。
画面の中の自分が飛ぶ。
曲がる。
また飛ぶ。
ちょっと速く飛ぶ。
「…………」
【絶対目的忘れてるだろwww】
「忘れてねえよ」
【子供かwww】
「性能確認だよ」
【楽しそう】
「性能確認」
【めっちゃ楽しそう】
「…………性能確認」
画面の中のKIDが。
明らかに。
もう一周した。
「…………」
【もう一周したwww】
「…………」
【完全に遊んでるwww】
「…………ちょっと楽しかっただけだよ」
負けた。
◇
次。
ノミ。
「…………」
紀人の表情が曇った。
「これもあるのか……」
頭部が変化する。
画面の中の自分が鏡を見る。
『…………』
【止まったwww】
【本人もこれは違うって顔してるwww】
【鏡見るなwww】
『…………』
もう一度見る。
【二度見www】
「いや、見るだろ!」
紀人が思わずスマートフォンへ反論した。
「自分の頭がこうなったら確認するだろ!」
【テンション下がりすぎwww】
【オニヤンマの時との落差よ】
【見た目って大事なんだな】
「大事だよ!」
【KID、性能より見た目派説】
「性能も見てるわ!」
【でもこれ絶対気に入ってない】
「…………」
紀人は画面の中のノミ頭部を見る。
「…………まあ」
一拍。
「それは否定しない」
◇
次。
ヒクイドリ。
頭。
「…………」
紀人の表情が少し変わった。
画面の中のKIDも鏡を見る。
【また鏡www】
「確認だよ」
正面。
【めっちゃ見てる】
「確認」
横。
【角度変えたwww】
「全体を見るためだよ」
反対。
【反対もwww】
「必要だろ」
もう一度。
正面。
【気に入ってて草】
「…………」
【ノミとの差www】
「…………」
【KIDこういうの好きなんだな】
「いや」
紀人は画面の中の自分を指差した。
「だって格好いいだろ」
【これは実際かっこいい】
「だろ?」
【ヒクイドリ頭は当たり】
「分かってるじゃん」
そして。
一つの書き込みが流れた。
【なんか恐竜みたいで格好良いよな】
「――分かってるね!!」
紀人が勢いよく身体を起こした。
「そうなんだよ!」
画面を指差す。
「ここ!」
頭部。
「この形!」
「ヒクイドリなんだけど、普通の鳥って感じじゃないんだよ!」
【ちょっと恐竜モチーフのヒーローっぽい】
「そう!!」
膝を叩く。
「それ!!」
「恐竜モチーフのヒーローみたいなんだよ!」
当然。
相手には聞こえていない。
「この頭の上の感じとか!」
「ちょっと兜っぽく見えるだろ!?」
【横から見るともっと恐竜っぽい】
「そうなんだよ!!」
画面の中のKIDが、ちょうど横を向く。
「ほら!!」
誰に見せているのか。
「この角度!」
「ここ格好いいだろ!?」
【分かる】
「分かるよな!」
【怪獣系にも見える】
「それも分かる!」
【こういう強化フォームありそう】
「そう!!」
紀人のテンションが、さらに上がる。
「分かってるね!!」
「そうなんだよ!」
「普通の鳥系じゃなくて!」
「恐竜とか怪獣とか、そっちの――」
「…………」
止まった。
「…………」
静かな部屋。
「…………」
スマートフォン。
「…………」
紀人。
「…………」
一人。
「…………俺」
一拍。
「誰に熱弁してんだ?」
当然。
誰にも聞こえていない。
「…………」
紀人は、そっとスマートフォンを置いた。
「落ち着こう」
「…………」
三秒。
「…………」
また持った。
【これなら鏡何回も見るの分かるわ】
「…………」
紀人の口元が少し緩む。
【俺でも見る】
「…………だよな」
【KID相当気に入ってるだろwww】
「…………」
少し考える。
「まあ」
頷いた。
「気に入ってるけど」
◇
次。
「…………」
紀人の笑顔が消えた。
コブラ。
脚。
「…………あ」
【来た】
【伝説】
【コブラ脚www】
「…………これは飛ばそう」
次へ。
押す。
つもりだった。
『よし』
「…………」
再生が始まった。
「何で!?」
◇
画面の中。
脚へ。
コブラ。
変化。
足が消える。
『…………』
【wwwwwwww】
「…………」
『…………あれ?』
【本人困惑www】
『尻尾は!?』
【知らんがなwww】
【ないwww】
【蛇だからな】
「尻尾はあるだろ!」
紀人が画面に反論する。
【でも出てないぞ】
「それは知ってるよ!!」
画面の中の自分が立とうとする。
倒れる。
