巨人 戦闘に慣れてきた僕ら
朝。セイの腕の中でいつもながらに目覚める。館内放送が鳴る。朝ごはんの時間だ。朝食を食べながら、ヒナタに話しかける。
「今日はB地区の掃討だけど、大丈夫?」
「・・・うん。頑張ってみるよ。」
セイの方を見ると、キラキラとした顔で待っていた。
「・・・頼りにしてるよ。」
「終わったら、デートでもしよう!」
「外出許可とか・・・あるしさ。」
「大丈夫!俺の特権使うから。」
僅かな不安を感じながらも、食事を終え、シェルター入口前の広場に集まる。
「今日はB地区の索敵と討伐だ。各々、鬼の不意打ちに気を付けるように。それから、Aチーム。」
Aチームと呼ばれてビクンとする。
「Aチームには特殊作戦を行ってもらう。解散したら隊長の元に集まるように。では解散!」
他のチームが次々に入り口から出ていく。Aチームの三人とセイは、隊長の元に集まった。
「特殊作戦とは何でしょう?」
ケイトが疑問を口にする。
「うむ、実はB地区には自衛隊跡地がある。我々はそこの資源を現在欲している。しかし、そこには少々厄介ごとがあるのだ。」
隊長が、タブレットを取り出す。それを我々に見せる。そこには立派な一本角を生やしたデカい鬼がいた。
「こいつは?」
「通常よりも大型のターゲットだ。我々は巨人と名付けた。」
(安直だな。)
「巨人を倒すんですか?」
ケイトが聞く。
「まだまだ新米の君たちだ。何も倒せとは言わない。君たちにはセイをサポートしてほしいのだ。セイの戦い方から、学ぶこともあるだろう。」
それから盾を取り出し、ケイトに渡す。
「角は君たちで剥ぎ取って持って帰ってきなさい。以上だ、解散!」
横を見るとヒナタが固まっていた。そんなヒナタにケイトが盾を渡す。
「かなり頑丈だし、受け止めきれるでしょう。」
「む、無理です。私、出来ません!」
「任された以上やるしかないじゃない、腹くくりなさいよ!」
「そんな・・・。」
今にもヒナタは泣きそうだ。セイがフォローのつもりか、声をかける。
「俺が即効かければいいし、君は立って受け止めるだけでいいわけだし、最悪腕の一本で済むよ。」
ヒナタの顔がしわしわになる。フォローを入れる。
「腕の一本が飛ぶ前に、セイがどうにかしてくれるよ。」
「だと、いいんですけど・・・。」
外に出る。雪は降っていないが、道路には氷が張っていた。
「足元気を付けて!」
ケイトが注意を呼び掛ける。B地区は、A地区のすぐ隣だ。数分もせずに、B地区に入った。近くで他の隊が、動く鬼とやりあっているのが見えた。仲間の方の首が飛んだ。顔をそむける。
「行くわよ。」
ケイトの後について、慎重に歩く。ふと疑問が湧いてきた。
「動く鬼と動かない鬼の違いは何だろう?」
「こんな時に言う?」
ケイトに非難されて黙る。
「エネルギーが足りてるかどうかの違いだったりして?つまり、お腹が空いてるか、空いてないかみたいな。あはは。」
ヒナタがフォローするように言う。
「あながち間違いじゃないかもね。」
セイがまじめな顔してそう言った。
「だとしたら、今から相手する鬼がお腹が空いてるといいわね。」
B地区、自衛隊跡地が見えてきていた。確かに真ん中に何かいる。
「作戦!」
ケイトに視線が集まる。
「ヒナタがまず注意をそらしましょ。」
「で、出来ません!」
「やらなきゃダメ!注意がそれたのを確認したら、あたしとユキで、後ろから突っ込む。」
「それで?」
「攻撃するそぶりを見せたら退避。そうじゃなかったら、そのまま切る。」
「俺は好きにしていい?」
「ご自由に。じゃ、作戦開始!」
自衛隊跡地に着くと、ヒナタがもぞもぞしながら、盾をしっかりと構えなおし、敵の真正面に向かって行く。僕らは裏に回る。セイは傍観している。
「今のとこ反応なし。見えていないのかしら?視界には入っているはずだけど。」
一定の距離までヒナタが近づくと、突如巨人が咆哮をあげ、ヒナタに突っ込んでいく。
「反応あり!突っ込むわよ。後は臨機応変に。」
盾でそれを受け止めるヒナタ。僕とケイトが後ろから走って一気に近づく。間合いに入った。
(反応なし!)
