安定 ラッキースケベと悪夢
手榴弾を投げる。ジャスト!すぐさま伏せる。安全ピンの抜かれた手榴弾は数秒後、爆発し鬼の頭を粉々に破壊した。効き目は抜群。Bチームのソウが感嘆の声を漏らす。
「やるな。」
D地区へと来ていた。朝、いつもの場所に集まりシェルターを出ると、バスが一台用意されていた。観光用だ。皆で乗り込む。バスの運転は武装した大人だ。セイ曰く、討伐隊唯一の生き残りらしい。セイがどしりと当たり前のように隣に座る。
「セイも行くの?」
「行かないとユキを守れないからね。」
あの約束は今も続いているらしい。戦いに慣れてきた僕は、そんな心配いらないのにと思った。バスが発進する。A地区を抜け、C地区に少しかすり、D地区へ。大型電気屋の前で降ろされる。
「武運を祈ってるよ。ここで待機する。夜には出発するからな。夕暮れには戻ってこい。」
その声に押され、僕らはD地区の掃討作戦を開始したのだった。あんなことを言っていたが、セイはすぐどっかに行ってしまった。そして来て早々、動かないタイプの鬼を発見し、手榴弾を僕が投げたのであった。粉々になった鬼の角を剥ぐ。あの威力の中でも、角は破壊されなかった。
「駅ビルに入りましょう。鬼が潜んでいるかも。先陣を切るわ。」
「後ろからついていくよ。任せた。」
僕らAチームが先導する。駅ビルの中は静かで、入り口には枯れた花の置かれた、花屋さんがあった。切り花はだめだが、植木鉢の方はまだ元気だ。鮮やかな赤い花が目についた。カーネーション。僕は思い出していた。母の日にカーネーションの切り花を送ったこと。お小遣いをためて、初めて母さんにプレゼントした。母さんは泣いて喜んだ。父さんに頭をなでられる。感触をまだ覚えている。さみしさを思い出した。僕は自分の頬を叩き、意識を鬼に集中した。雑貨屋を通り過ぎ、パン屋の前。少し匂うなと意識がつられた時、それは飛び込んできた。ヒナタが盾を構え、とっさに前に出る。鬼の一撃を受け止める。ガンっという音が響く。ケイトが銃を抜く。僕は距離を置いて背中に吊っている銃に手を伸ばした。ケイトが銃を撃つ。ダダダと鬼の体にヒットした。鬼がケイトに意識を向ける。ケイトが通路に鬼を連れ出す。Bチームは鬼を認識しただろうか?突然、
「背後!」
ヒナタが叫ぶ。僕は後ろを振り向く。鬼がもう一匹いた。僕は雑貨屋の中に逃げ込んだ。鋭い爪による攻撃を避ける。棚に大きな切り傷ができた。僕は急いで銃を取り出し、顔を狙った。ダダダ!鬼の目に当たる。鬼が怯んで立ち止まる。そこにソウが斧を鬼の頭に向かって振るう。ぐちゃっ。脳髄が飛び散る。僕はそれを浴びた。腕で汚れた頬を拭う。赤い。
「そっちはどうだ?」
「倒した!」
ケイトの方もうまくやったらしい。コウイチが鬼の首をソウに見せるのが見えた。ソウが角を剥ぐ。
「連携プレーの勝利だ。」
その後も順調に鬼を狩っていった。駅ビルのカフェにたまっていた鬼、映画館の暗がりに潜む鬼、路地裏の暗がりに潜む鬼。主に暗闇の中に鬼はいた。駐車場で立ち尽くす鬼に、二度目の手榴弾を投げた頃、夕暮れが訪れた。
「そろそろ戻ろう。」
ソウの提案にケイトが、
「もう一匹ぐらい狩っていきましょう。」
ソウが頷く。
「わかった。後一匹だけ。」
近くの建物に入った。雑居ビル。一階の扉を開ける。暗い。電気はついていなかった。ヒナタが小声で
「あそこ。」
大量の荷物が積み重ねられている隙間に鬼は居た。ケイトが銃を構え撃つ。胴体に当たった。鬼が飛び出してくるが、予想外に僕の方に飛んでくる。僕は剣を抜いて受け止める。
