休息日 恋する少年
館内放送で今日は休みだと伝えられた。僕は、朝食の前にヒナタの部屋に行った。ヒナタはマリモちゃんと編み物をしていた。
「何か大事な用?」
「いや、そういうわけじゃないんだが。・・・何を編んでいるの?」
「マフラー。時期的に寒いでしょ。みんなに配ろうと思って。ユキの分もあるよ。」
「本当?嬉しいよ。どうやって編むんだい?」
「こうやって・・・。」
かぎ針を器用に動かして、編み目を一目編む。手際が良すぎてよく分からない。
「僕には難しいみたいだ。」
「そう?」
ヒナタが編み物を机に置く。立ち上がり、何かを探しに行く。ヒナタの恰好はスウェットだ。でも小さいのか、胸と尻が強調されている。そこに思わず目が行く。感触を思い出す。首を振る。
(意識しすぎだろ僕。恥ずかしい。)
「これこれ、あった!」
ヒナタが本を取り出す。大きい。ルールブック?
「それは?」
「TRPGのルルブだよ。今度皆でしようって約束してるから、ユキがキーパー役になってくれたらうれしいなって。」
「別に構わないけど分厚いね。」
「ルール以外にも、シナリオが数本乗ってるからね。魔女の館ってシナリオ、前に兄弟で遊んだことがあるんだけど、面白かったよ。シナリオが気に入らなかったら、アレンジしてもいいし、新規で作ってもいいんだよ。ユキ君のシナリオ、楽しみにしてるね!」
本を受け取って部屋へと帰る。何か用があったわけじゃないけど、なんだかもどかしいような、頼られて嬉しいような。すぐに朝食の館内放送が入る。セイは部屋にいなかった。食堂に一人で向かう。席に座ると、ケイトが正面に座った。
「珍しくセイさん居ないのね。」
僕は頷いた。どういう理由で彼はどこに行ったんだろう?
「ねえ、一緒に訓練しない?申請は私の方で出しておくから。」
「何の訓練をするの?」
「手榴弾の投げ方でしょう、それから銃の正確な当て方。」
「手榴弾のコツは教えてあげられそうだ。」
「銃もうまいわよね。鬼の顔に何度か当ててた。」
「まぐれかも。」
「ユキには才能があるのよ。」
頭をかく。才能だなんて大げさな。少し照れる。
「いいよ。訓練しよう。僕ももっと上手くなりたいし。」
「決まりね。食べ終わったら行きましょう。」
結局セイは食事にも表れなかった。僕はケイトと訓練室に行く。そこにはソウとヨウがいた。二人はぴったりくっついて、くっつきすぎなくらい。的に向かって銃による訓練をしていた。ソウが僕らに気づく。
「やあ、ふたりとも。休日なのに訓練かい?精が出るね。」
「もう、お兄ちゃんと二人きりだと思ったのに!」
ヨウがすねる。それをソウがなだめる。
「まあまあ、訓練は人手が多い方が、競争心からはかどるし。」
「じゃあ、どちらが正確に的を射れるか競う?」
「いいわよ。お兄ちゃんに教わった私は強いんだから。」
「こっちにはユキがいるからね。実践経験は抜群よ!」
「僕がやるの?」
「だってあたしじゃまだ、正確に当てられないし・・・。任せたわ。」
そうして、ヨウとの一騎打ちが始まった。的は電気で上下したりする。サイトをよく覗き、的を撃ちぬく。きれいに当たった。
「もう、上手く当たんないよお兄ちゃん!」
ヨウの銃撃は見事に的の端に当たって、逸れる。
「こうやってやるんだよ、ヨウ。」
ソウが銃を受け取り、撃つ。的のド真ん中に当たる。
「すごいなソウは。僕でもさすがにド真ん中は難しいや。」
隣でケイトが銃を撃つ。弾丸は当たらない。
「普通は、ケイトみたいなもんじゃないのかな。」
「昔から、弓道をやっていてね。こういうのは得意なのかもしれない。」