【立つなwww】
もう一度。
倒れる。
【だから無理だってwww】
また。
【学習しろwww】
「うるさい!」
【足ないんだぞwww】
「分かってる!」
【何で立とうとするんだwww】
「いつもの癖だよ!」
【KID頑張れ!】
「何を!?」
【立て!】
「無理だよ!!」
【諦めるな!】
「お前さっき立つなって言っただろ!!」
「…………」
紀人が止まった。
「…………」
コメントは。
別々の人間だった。
「…………俺」
一拍。
「また会話してる……」
◇
そして。
画面の中の紀人が。
ようやく気づく。
『…………寝たまま交換すればよくない?』
【気づいたwwww】
【おせえwww】
【長かったwww】
【正解!】
「…………」
紀人は少しむっとした。
「最終的には自力で解決しただろ」
【足って大事だな】
「…………」
【当たり前だwww】
「…………そうだな」
反論できなかった。
◇
「もういい」
紀人は次へ。
「これ以上は――」
「…………」
止まった。
ヒクイドリ。
腕。
「…………」
一拍。
「いや」
画面から目を逸らす。
「これは駄目だ」
見るな。
「絶対駄目だ」
閉じろ。
「…………」
閉じればいい。
「…………」
紀人は再生した。
「何で押したんだ俺!!」
◇
『おおっ!』
翼。
『やっぱり翼じゃん!』
【おお】
【翼だ】
【ちっさ】
「早い早い」
まだ。
自分が言っていない。
そして。
画面の中の紀人が。
右。
左。
右。
『…………小さっ!!』
【wwwwwwww】
【本人も同じ感想www】
【第一声それwww】
【かわいい】
「…………」
ぱた。
ぱたぱた。
【飛ぶのか?】
『…………いや、そもそもヒクイドリ飛べないじゃん』
【気づいたwww】
【知ってたんかいwww】
【じゃあ何で試したwww】
「翼が見たかったんだよ!」
【頭は格好良かったのにな】
「そうなんだよ」
【腕はかわいい】
「求めてた方向が違うんだよ」
【ぱたぱたしてるwww】
「…………」
そして。
紀人は思い出した。
「…………待て」
この後。
「そこで切れ」
動画。
『まあ、戻すか』
「切れ」
『…………』
「切れって」
ぱた。
「やめろ」
ぱたぱた。
「やめてくれ」
『…………小さっ!!』
【二回目www】
「うわ……」
翼をベルトへ伸ばす。
【あれ?】
【届かなくね?】
「言うな」
ぱたぱた。
【届いてないwww】
「言うなって」
『そもそもベルトに届かないじゃん!!』
【wwwwwwwwwwww】
「うわああああああ!!」
◇
だが。
地獄はここからだった。
『伸びろ!』
【伸びません】
『伸びろって!』
【無茶言うなwww】
『鳥だろ!』
【ヒクイドリです】
「…………」
『翼だろ!』
【翼ではあります】
「…………」
【KID VS ヒクイドリ】
「戦ってねえよ!!」
【ヒクイドリ何も悪くなくて草】
「分かってるよ!」
『何ができるんだよ!!』
【キレたwww】
「…………」
【完全に八つ当たりwww】
「…………ごめん」
なぜか。
紀人はヒクイドリに謝った。
◇
そして。
コブラ。
『これを胴に入れれば――』
「…………」
画面の中の紀人が止まる。
【あ】
【手】
【ないな】
『…………どうやって入れるんだよ』
【wwwwww】
【詰んだwww】
【先に入れとけよwww】
「その予定だったんだよ!」
【順番逆じゃね?】
「分かってる!」
『順番!!』
【本人も気づいたwww】
『先にコブラだったあああ!!』
【wwwwwwww】
【何で先にヒクイドリ入れたんだよwww】
「…………」
紀人は画面を睨んだ。
「…………翼」
【翼見たかったんだろ】
「…………」
紀人が固まる。
【絶対そう】
【頭気に入ってたし】
【こいつ見た目に弱いからなwww】
「…………」
一拍。
「何で分かるんだよ!!」
◇
まだ。
終わらない。
画面の中の自分は。
小さな翼で必死に。
ぱたぱた。
『伸びろ!』
「…………」
『頑張れ!』
「…………」
『あとちょっと!』
「…………」
そして。
画面の奥。
一人の女性が近づいてくる。
「…………」
東。
顔までは。
はっきりと分からない。
【誰?】
【女の人?】
【知り合いっぽい】
【上司?】
【上司www】
【KIDの上司きたwww】
【終わったなKID】
「…………」
紀人は少し考える。