「Bチーム!」
叫んだ。コウイチの高周波ブレードが背後から飛んでくる。腕がすぱりと切れる。外した!?鬼が素早く身を翻しコウイチにとびかかる。僕は剣を横に薙いだ。鬼の首が地面に転がり、ボトっと宙に浮いた体は地面へと落ちた。
「助かったよ。」
コウイチが緊張した顔で言った。
「良かった間に合って。」
「もう、帰ろう。十分やった。」
ソウの一声で皆がバスに向かう。バスには既にほかのチームが帰っていて、僕らは最後だった。バスに体を預けたセイが僕に駆け寄る。赤く染まった頬をなでる。
「怪我した?」
「汚れただけだよ。」
「出番なかったなー。」
「見てたの?」
「時々ね。」
セイとともにバスに乗り、バスが出発する。シェルターに着くころには、すっかり夜になっていた。月がまあるい。
「月がきれいですね。」
セイが言った。
「聞いたことがあるやつだ。愛してるって意味だっけ?」
「返事。何か返してほしいな。」
「・・・星もきれいだよ。」
セイが空を見上げる。
「本当だ。」
シェルターの中に戻ると、それぞれのチームが大量の角を出した。
「うむ、欠けた者もおらず角も大量。よくやった。良く休むといい。報告書を忘れずにな。」
ケイトが報告書をソウと書いてくるといったとき、ヨウも一緒に行くといった。三人を見送って、食堂に向かう。セイと共に席に着くと、久しぶりにアオイが正面の席に座った。
「ユキのチームはどうだった?」
「順調だったよ。最後だけ危うかったけどね。コウイチが鬼を仕留め損ねて、やられそうになった。」
「高周波ブレードの子だよね。すごいよね。あんな大きなものを操れちゃうなんて。」
「本当にね。他の誰も、持ち上げるのさえつらい子もいたのに。」
「私のチームはね、学校を回ったんだけどね、体育館の倉庫に鬼がぎっしりいてね、虫かってのよ。それで頑張ってつり出さなきゃ狭いとこでは戦えないじゃない。一人銃での狙撃のうまい子がいてね、その子がうまく釣りだしてくれたの。」
「へー。銃で倒せそうだった?」
「うーん。さすがに厳しいみたい。ねえ、指見して。」
「いいけど。」
アオイに指を見せようとして差し出す。アオイは僕の指をつかみ、まじまじと見る。セイがストップをかけた。
「終りょーう。そこまで!」
不機嫌そうなセイ。
「ああ、ごめんねセイさん。ただ武器だこができてないか確認したかっただけなの。」
「武器だこって?」
「私のチームの子が、武器だこ出来たって言っててね。斧使ってるんだけど、確かに指にタコがあって。他の子もできてるのかなーと思って。ユキの手はきれいだね。安心したよ。頑張りが足りなくて、タコが出来てないとか思っちゃった。」
ちらりとセイの方を見る。セイが指を広げる。きれいなもんだ。
「癖とかのせいなんじゃない。あるいは出来やすい体質か。」
「そうかもね。あ、もう戻らなきゃ。ごちそうさま。じゃね、ユキにセイさん。」
「うん、また。」
アオイが去ると、セイが僕の正面に座りなおす。
「指貸して。」
「うん。」
指を差し出す。
「顔、赤くなってた。気になる?」
「そ、そんなんじゃないよ。アオイはただの先輩だから。そりゃ、女の子に手を触られる機会なんて無いけどさ。」
「ふーん。」
セイは不満そうだ。指をセイの指で弾かれ、ひっこめる。
「あ、そうだ。ヒナタに借りた本返さなきゃ!また後でな。」