「お兄ちゃん、弓道で全国一位なんだから!」
「それはすごいや!それでシェルターに招待されたの?」
「そうだね。ヨウは、アイススケートのトップランカーなんだよ。」
「体の柔らかさとかなら自信あるんだけどね。ユキは何で招待されたの?」
「僕、僕はそもそも、セイの個人シェルターに監禁されてて。」
「監禁!事件じゃない!」
「あはは。まあ、今は仲良くやってるから。やんやかんやあって、ここに来た。」
「ある意味運がよかったんだね。」
「素晴らしく運があるとはここに来た時に言われたけどね。」
「やった!ユキ。的にあたったよ!」
ケイトの方を見ると的の端の方に穴が開いていた。
「すごいじゃんケイト。この調子なら、ド真ん中に当てられる日も遠くないよ。」
「ようし!張り切っちゃうぞー!」
双子とケイトとワイワイ銃の練習をした。おかげで前よりも、銃が手になじむ感じがする。
「だいぶ腕が上がった気がする。」
「おかげでもうこんな時間だよ。昼食抜いちゃったね。」
訓練場にある時計は、夕方の五時を指していた。
「お腹空いたよお兄ちゃん。」
「食堂で、お菓子でも貰ってこようか。ユキとケイトもいるかい?」
「僕は大丈夫。」
「あたしも。もう少し訓練するから。」
二人が訓練室を後にする。ケイトが金属のボールを持ってくる。
「次はこれね。」
床に貼られたテープめがけて、ケイトがボールを投げる。飛びすぎた。
「ねえ、ケイト?」
再びボールを投げる。今度は届かない。
「何?」
「好きな人っている?」
ケイトがもう一度投げる。
「いた。が正しいかな。今回のことで死んじゃった。」
ボールはなかなか届かない。
「音響兵器で?」
「そう。付き合ってたんだけどね。特に秀でたところのない人だったから。」
ボールが飛びすぎる。
「僕も彼女がいた。でも今は・・・。」
「今は?」
「・・・ヒナタのことが気になるんだ。」
ボールがテープの上に重なる。二十メートルのライン。
「この感覚ね。・・・いつからなの?」
「昨日いろいろあって、それから気づいた。ヒナタは僕にとって魅力がありすぎるって。」
「セイには言ったの?」
「言えてない。まずいかな?」
「セイ、あんたに夢中でしょ。刺しかねないんじゃない?」
初めて出会ったときのことを思い出す。
「やばいな。」
ボールが再び、二十メートルのラインに到達する。
「まあ、胸の内に秘めておきなさいよ。今はね。」
「うん。」
「どちらにせよ、今は恋なんてしてる暇ないでしょ?次はC地区だろうし、強いのがいるっぽいし。」
セイとの会話を思い出す。
「二本角。」
「え?」
「二本角がいるって、セイが。」
「二本角ね。もしかしたらそれが・・・。」
「それが?」
「私たちを閉じ込めている元凶かもね。」
ツミは悩んでいた。D地区での作戦は成功だった。しかしそれが、C地区での作戦が上手くいく補償にはならないとわかっていた。隊長がコーヒーを入れてやって来る。
「D地区は、大丈夫そうだ。さっき、先遣隊が帰ってきた。」
「C地区の様子はどうだ?」
「相変わらず、二本角が居座っている。周囲には、多くの鬼も確認されている。どうするつもりだ?」
「・・・。」
ツミは再び、思考の海に沈んだ。なかなか浮上してこない。
「まあ、先遣隊はいつでも出せる。セイの方も準備はいつでもできていると言っていた。」
「二本角。」
「うむ。」
「二本角を優先的に狙わせよう。CからKチームで周囲の鬼の掃討、AとBチームは二本角の気を引く役。本命にセイを投入する。」
「先遣隊はどうする?」