剣を振り下ろす。が、急に巨人が腕を後ろに向かって振り上げる。
(間に合わない!)
「つっ!」
巨人の腕に弾かれて、僕は地面を転がる。ケイトは上手にしゃがんで躱してダガーを鬼の首に刺した。でも、浅かったのか、巨人はケイトを振り払い、距離を取る。首に刺さったダガーを投げ捨てる。
「どうした?」
「硬い!刃が通りきらない!」
一方ヒナタは地面の氷に足を取られ転んでいた。そこに鬼が飛び込んでくる。ヒナタは仰向けになりながら縮こまり、盾の中に身を隠す。激しい打撃がヒナタを襲う。
「た、助けて!」
僕はふらつきながらも巨人に向かい、腕に向かって剣を振り下ろした。勢いはあった。腕が切れる。と思いきや、途中で刃が止まる。確かに硬い。とっさに剣を離して、巨人の腕振りを逃れる。ケイトがその隙にヒナタを起こす。ヒナタはヨタヨタしながら立ち上がり、盾で下に下がっていた、巨人の頭を殴った。巨人が動きを止める。
「ナイス!」
そこにセイが飛び込む。斧で思い切り頭を叩く。頭が地面に激突する。見た目以上にセイには力があるらしい。何度も頭を叩いた。硬い肉が、だんだんと殴打に耐えられず、血を吹き出しながら、裂けていく。腕が何かしようともがくのを見逃さず、突き刺さった剣を、引っこ抜いて、腕肉と共に地面に突き刺した。最後に一発斧を振り下ろす。頭はすっかりぐちゃぐちゃで、巨人は動かなくなった。
「角を。」
セイの言葉に、ケイトがダガーで角を剥ぐ。相変わらず固いらしく、しばらく時間がかかった。その間に僕はヒナタをほめる。
「すごいじゃないかヒナタ!君の一撃で巨人に隙ができたよ!」
「わわ、私、必死で・・・。必死だっただけなんです。」
「取れたわ。」
ケイトが大きくて立派な角を掲げる。
「やったな。」
「他の鬼を探しに行きましょ。」
「えっ、まだやるんですか?!」
「一匹でも多く狩れた方が後々楽よ。」
その言葉にヒナタと顔を見合わせる。でも、一番大きいのを狩った。
「時間には間に合わせよう。」
「行きましょ。」
その後、廃屋に鬼が一体いるのを見つけて、さっきので自信がついたのかヒナタが率先して誘い出す。隙のできた後ろを軽々僕が切る。そうして角をもう一本手に入れ、時間になった。帰り道。
「十分な成果を出せたわね。」
「だいぶ慣れてきたような感じがする。」
「そ、そうですね。強いの倒せましたもんね!私たちの手で・・・。」
「この調子なら、シェルター外生活も夢じゃないかも。」
「あまり調子には乗りすぎないことね。上の人たちは私たちにあまり情報をくれないし。」
「それもそっか・・・。より強いのを確認しているかもしれないもんな。」
沈黙。
「で、でも、私たちも力をつけていますから。きっと順調に行けますよ!」
シェルター入口前広場。帰ってきたのは・・・
「二割の優秀な戦士。」
隊長がつぶやく。六割から二割。だいぶ減った。それでも今日を乗り越えた子がいる。
「巨人の角は?」
隊長がこちらの方を向いて聞く。ケイトが隊長に大きくて立派な角を渡す。
「上々。では、しばらく休息をしっかりととるように。」
隊長がそう告げると空気が緩む。残りの角を大人に預け、団体が食堂へと行く。プレートをもって席に着くと、館内放送が流れる。
「明日からは、十三歳以上のもので訓練を開始する。放送があり次第、訓練場に集まるように。」
放送が終わる。
「中学生も駆り出されるのか・・・。」
「明日は、B地区の確認作業だろうな。それが終わったら、デートしよう。」
隣で食べているセイを見る。
「本気?」
「マジ。許可を取って見せるよ。どこ行きたい?」
「どこ行きたいって言われても・・・。」
「B地区に、水族館があるはず。そこはどう?」
「じゃあ、そこで。」
「よぅし!お弁当も持ってこうね。」
セイは嬉しそうだ。僕はそんなことよりも、これから先のことを心配していた。戦士の数は順調に減っている。ケイトが言ったように、上の人たちはあまり情報をくれない。他にも強い敵のいる可能性も。不安は大きい。今回の帰還も諸手を挙げて喜べない。
「シェルターってここ以外にもあるの?」
「日本全国、一都市に一個から二個はある。」
ということは、ここ以外にも鬼の討伐隊は派遣されている可能性は高い。
「何とかして協力できないかな?」
「上が考えてはいるだろうさ。」