僕はいそいそと食堂を出た。一度部屋に戻り本を取ると、一般区画にあるヒナタの部屋を訪ねた。ノックして入る。誰もいない。首を傾げ、机の上に本を置く。出ていこうとすると、
「マリモちゃーん。」
そう言って抱き着かれた。柔らかい胸が背中に当たる感触がわかった。振り向くと目が合う。ヒナタは驚いているようだった。シャンプーのいい香りがした。ヒナタが距離を取る。全裸だ。この女子全裸で出て来やがった。ヒナタがしゃがみこんでしまう。僕はすぐさま後ろを向いた。
「み、み、見てない。何も見てないから。」
「だ、だ、だよね。待っててね、着替えてくるから。」
ヒナタがすぐさま浴室に戻る。僕は、柔らかい胸の感触を意図せず思い出しながら待った。今、顔赤いだろうな。扉の開く音がする。
「あれ、ユキ兄ちゃん?」
「あ、マリモちゃん。ほ、本を返しに来たんだ。」
声が不自然に上ずる。それで、マリモちゃんは察したのか、浴槽に駆け込む。声がかすかに聞こえた。何を言ってるかまではわからない。
「ごめんねお兄ちゃん。ヒナ姉、おっちょこちょいだから。」
「だ、大丈夫だ。」
ヒナタがマリモちゃんと共に出てくる。マリモちゃんは、ヒナタと同室の年下女子だ。ヒナタと違って、しっかりしている。
「ヒナ姉、いつもああゆうことやってるから。」
全裸抱き着きを?とてもじゃないが、聞けなかった。
「本ありがとう。面白かったよ。」
「そ、そっか。よかった。お気に入りの本だから、同志が増えてうれしいよ。」
「じゃあ、僕帰るから。」
「う、うん。お休み。」
部屋に戻る。セイが、ソファでリラックスしていた。
「顔が赤いよ。どうしたの?」
「ちょ、ちょっと走って帰ってきたから。」
「?」
「風呂入ろうよ。」
「うん。」
浴槽の中につかると、セイが抱き着いてきた。ぺったんこ。何がとは言わないが。
「ユキ温かーい。」
「風呂だろ、温かいのは。」
風呂に入っていると、先ほどの緊張がほぐれていった。風呂から出て、ベッドで横になる。変わらずセイの腕の中。僕は、ふとソウコのことを思い出した。ソウコと腕を組むとき、意図せず胸が当たったものだ。その度、その柔らかさに驚愕し、顔を赤くしたものだ。ソウコは気づいていたんだろうか?ソウコとしたことと言えば、手をつないでキスをするまでだ。他のことはまだだった。だから、生の胸を見たのは、幼いころの母さんの胸が最後の記憶だった。ヒナタの胸は形がよくきれいだった。・・・色もいい。異性として、一気に意識する。また顔が赤くなる。セイの胸に顔を埋めた。勘違いしたセイが、ぎゅっと抱きしめる。ヒナタは、消極的な性格で奥ゆかしい。正直好みのタイプだ。腕を引っ張って、色んな所に連れて行ってやりたくなる。ソウコのクールビューティーな感じとはまた違っていた。無論セイとも違う。セイは積極的だ。少しおかしいとこがあるぐらいには、情熱的。そうだ、昔は控えめな子が好きだった。明るい友達の陰に隠れているような子がタイプだった。ヒナタとこれからどうやって顔を合わせればいいんだろう。ヒナタの胸の感触を再び思い出す。いつの間にか眠ってしまっていた。笑顔を向けるヒナタの顔があった。それに手を伸ばす。柔らかい。しかし、ぽろぽろと崩れ出す。気づくとヒナタは崩れていた。原型がないほどに。それに驚き手を離す。ヒナタと目が合った。苦痛に歪む顔がぽろぽろ崩れ、地面に落ちる。寒気がした。これは夢だという自覚はあった。しかし、どうも現実的な気がした。それが一層僕を寒くした。僕は寒かった。この世界の中心で崩れるヒナタを前に、一人だった。