「温存。少なくとも、C地区の周辺で待機。」
「投入した方が全体の生存率が上がるんじゃないか?」
「わかっている。とはいえ、無駄死にさせるわけにもいかない。他のシェルターとの連携に必要不可欠だ。兵はほとんど切って使ってしまったからな。」
「ここの近くに二本角が出たのが運の尽きだったな。まあ、やってみようじゃないか。次の代は順調に訓練しているんだ。多少の犠牲はまだ受け止められる。」
ツミは冷め始めたコーヒーを受け取ってすする。
「もしも上手くいかなかったら、セイだけでも回収しよう。」
「駄々こねるぞ、あいつ。」
「無理やり気絶させてでも連れ帰れ。あいつは、これから先の戦いにおいても必要不可欠だ。居れば他のシェルター相手に、有利に立てる。」
「まあ、薬品の用意はさせとくよ。」
隊長が部屋を出る。ツミはモニターを付けC地区の様子を確認する。二本角が、酒を煽りながらカメラをにらみつけていた。
食堂。ユキは隣に来たセイに尋ねる。
「D地区の確認?」
「そうだよ。鬼の掃討は済んだ。今日は何してたの?」
「訓練だよ。銃の扱い方を復習してた。」
「そう。」
ヒナタのことを、つい目で追ってしまう。ヒナタはマリモちゃんと仲良さそうに食事をとる。
「ふーん。」
セイが僕の前に顔を出す。僕はセイのことをまじまじと見た。
「気に入っちゃったの?」
「気まぐれだよ。」
「嘘。」
「・・・。」
僕はセイから顔をそらして、食事に集中する。
「許してあげるよ。」
顔を思わず上げる。目が合った。
「どうせ、短い命だしな。」
「どういう意味?」
セイは答えなかった。一緒に風呂に入り、眠る。この男のことが、まだまだ掴めずにいた。
(慣れたつもりだったんだけどな。)
腕の中で寝返りを打つ。金髪が鼻にかかっていた。寝息に合わせて、揺れる。
(だいぶ髪が伸びてる。)
髪を撫でつける。彼のことがもっと好きになれたらいいのにと思った。その方が誠実でずっといい。指輪をなでる。
翌朝。
館内放送が鳴り響く。
「朝食後、討伐隊は会議室に集合するように。」
朝食を食べに食堂へ。やっぱり僕は、ヒナタを目で追ってしまう。それに気づいたヒナタが手を振る。ヒナタは僕の恋心には、気づいていない。僕は、手を振り返し、急いで食事を終わらせ、一番に会議室に行った。
「まだ誰も来てないね。」
セイが言った。
「うん。」
「犠牲者はどのくらい出るだろう。」
「縁起でもない。」
「ヒナタが生き残るといいね。」
「・・・。」
続々と、食事を終えた討伐隊のメンツが集まって来る。最後に隊長が入ってきた。
「作戦会議だ。C地区の掃討に入ろうと思う。」
僕は唾を飲んだ。
「C地区には、二本角と呼ばれる鬼がいる。こいつは強力で、崩壊前には一瞬で、一つの空間にいる人々を惨殺できた。しかし、音響兵器のおかげで弱っている。今ならば、討伐隊で集中攻撃すれば、倒すことができるはず。」
隊長が皆の顔を見渡す。
「AとBチームで、セイが二本角を倒す支援をする。それ以外のチームは、周りにいる取り巻きの始末だ。」
「取り巻きって?鬼って、集団行動するんですか?」
「二本角は取り巻きを作って、操る習性がある。通常は個別で動く鬼だが、二本角の周辺にいるのは話が違う。連携してくる。」
会議室が一瞬ざわめく。やはり、大人たちは重要なことをギリギリで言ってくる。
「今までの成果から、十分に二本角をやれると判断した。作戦は明日決行する。」
隊長が細かい説明をして部屋を後にする。皆思いつめた顔をして、部屋を出ていく。未知の戦いになる。皆察していた。僕はセイを一瞥して部屋を後にした。