それもそうか。ちょっとお馬鹿な高校生が考え付くぐらいだ。隠ぺい主義なだけで考えていないわけがないか。いまだにその話がないということは、連携が取れない状況にあるのかもしれない。
「知らないことばっかりだ。」
もどかしい。
「そんなことよりも、デートのこと忘れないでね。」
セイはお気楽だ。
「わかった。」
ひとまず、肩の力を抜くことに決めた。張りつめていたら、疲れて何もできなくなりそうだから。その夜もセイの腕の中で眠りにつく。
翌朝。
セイを含めた先遣隊がB地区に出発する。その間僕はラノベの続きを読んでいた。お昼。館内放送で昼食を知らせる。食堂に行くとセイがいた。
「これから許可を取りに行くから。」
「うん。・・・本当に取れるの?」
「心配しないで。俺には特権がある。」
「特権って?」
「戦いの放棄。」
「えー。」
(それって効果あるのか?怒られるだけじゃ・・・。)
「とにかく心配しないで。ユキはデートの準備をしててね。」
「B地区の安全は確認できたの?」
「バッチリ!」
食事を終え、
「んじゃ、行ってくる。」
食堂を出て会議室の方にいくセイ。僕は部屋でセイを待つことにした。
ツミは、第二シェルターと連絡を取り合っていた。
「ではそちらはまだシェルター外活動ができていないと。」
「そういうことになりますね。できれば支援が欲しいです。」
「現在、A地区とB地区は掃討が完了していますが、それ以外がまだ厳しく、支援はできません。」
「では、せめて医療物資の支援だけでも。」
「後方支援部隊は派遣できそうか?」
後ろに振り向いて隊長に聞く。
「まだ厳しいな。銃の使い方を教えようとしているところなんだが。」
「そちらで、受け取り班の準備は?」
「・・・。」
「厳しそうですね。」
「パンデミックさえなければ・・・。」
そこに扉が開け放たれる。
「今、大事な通信中だ。」
モニターを見ながら来訪者に言う。
「デートがしたいんだけど。」
その言葉に横を見る。セイ。空気が読めない子だ。
「通信が終了してからに・・・」
「B地区の掃討が終わった今日がいい。外出許可を、俺とユキに。」
「何処に行く気だ?」
「水族館がB地区にある。そこに行ってデートする。」
思わずため息をつく。この子のことだ、譲らないだろう。
「夜になる前に帰ってきなさい。それ以上は譲らない。」
セイがガッツポーズする。
「ありがと、お父様。行ってきまーす!」
「やれやれ、のんきなもんだな、あんたの息子様は。」
もう一度ため息をつき、通信に向き直る。
「それで、どうします?」
「・・・受け取り班の準備をする。B地区で、物資の受け取りでどうだろう?」
「そこなら、後方支援部隊にもっていかせられる。それで。」
「協力感謝する。日程はあとで送る。」
通信が切れる。
「向こうさん、二本角をどうやって乗り越えるつもりだろうな?」
「予定通りに来なければ帰還させてくれ。ところで、自衛隊跡地の資源運び出しの予定なんだが・・・。」
「どうする?」
「BからCチームに手伝わさせる。先生の護衛もかねて。」
「わかった。手配する。・・・ケイトを参加させても?」
「Aチームの優等生か?何故?」
「手伝いがしたいと、申し出てきた。心証をよくしたいんだろう。」
「構わん。先遣隊は向かわせられないからな。強い人手はあってもいい。」
「先遣隊はC地区に?」
「いや、さきにD地区だ。Cは二本角が確認されている。その点Dに居るのは雑魚だけだ。今の残った戦士たちだけで犠牲を最小限に討伐ができるはず。」
「Dにはヘリコプターがあったな。飛行場がある。」
「使えるようにしておきたいところではあるな。ところで外国との通信は?」
「一瞬つながったときがあった。悪魔が出たとか叫んでたな。」
「向こうもやはり、無事ではないか・・・。」
「安全なのは、宇宙か、シェルター内だけだな。」
「宇宙も未知すぎて、安全とは言い難いな。」
そう言って、会議室を後にする。
セイはルンルン気分で部屋に戻った。ユキに許可が取れたことを伝えると、一緒に食堂に行き、無理を言って、夕飯を弁当として詰めてもらった。シェルター入り口前広場。
「デートの始まりだね!手をつなごう。」
手をつなぐ。僕らは入口に一歩踏み出した。外は晴れていた。午後一時のことだった。