「上司……」
「…………」
「まあ、間違ってはいないか」
【めっちゃ怒られてるwww】
【返事だけ良くて草】
【はい! はい! ってwww】
【上司つよい】
【顔見えないな】
【誰なんだろ】
【KIDの監督役とか?】
「…………」
身元までは分かっていない。
そこには少し。
ほっとした。
だが。
次の瞬間。
『何で、あんな小さい翼で必死にベルト触ろうとしてたの?』
「…………」
紀人の顔が固まった。
『戻そうとしてたんです!』
『届いてなかったじゃない』
【wwwwwwwwww】
「…………」
【上司容赦ねえwww】
『それは俺が一番分かってます!』
【wwwwww】
『「伸びろ!」って』
「…………」
【そこから見られてたのかwww】
『そこから見てたんですか!?』
【KIDかわいそうwww】
『「鳥だろ!」とも言ってたわね』
【全部聞かれてるwwww】
「…………」
紀人は。
無言で。
スマートフォンを伏せた。
◇
「…………」
静寂。
「…………」
もう見ない。
「…………」
絶対に見ない。
「…………」
三秒。
「…………」
紀人はスマートフォンを裏返した。
「何でだよ!」
自分で。
自分に怒った。
◇
再生数。
「…………」
多い。
更新。
「…………」
増えた。
「…………」
もう一度。
更新。
「…………」
また増えた。
「増えるなよ……」
更新。
「増えるなって!」
増える。
「頼むから忘れてくれ!!」
当然。
誰にも聞こえていない。
◇
「…………でも」
紀人は、ふと止まった。
なぜ。
これが映っている。
オニヤンマ。
ノミ。
ヒクイドリ。
コブラ。
そして。
ヒクイドリの翼。
「…………」
全部。
共通している。
「KID……」
変身していた。
「…………」
一拍。
「まさか」
紀人は過去の動画を確認する。
「…………」
一つ。
「…………」
二つ。
「…………」
三つ。
「…………」
顔から血の気が引いていく。
「KIDに変身してる間……」
「…………」
嫌な結論。
「ずっと配信されてたのか……?」
「…………」
オニヤンマで遊んでいたのも。
ノミを見て。
露骨に嫌そうな顔をしたのも。
ヒクイドリ頭部を。
何度も鏡で見たのも。
コブラ脚で。
七転八倒したのも。
小さな翼へ。
「伸びろ!」
と。
本気で叫んだのも。
「…………全部?」
全部。
「…………」
紀人は両手で顔を覆った。
「うそだろ……」
◇
昨日まで。
紀人は思っていた。
東には見られた。
かなり恥ずかしかった。
でも。
それだけ。
他には誰も知らない。
だから。
終わった話。
「…………」
終わっていなかった。
動画。
切り抜き。
コメント。
再生数。
「…………」
更新。
増える。
「やめろ」
更新。
増える。
「やめろって」
更新。
増える。
「何でまだ増えるんだよ!!」
最大の悲劇は。
すでに。
始まっていた。
◇
「もう見ない」
紀人はスマートフォンを置いた。
「絶対見ない」
今度こそ。
「二度と見ない」
決めた。
「…………」
一分。
「…………」
スマートフォンを手に取る。
「いや」
これは。
違う。
「変な情報が広まってないか確認するだけだから」
確認。
大事。
紀人はKIDについて検索する。
「…………」
そして。
見つけた。
【次にKIDが使うメモリーを予想するスレ】
「…………」
紀人は。
じっとタイトルを見る。
「…………」
もう一度。
読む。
「…………俺の」
一拍。
「俺のメモリーを、何でお前らが予想してんだよ」
「…………」
開くな。
絶対に。
ろくなことにならない。
「…………」
紀人の指が動く。
「…………」
開いた。
「見るだけだから」
その言葉に。
説得力がないことだけは。
この数日で。
嫌というほど。
証明されていた。
――第三篇 第1話 了。
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※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。
物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。
本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




